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第43話
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「――それで、旦那様よ。ここからどう反撃するのじゃ? 切り札はあの小娘と言っておったが」
エスタは不満そうな顔つきでアナスタシアへと視線を向けた。
「あぁ、これから切り札のアナスタシアにガツンと反撃をかましてもらう……って、おーい!」
アナスタシアの方を見ると、舷側から身を乗り出してまたゲロっているじゃないか。
「ちょ、おい、大丈夫か?」
「すぐりゅううう~、ぎもぢ悪いいいいい~」
アナスタシアの所へ駆け寄って背中をさすってやるが、吐き過ぎで何ともやつれた顔になっている。
せっかくの可愛い顔が台無しというか、本当にどこまでも残念な女だな。おまけにゲロ臭が酷くてこっちまでもらいそうになる。
「旦那様よ、早うせい! 湖賊船がどんどんこっちへ近づいてきておるぞ!」
さすがのエスタも慌てた様子で叫んだ。
史実の日本海海戦では、連合艦隊の大回頭によって頭を押さえ込まれたバルチック艦隊は進路を変えて並行戦の構えを取ろうとするのだが、湖賊船は進路を変えることもなく、むしろ速度を上げてこっちに向かってきている。
このまま突き進んで俺たちの乗っている船に体当たりするつもりなのか。
……くっ、もう時間がない。
「おい、アナスタシア! 今すぐお前にやってもらいたいことがある!」
「わ、私にやってもらいたいこと……だと? げふぉおおおおお!」
振り向きざまにまたしても盛大に吐いた。
「ちょ、おい! だから、ここにぶちまけるんじゃないって!」
まだこんなにも吐くってどんだけ朝飯食ったんだよ。ていうか、こんな状態で本当にこいつが切り札になるのか不安になってきた。
だが、もうそんなことを言っている余裕はない。
「アナスタシア! 今からアレを使え!」
「アレとは何だ、アレとは? ……う、うっぷ」
吐き気を堪えながらアナスタシアが問い返す。
「アレったらアレだ!」
「だから、アレとは一体何のことだ? あそこに掲げてある私の水着のことか? き、貴様、この期に及んで私にアレを着ろというのか? ……う、うぉえ……ごくっ」
「じゃねーよ! ていうかお前、今飲み込んだよね?」
ここにぶちまけず飲み込んだのはグッジョブ。
「と、とにかく、アレとはあの魔法のことだ! お前が最強魔法とか言っていたアレだよ!」
「あ、あぁ、ファラフォロフィレファーレのことか?」
「そう、それだ!」
以前、野営の火起こしで困った時にアナスタシアが唱えたあの魔法――。
エフェクトこそ最強魔法っぽい派手さはあるものの、発動するまで何が起こるかわからないという使えそうで使えない魔法だ。
けどまぁ、その魔法のおかげで火を起こせて料理を作れたのだから、いざという時にちゃんと役に立った実績がある。
「今からそのファラフォロフィレファーレをぶちかませ!」
「わかった、や、やってみ……ぼふぉわあああああ!」
船内はもはやゲロまみれのカオスと化した。
もうやだ、こいつ……。
「絶対崇高なる……神の……うぉっぷ……恩寵……ごくっ。宇宙開闢……、天地……創造の混沌を……今ここに……うぉえええええ!」
アナスタシアが吐き気を堪えながらも詠唱すると、かざした両手の先に何重もの魔法陣が現れた。
キタ――――ッ! これこれ!!
このド派手な発動エフェクトを見ると、どでかい何かが起こりそうで弥が上にも期待が高まってくる。
しかも、今回は何やら辺りの景色が一変して、快晴だった空に暗雲が立ち込め雷鳴まで轟いている。
これならいけるかもしれない!
