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第37話
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「ふぅ、大漁じゃの。これを地元のギルドへ持ち込めばかなりの金額になるぞ」
小一時間ほどの漁で、船が一杯になるほどのレタスが獲れた。
エスタが言うには、獲れたての新鮮なレタスなら一個10フリンになるらしい。
獲れたレタスは千個くらいありそうだから、ざっと1万フリンか。
てことは、日本円にすると大体150万ってことになる!
最初のクエストでこんな大金を手に入れられるなんて超ラッキーじゃね?
しかも、湖を泳ぐレタスを獲るだけで危険なモンスターと戦うこともない。
何だよ、すごく楽なクエストじゃないか!
まぁ若干一名、巨大なタコに純潔を奪われるという尊い犠牲はあったけれど……。
アナスタシアを見ると、レ○目で震えながら膝を抱えてうずくまっている。
……しょうがない、また面倒臭いことになる前に魔法をかけてやるか。
「純白なるヴェール、禁忌の花園に穿たれし闇。万物不変の理に我は背く。それは絶対至高なる存在の御意思なり。その御力により再び祝福の光を! リヴァージン!」
悲しいかな。もう取説を開かなくても詠唱がすらすら出てくるようになってしまった。
けれど、詠唱する恥ずかしさは何度やってもなくならないものだな。
「ほらアナスタシア、魔法をかけてやったぞ。今日はもう純潔を失うなよ」
アナスタシアの碧い瞳に輝きが戻り、剣を取って勢いよく立ち上がった。
「おぉ、身体の中から聖なる力が漲ってくる! これでまた救国の英雄として戦えるぞ! ありがとう、スグル!」
「お、おう……」
ぐうううううううううううう!
すっかり元気を取り戻したアナスタシアが盛大にお腹を鳴り響かせた。
「こ、これはその……、腹が減っては戦ができぬというやつだ」
アナスタシアがお腹の辺りを押さえて顔を赤らめる。
空腹は連鎖するもので、何だか俺まで急に腹が減ってきた。
「何じゃお主ら、腹が減っておるのか? ならば獲れたての新鮮なレタスもあることじゃし、ここは我がうまいものでも作ってやろう」
いつの間にかエプロンを身に纏ったエスタが、包丁を手に取ると手際よく何かを作り始めた。
――って、よく見ると裸エプロンじゃねーか!
「ふふん、旦那様よ。こういうのに憧れていたのじゃろう?」
「いやいやいや。俺にそういう趣味はないんだってば!」
そりゃまぁ、男なら誰だって裸エプロンへの憧れがあることは認めよう。
だがそれは、アナスタシアみたいなエロい身体をしていればであってだな。お前みたいにつるぺたなのは論外だ……多分。
そんなこんなで、エスタが料理を作り始めてから数分――。
「出来たぞお主ら! 獲れたて新鮮しゃきしゃきレタスを使ったエスタの気まぐれカルパッチョ! どうじゃ、美味そうじゃろう!」
「「おぉ!」」
一体どんなものを作るのか一抹の不安があったのだが、思った以上にまともな料理が出てきた。
何たって、140億年も独身を貫いてきたんだもんな。そりゃ料理の腕前だって否が応でも上がるってもんか。
「隠し味に我の愛情が入っておる。さぁ旦那様よ、たくさん食べるがよい」
いや、その隠し味はいらない。
ん? 中に入ってるこの白っぽいものは何だ??
