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第46話
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受注したクエストの結果については、その成否に関わらずボンクエに報告することになっている。
そこで、今回俺たち《チェリー&ヴァージン》が引き受けたワース湖でのレタス狩りクエストについて、ボンクエに報告するわけなのだが……。
「ん? どうしたのだ、スグル。さっきから浮かない顔をして」
「当たり前だろう。結局、俺たちはクエストを達成できなかったんだからな」
能天気に問いかけてきたナスタシアの顔にイラっときたのをぐっと堪える。
レタス狩りの最中に成り行きで湖賊と戦うことになり、俺たちはどうにかこうにか勝つことができた。
それはいい。けれど、肝心のレタスの収穫はゼロ……。
そして、クエストの報酬はレタスを売った利益ということなので、収穫ゼロということは当然ながら報酬もゼロ。
むしろ、漁船や漁具のレンタル代など諸々の経費がかかった分マイナスだ。
報酬がないので、マイナス分はそのままギルドへの借金ということになってしまう。
湖族に襲われた時、せっかく収穫したレタスを全部捨ててしまったのだが、あれを売ることができていたら1万フリンにはなったはずなのに……。
湖賊を倒したことで、地元のギルドの人たちからは感謝され、英雄扱いまでされたりもした。けれど、ぶっちゃけそんなのは1フリンにもならない。
「なぁに、心配せんでもよい。1万フリンくらいなら我がちゃちゃっと都合をつけてやるぞ」
「えっ、本当か?」
初めてエスタのことを頼もしく思った……のも束の間。
「ここにサインするだけでよい」
エスタは下心丸見えのゲスい顔で懐から婚姻届を取り出した。
「だから、俺はまだ結婚できる年齢じゃないっての! ていうか、できる年齢になってもお前と結婚なんかしないわ!」
まったく、エスタときたら油断も隙もあったもんじゃない。
※ ※ ※
ボンクエの中に入ると、さっそく見慣れた顔の失業者……いや、おっさんたちが絡んできた。
「よぉ、聞いたでぇ兄ちゃん! あの湖賊をやっつけたって、なっからすげんじゃねん!」
「は、はぁ……」
おっさんのうちの一人が、馴れ馴れしく俺の肩に手を回して話しかける。
「俺はさぁ、オメェならいつかでっけぇことやんじゃねんかと思ってたんさぁ!」
「いえいえ、そんなことないっす……」
ちょっ、顔近いって。おまけに酒臭ぇ……。
「あんだけの活躍したんじゃ報酬もなっから出たんじゃねん? 今っから街ぃ繰り出して、それでパァ~とやんべやぁ!」
くっ……。このおっさん、それが目当てか。
「あ、いえ、これからクエストの報告があるんで……」
俺は肩にかけられたおっさんの手をさっと払いのけた。
「そうなんきゃ? そんじゃそれが終わったら、お姉ちゃんをモミモミできる所へでも行くんべぇ!」
おっさんは下卑た笑いを浮かべながら俺の肩をがしがしと叩く。
「おい、そこの下郎! 我の旦那様に馴れ馴れしく触れるでない! それに童貞である旦那様がそのようないかがわしい所へ行くわけがなかろう!」
「ちょ、エスタ、童貞は余計だっての!」
「がはは! 何だ、兄ちゃんはまだ童貞なんきゃ? いっくら湖賊をやっつけちまうほど強くったって、童貞じゃダメだんべでぇ! おっしゃ、そんじゃなおさらモミモミしに行かなきゃだんべやぁ!」
おっさんが大声で騒ぎ立てるせいで周囲の視線が俺たちに集まる。
くっそ。何ていう恥辱だよ、これ……。
「何を言うか下郎! 旦那様よ、そやつの言葉に耳を貸してはならんぞ! モミモミしたいのならば、妻である我をいくらでもモミモミするがよい!」
「いやいやいや、モミモミしないから!」
真っ平らな胸を突き出したエスタに、お前にモミモミするところなんてないだろうと俺は心の中でつっこんだ。
どうせモミモミするのならアナスタシアの……。
「おいスグル! ど、どこを見ているのだ、この童貞が!」
アナスタシアが顔を赤らめながら両手でその豊満な胸を覆い隠した。
「い、いや、見てないし! ていうか、お前も童貞って言うんじゃない!」
俺は動揺を隠しながらも、ついついアナスタシアの胸へと視線が行ってしまうのを止められない。
