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第52話
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「それでは、私がお仕えしていたアルティナ様についてお話ししましょう」
カリントーは掴んでいた俺の手をさっと払いのけると、淡々と語り始めた。
「アルティナ様はご存知のとおり、全恥全能の神ギガセクス様の何番目かは分かりませんが娘でして、ギガセクス様よりたいそう可愛がられて、いえ、めちゃくちゃ甘やかされてお育ちになりました」
おい、最初からツッコミを入れたくなる所があるのだが。
「ギガセクス様がどれだけアルティナ様を可愛がられていたかを示すエピソードとして、アルティナ様がギガセクス様へ100個ものお願いをして、それら全てを叶えてあげたということです」
ひゃ、100個!? あのおっさん、どれだけ娘に甘いんだよ……。
「その100個のお願いというのは例えばどんなことなんだ?」
俺はちょっとした興味から聞いてみた。
「そうですね、いくつか有名なところでは……。自分に忠実なニンフを100人欲しいとか、好きなだけ狩りをさせて欲しいとか、好きなだけコスプレをさせて欲しいとか、お腐施のためのお金がたくさん欲しいとか、腐教を認めて欲しいとか……」
「待て待て待て! 最初の方はともかく、途中から明らかにおかしな願いじゃなかったか!? アルティナってその、もしかして……」
「はい。腐ってますが、何か?」
「そ、そうですか……」
カリントーの言葉に何だか頭がくらくらしてきた。
「なぁ、スグル。お腐施とか腐教とか、それは一体何のことなのだ? 腐っているとは??」
お腐施や腐教という、宗教的なワードに敏感に反応したアナスタシアが興味深そうに聞いてきた。
「い、いや、別にお前は知らなくていいことだから」
こいつが話に加わるとややこしいことになり兼ねない。
「腐っているというのは、かいつまんで言うと男同士のアレが好きということじゃ」
呆れた表情でエスタが横から口を挟んだ。
「だぁあああ! はぐらかしたのに余計なことを言うんじゃないっての!」
「男同士……だと!?」
アナスタシアはよほど衝撃的だったのか、それ以降はまるで上の空といった様子で何ごとかをぶつぶつ呟くのみになった。
初めてそういう世界があることを知ったら、そりゃショックも受けるだろう。
今はそっとして置いてやるか……。
「あの……、話を続けても?」
「えっ、あぁ、どうぞ」
「そのようなわけで、私もアルティナ様と同様に腐っていたのですぐに打ち解けて、私たちは主従というよりも趣味友のような関係になったのです」
まぁ趣味の内容はともかくとして、そういうので繋がれるというのはいいことだよな。
「ある年の夏には、王都オンリエードで開催されているコミバに参戦して、炎天下で長い待機列に並ぶ苦行を共にしたり、またある年の冬コミバでは、深夜の待機で危うく凍死しかけたこともありました」
「コミバ?」
「コミバとはコミックバザールのことで、いわゆる同人誌即売会のことですね」
えっ? こっちの世界にもコミケみたいなのがあるのかよ。そういや、ギガセクスのおっさんも何か薄い本を持っていたっけ。
「さらに消費するだけでは飽き足らず、趣味を同じくするニンフを集めてサークルを立ち上げ同人誌を制作するなど、それはもう夢のような楽しい毎日でした」
へ、へぇ、そりゃ良かったな……。
「ですが、そうした満ち足りた日々は長くは続きませんでした。アルティナ様は処女神としても崇められているように、とても純潔を重んじられていて、私たちニンフにもそれを守ることを固く命じておりました」
「はっ!?」
純潔という言葉に反応したのか、上の空だったアナスタシアが急に正気を取り戻した。
カリントーはそんなアナスタシアをジト目で一瞥すると再び話を進めた。
「そもそも、アルティナ様は超が付くほどの潔癖なお方で、男性に対しては嫌悪を通り越して憎悪すら抱いておられるほどでして。なので、私たちニンフにも男とのまぐわい、つまりセックスすることを固く禁じておりました」
「うむ、うむ」
アナスタシアは共感しているのか、カリントーの話に何度も大きくうなずいている。
「アルティナ様の名言もございます。『汚超腐人となるもノンケとなるなかれ』と。ちなみに、私の座右の銘は『腐女子にあらずんばニンフにあらず』でした」
名言なのかそれ。ていうか、別にお前の座右の銘は聞いていない。
「なぁ、ひとつ疑問なんだが。アルティナはかなりの潔癖で大の男嫌いのようだが、それなのにどうしてその……腐女子なんだ? そういうジャンルって男同士がアレしたりナニしたりするわけだろう? 男が嫌いなのにそれって矛盾しているんじゃないのか?」
「は? どこかですか??」
カリントーは何言ってんだコイツ的な、ゴミを見るような目で俺を睨みつけた。
「二次元と三次元を混同するってアホですか?」
「あぁ、サーセン……」
カリントーはコホンとひとつ咳払いをする。
「けどまぁ、私はナマモノもいける口でしたが……」
そう言うと伏し目がちに頬を赤らめて口ごもった。
ナマモノって何だって思ったのだが、ここは敢えてスルーしておこう。
「と、とりあえず、アルティナがどういう奴で、お前との関係や性癖のようなものは何となく分かったよ」