「なぁ、エスタ。これってもしかして……」
その白っぽい具材をフォークで突き刺してエスタに尋ねてみる。
「あぁ、それはさっき旦那様が切り落としたオオマミズダコの触手じゃ。切り落としたばかりで活きがいいからカルパッチョの具材にしたというわけじゃ。このタコもかなり高級な食材なんじゃぞ」
エスタはふふんと鼻を鳴らして得意げになっている。
「いやでもさ、これってさっきまでアナスタシアに巻きついてたやつだよね……」
しかも、俺がフォークで突き刺したのは触手の先端部分っぽい。
それってつまり、アナスタシアのアレにああなったやつなんじゃ……。
こんなもん食えるかとアナスタシアの方を見ると――。
「あぁ、エスタ様の作られた料理を頂けるとはなんという幸せ! とっても美味しゅうございます!」
そう言って、カルパッチョを貪り食っているじゃないか。
おい、それに入っている具材はさっきまでお前に巻きついて、しかも純潔を奪ったものなんだぞ。
それをよくもまぁ美味そうに食えるよな……。
俺はタコの先端部分はそっとはじいてレタスだけを食べることにした。
「ん? 旦那様よ。タコが残っているがひょっとして嫌いなのか? この先っちょの部分が一番美味いというのに」
いや、そうじゃない。そうじゃないんだ、エスタ。
「好き嫌いはいかんぞ。料理は残さず食べる。それが作った者への礼儀、糧となった生き物たちへの感謝なのじゃから」
そう言うとエスタは、はじいておいた触手の先端部分をつまんでひょいと口の中へ放り込んだ。
あっ、だからそれは……。
「うむうむ。ほんのり塩気があって美味いではないか」
「そ、そうか……。そりゃ良かったな」
エスタにドン引きした視線を向けたその時――。
ドスンという大きな音とともに、俺たちの乗っている船のすぐそばに水柱が上がった。
その直後に、激しく船が揺れて湖水が雨のように降り注ぐ。
「な、何だなんだ??」
あまりに突然なことで、何が起こったのか全く状況を理解できない。
その後も立て続けにいくつもの水柱が上がり、その度に船が大きく揺れて俺は船底を転げ回った。
「アナスタシア、エスタ、大丈夫か?」
二人に呼びかけると、エスタは舷側にしがみついていてどうにか無事のようだ。
アナスタシアは!?
彼女の方へ目をやると、こんな状況にも関わらずカルパッチョの皿を抱え込んでむしゃむしゃと食べているじゃないか。
「まだ食ってるんかーい!」
どんだけ食い意地が張ってるんだよ、こいつ……。
とにかく、二人とも無事ではあるようだ。
ようやく船の揺れが収まったので、舷側からそっと顔を出して辺りを窺ってみる。
すると、何やら遠くに怪しい船影が見て取れた。
「むむむ、あれは湖賊じゃな」
「こぞく?」
「そうじゃ。ここワース湖を傍若無人に荒らし回り、行き交う船を襲撃して金品を奪う。さらに、レタスの収獲時期には漁船を襲って漁の邪魔をする無法者じゃ」
要するに海賊の湖版というわけか。
よく目を凝らすと、芦ノ湖なんかで見たことがあるような、いかにも海賊っぽい船が悠然とこっちへ向かってきている。
おいおいおい。そんなヤバいのが出てくるなんて聞いてないぞ!
元いた世界で人気だった漫画の《シルクハットの一味》みたいな、義侠心溢れる海賊団っていうわけじゃないんだろうな、きっと。
「旦那様よ、収獲したレタスを全部湖に捨てるのじゃ」
「えっ、何でだよ?」
「今すぐここから逃げる。レタスを満載していたのでは船速が出ずに逃げ切れぬ」
逃げるのには賛成だが、せっかく獲ったレタスを捨てるのは惜しい……。
「何をぐずぐずしておるのじゃ! 今が逃げるチャンスなんじゃぞ、早くせい!」
いつもはおませで強気なエスタが珍しく真顔になって声を荒げる。
「だあああああ! 分かったよ、捨てりゃいいんだろ、捨てりゃあ!!」
俺は手当たり次第にレタスを掴んでは湖へと放り投げた。
アナスタシアに目をやるとまだカルパッチョを食べてやがる。
「おい、のんきに食ってる場合か! お前もレタスを捨てるのを手伝えよ!」
「ひょうひひた!」
そう言うと、アナスタシアは皿に残るカルパッチョを一気にかき込んだ。
こうして、数分で全てのレタスを湖に投げ終えると、俺たちは一目散に逃げ出したのだった。
小一時間ほどの漁で、船が一杯になるほどのレタスが獲れた。
エスタが言うには、獲れたての新鮮なレタスなら一個10フリンになるらしい。
獲れたレタスは千個くらいありそうだから、ざっと1万フリンか。
てことは、日本円にすると大体150万ってことになる!