「よし、今だ! 思いっきり魔法をぶっ放せ!」
「ファラフォロフィレファー……ごっふぉわああああああああああああ!」
弧を描いて宙を舞うアナスタシアのゲロとともに魔法陣から眩い光が放たれた。
あまりの眩しさとゲロから身を守るため、俺はとっさに両手で顔を覆い目を閉じる。
そして次の瞬間、全身が刺すような冷気に包まれたのだった。
エスタは不満そうな顔つきでアナスタシアへと視線を向けた。
「あぁ、これから切り札のアナスタシアにガツンと反撃をかましてもらう……って、おーい!」
アナスタシアの方を見ると、舷側から身を乗り出してまたゲロっているじゃないか。
「ちょ、おい、大丈夫か?」
「すぐりゅううう~、ぎもぢ悪いいいいい~」
アナスタシアの所へ駆け寄って背中をさすってやるが、吐き過ぎで何ともやつれた顔になっている。
せっかくの可愛い顔が台無しというか、本当にどこまでも残念な女だな。おまけにゲロ臭が酷くてこっちまでもらいそうになる。
「旦那様よ、早うせい! 湖賊船がどんどんこっちへ近づいてきておるぞ!」
さすがのエスタも慌てた様子で叫んだ。
史実の日本海海戦では、連合艦隊の大回頭によって頭を押さえ込まれたバルチック艦隊は進路を変えて並行戦の構えを取ろうとするのだが、湖賊船は進路を変えることもなく、むしろ速度を上げてこっちに向かってきている。
このまま突き進んで俺たちの乗っている船に体当たりするつもりなのか。
……くっ、もう時間がない。
「おい、アナスタシア! 今すぐお前にやってもらいたいことがある!」
「わ、私にやってもらいたいこと……だと? げふぉおおおおお!」
振り向きざまにまたしても盛大に吐いた。
「ちょ、おい! だから、ここにぶちまけるんじゃないって!」
まだこんなにも吐くってどんだけ朝飯食ったんだよ。ていうか、こんな状態で本当にこいつが切り札になるのか不安になってきた。
だが、もうそんなことを言っている余裕はない。
「アナスタシア! 今からアレを使え!」
「アレとは何だ、アレとは? ……う、うっぷ」
吐き気を堪えながらアナスタシアが問い返す。
「アレったらアレだ!」
「だから、アレとは一体何のことだ? あそこに掲げてある私の水着のことか? き、貴様、この期に及んで私にアレを着ろというのか? ……う、うぉえ……ごくっ」
「じゃねーよ! ていうかお前、今飲み込んだよね?」
ここにぶちまけず飲み込んだのはグッジョブ。
「と、とにかく、アレとはあの魔法のことだ! お前が最強魔法とか言っていたアレだよ!」
「あ、あぁ、ファラフォロフィレファーレのことか?」
「そう、それだ!」
以前、野営の火起こしで困った時にアナスタシアが唱えたあの魔法――。
エフェクトこそ最強魔法っぽい派手さはあるものの、発動するまで何が起こるかわからないという使えそうで使えない魔法だ。
けどまぁ、その魔法のおかげで火を起こせて料理を作れたのだから、いざという時にちゃんと役に立った実績がある。
「今からそのファラフォロフィレファーレをぶちかませ!」
「わかった、や、やってみ……ぼふぉわあああああ!」
船内はもはやゲロまみれのカオスと化した。
もうやだ、こいつ……。
「絶対崇高なる……神の……うぉっぷ……恩寵……ごくっ。宇宙開闢……、天地……創造の混沌を……今ここに……うぉえええええ!」
アナスタシアが吐き気を堪えながらも詠唱すると、かざした両手の先に何重もの魔法陣が現れた。
キタ――――ッ! これこれ!!
このド派手な発動エフェクトを見ると、どでかい何かが起こりそうで弥が上にも期待が高まってくる。
しかも、今回は何やら辺りの景色が一変して、快晴だった空に暗雲が立ち込め雷鳴まで轟いている。
これならいけるかもしれない!
「よし、今だ! 思いっきり魔法をぶっ放せ!」
「ファラフォロフィレファー……ごっふぉわああああああああああああ!」
弧を描いて宙を舞うアナスタシアのゲロとともに魔法陣から眩い光が放たれた。
あまりの眩しさとゲロから身を守るため、俺はとっさに両手で顔を覆い目を閉じる。
そして次の瞬間、全身が刺すような冷気に包まれたのだった。
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