そしてもう一つ分かったことは、こいつらに関わったら確実に面倒なことになるということだ。
カリントーは掴んでいた俺の手をさっと払いのけると、淡々と語り始めた。
「アルティナ様はご存知のとおり、全恥全能の神ギガセクス様の何番目かは分かりませんが娘でして、ギガセクス様よりたいそう可愛がられて、いえ、めちゃくちゃ甘やかされてお育ちになりました」
おい、最初からツッコミを入れたくなる所があるのだが。
「ギガセクス様がどれだけアルティナ様を可愛がられていたかを示すエピソードとして、アルティナ様がギガセクス様へ100個ものお願いをして、それら全てを叶えてあげたということです」
ひゃ、100個!? あのおっさん、どれだけ娘に甘いんだよ……。
「その100個のお願いというのは例えばどんなことなんだ?」
俺はちょっとした興味から聞いてみた。
「そうですね、いくつか有名なところでは……。自分に忠実なニンフを100人欲しいとか、好きなだけ狩りをさせて欲しいとか、好きなだけコスプレをさせて欲しいとか、お腐施のためのお金がたくさん欲しいとか、腐教を認めて欲しいとか……」
「待て待て待て! 最初の方はともかく、途中から明らかにおかしな願いじゃなかったか!? アルティナってその、もしかして……」
「はい。腐ってますが、何か?」
「そ、そうですか……」
カリントーの言葉に何だか頭がくらくらしてきた。
「なぁ、スグル。お腐施とか腐教とか、それは一体何のことなのだ? 腐っているとは??」
お腐施や腐教という、宗教的なワードに敏感に反応したアナスタシアが興味深そうに聞いてきた。
「い、いや、別にお前は知らなくていいことだから」
こいつが話に加わるとややこしいことになり兼ねない。
「腐っているというのは、かいつまんで言うと男同士のアレが好きということじゃ」
呆れた表情でエスタが横から口を挟んだ。
「だぁあああ! はぐらかしたのに余計なことを言うんじゃないっての!」
「男同士……だと!?」
アナスタシアはよほど衝撃的だったのか、それ以降はまるで上の空といった様子で何ごとかをぶつぶつ呟くのみになった。
初めてそういう世界があることを知ったら、そりゃショックも受けるだろう。
今はそっとして置いてやるか……。
「あの……、話を続けても?」
「えっ、あぁ、どうぞ」
「そのようなわけで、私もアルティナ様と同様に腐っていたのですぐに打ち解けて、私たちは主従というよりも趣味友のような関係になったのです」
まぁ趣味の内容はともかくとして、そういうので繋がれるというのはいいことだよな。
「ある年の夏には、王都オンリエードで開催されているコミバに参戦して、炎天下で長い待機列に並ぶ苦行を共にしたり、またある年の冬コミバでは、深夜の待機で危うく凍死しかけたこともありました」
「コミバ?」
「コミバとはコミックバザールのことで、いわゆる同人誌即売会のことですね」
えっ? こっちの世界にもコミケみたいなのがあるのかよ。そういや、ギガセクスのおっさんも何か薄い本を持っていたっけ。
「さらに消費するだけでは飽き足らず、趣味を同じくするニンフを集めてサークルを立ち上げ同人誌を制作するなど、それはもう夢のような楽しい毎日でした」
へ、へぇ、そりゃ良かったな……。
「ですが、そうした満ち足りた日々は長くは続きませんでした。アルティナ様は処女神としても崇められているように、とても純潔を重んじられていて、私たちニンフにもそれを守ることを固く命じておりました」
「はっ!?」
純潔という言葉に反応したのか、上の空だったアナスタシアが急に正気を取り戻した。
カリントーはそんなアナスタシアをジト目で一瞥すると再び話を進めた。
「そもそも、アルティナ様は超が付くほどの潔癖なお方で、男性に対しては嫌悪を通り越して憎悪すら抱いておられるほどでして。なので、私たちニンフにも男とのまぐわい、つまりセックスすることを固く禁じておりました」
「うむ、うむ」
アナスタシアは共感しているのか、カリントーの話に何度も大きくうなずいている。
「アルティナ様の名言もございます。『汚超腐人となるもノンケとなるなかれ』と。ちなみに、私の座右の銘は『腐女子にあらずんばニンフにあらず』でした」
名言なのかそれ。ていうか、別にお前の座右の銘は聞いていない。
「なぁ、ひとつ疑問なんだが。アルティナはかなりの潔癖で大の男嫌いのようだが、それなのにどうしてその……腐女子なんだ? そういうジャンルって男同士がアレしたりナニしたりするわけだろう? 男が嫌いなのにそれって矛盾しているんじゃないのか?」
「は? どこかですか??」
カリントーは何言ってんだコイツ的な、ゴミを見るような目で俺を睨みつけた。
「二次元と三次元を混同するってアホですか?」
「あぁ、サーセン……」
カリントーはコホンとひとつ咳払いをする。
「けどまぁ、私はナマモノもいける口でしたが……」
そう言うと伏し目がちに頬を赤らめて口ごもった。
ナマモノって何だって思ったのだが、ここは敢えてスルーしておこう。
「と、とりあえず、アルティナがどういう奴で、お前との関係や性癖のようなものは何となく分かったよ」
そしてもう一つ分かったことは、こいつらに関わったら確実に面倒なことになるということだ。
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