「そこのお客様方! 他のお客様のご迷惑となりますのでお静かに願います!」
俺たちはいつものように受付のお姉さんに怒られたのだった。
そこで、今回俺たち《チェリー&ヴァージン》が引き受けたワース湖でのレタス狩りクエストについて、ボンクエに報告するわけなのだが……。
「ん? どうしたのだ、スグル。さっきから浮かない顔をして」
「当たり前だろう。結局、俺たちはクエストを達成できなかったんだからな」
能天気に問いかけてきたナスタシアの顔にイラっときたのをぐっと堪える。
レタス狩りの最中に成り行きで湖賊と戦うことになり、俺たちはどうにかこうにか勝つことができた。
それはいい。けれど、肝心のレタスの収穫はゼロ……。
そして、クエストの報酬はレタスを売った利益ということなので、収穫ゼロということは当然ながら報酬もゼロ。
むしろ、漁船や漁具のレンタル代など諸々の経費がかかった分マイナスだ。
報酬がないので、マイナス分はそのままギルドへの借金ということになってしまう。
湖族に襲われた時、せっかく収穫したレタスを全部捨ててしまったのだが、あれを売ることができていたら1万フリンにはなったはずなのに……。
湖賊を倒したことで、地元のギルドの人たちからは感謝され、英雄扱いまでされたりもした。けれど、ぶっちゃけそんなのは1フリンにもならない。
「なぁに、心配せんでもよい。1万フリンくらいなら我がちゃちゃっと都合をつけてやるぞ」
「えっ、本当か?」
初めてエスタのことを頼もしく思った……のも束の間。
「ここにサインするだけでよい」
エスタは下心丸見えのゲスい顔で懐から婚姻届を取り出した。
「だから、俺はまだ結婚できる年齢じゃないっての! ていうか、できる年齢になってもお前と結婚なんかしないわ!」
まったく、エスタときたら油断も隙もあったもんじゃない。
※ ※ ※
ボンクエの中に入ると、さっそく見慣れた顔の失業者……いや、おっさんたちが絡んできた。
「よぉ、聞いたでぇ兄ちゃん! あの湖賊をやっつけたって、なっからすげんじゃねん!」
「は、はぁ……」
おっさんのうちの一人が、馴れ馴れしく俺の肩に手を回して話しかける。
「俺はさぁ、オメェならいつかでっけぇことやんじゃねんかと思ってたんさぁ!」
「いえいえ、そんなことないっす……」
ちょっ、顔近いって。おまけに酒臭ぇ……。
「あんだけの活躍したんじゃ報酬もなっから出たんじゃねん? 今っから街ぃ繰り出して、それでパァ~とやんべやぁ!」
くっ……。このおっさん、それが目当てか。
「あ、いえ、これからクエストの報告があるんで……」
俺は肩にかけられたおっさんの手をさっと払いのけた。
「そうなんきゃ? そんじゃそれが終わったら、お姉ちゃんをモミモミできる所へでも行くんべぇ!」
おっさんは下卑た笑いを浮かべながら俺の肩をがしがしと叩く。
「おい、そこの下郎! 我の旦那様に馴れ馴れしく触れるでない! それに童貞である旦那様がそのようないかがわしい所へ行くわけがなかろう!」
「ちょ、エスタ、童貞は余計だっての!」
「がはは! 何だ、兄ちゃんはまだ童貞なんきゃ? いっくら湖賊をやっつけちまうほど強くったって、童貞じゃダメだんべでぇ! おっしゃ、そんじゃなおさらモミモミしに行かなきゃだんべやぁ!」
おっさんが大声で騒ぎ立てるせいで周囲の視線が俺たちに集まる。
くっそ。何ていう恥辱だよ、これ……。
「何を言うか下郎! 旦那様よ、そやつの言葉に耳を貸してはならんぞ! モミモミしたいのならば、妻である我をいくらでもモミモミするがよい!」
「いやいやいや、モミモミしないから!」
真っ平らな胸を突き出したエスタに、お前にモミモミするところなんてないだろうと俺は心の中でつっこんだ。
どうせモミモミするのならアナスタシアの……。
「おいスグル! ど、どこを見ているのだ、この童貞が!」
アナスタシアが顔を赤らめながら両手でその豊満な胸を覆い隠した。
「い、いや、見てないし! ていうか、お前も童貞って言うんじゃない!」
俺は動揺を隠しながらも、ついついアナスタシアの胸へと視線が行ってしまうのを止められない。
「そこのお客様方! 他のお客様のご迷惑となりますのでお静かに願います!」
俺たちはいつものように受付のお姉さんに怒られたのだった。
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