最初のクエストでこんな大金を手に入れられるなんて超ラッキーじゃね?
しかも、湖を泳ぐレタスを獲るだけで危険なモンスターと戦うこともない。
何だよ、すごく楽なクエストじゃないか!
まぁ若干一名、巨大なタコに純潔を奪われるという尊い犠牲はあったけれど……。
アナスタシアを見ると、レ○目で震えながら膝を抱えてうずくまっている。
……しょうがない、また面倒臭いことになる前に魔法をかけてやるか。
「純白なるヴェール、禁忌の花園に穿たれし闇。万物不変の理に我は背く。それは絶対至高なる存在の御意思なり。その御力により再び祝福の光を! リヴァージン!」
悲しいかな。もう取説を開かなくても詠唱がすらすら出てくるようになってしまった。
けれど、詠唱する恥ずかしさは何度やってもなくならないものだな。
「ほらアナスタシア、魔法をかけてやったぞ。今日はもう純潔を失うなよ」
アナスタシアの碧い瞳に輝きが戻り、剣を取って勢いよく立ち上がった。
「おぉ、身体の中から聖なる力が漲ってくる! これでまた救国の英雄として戦えるぞ! ありがとう、スグル!」
「お、おう……」
ぐうううううううううううう!
すっかり元気を取り戻したアナスタシアが盛大にお腹を鳴り響かせた。
「こ、これはその……、腹が減っては戦ができぬというやつだ」
アナスタシアがお腹の辺りを押さえて顔を赤らめる。
空腹は連鎖するもので、何だか俺まで急に腹が減ってきた。
「何じゃお主ら、腹が減っておるのか? ならば獲れたての新鮮なレタスもあることじゃし、ここは我がうまいものでも作ってやろう」
いつの間にかエプロンを身に纏ったエスタが、包丁を手に取ると手際よく何かを作り始めた。
――って、よく見ると裸エプロンじゃねーか!
「ふふん、旦那様よ。こういうのに憧れていたのじゃろう?」
「いやいやいや。俺にそういう趣味はないんだってば!」
そりゃまぁ、男なら誰だって裸エプロンへの憧れがあることは認めよう。
だがそれは、アナスタシアみたいなエロい身体をしていればであってだな。お前みたいにつるぺたなのは論外だ……多分。
そんなこんなで、エスタが料理を作り始めてから数分――。
「出来たぞお主ら! 獲れたて新鮮しゃきしゃきレタスを使ったエスタの気まぐれカルパッチョ! どうじゃ、美味そうじゃろう!」
「「おぉ!」」
一体どんなものを作るのか一抹の不安があったのだが、思った以上にまともな料理が出てきた。
何たって、140億年も独身を貫いてきたんだもんな。そりゃ料理の腕前だって否が応でも上がるってもんか。
「隠し味に我の愛情が入っておる。さぁ旦那様よ、たくさん食べるがよい」
いや、その隠し味はいらない。
ん? 中に入ってるこの白っぽいものは何だ??
「なぁ、エスタ。これってもしかして……」
その白っぽい具材をフォークで突き刺してエスタに尋ねてみる。
「あぁ、それはさっき旦那様が切り落としたオオマミズダコの触手じゃ。切り落としたばかりで活きがいいからカルパッチョの具材にしたというわけじゃ。このタコもかなり高級な食材なんじゃぞ」
エスタはふふんと鼻を鳴らして得意げになっている。
「いやでもさ、これってさっきまでアナスタシアに巻きついてたやつだよね……」
しかも、俺がフォークで突き刺したのは触手の先端部分っぽい。
それってつまり、アナスタシアのアレにああなったやつなんじゃ……。
こんなもん食えるかとアナスタシアの方を見ると――。
「あぁ、エスタ様の作られた料理を頂けるとはなんという幸せ! とっても美味しゅうございます!」
そう言って、カルパッチョを貪り食っているじゃないか。
おい、それに入っている具材はさっきまでお前に巻きついて、しかも純潔を奪ったものなんだぞ。
それをよくもまぁ美味そうに食えるよな……。
俺はタコの先端部分はそっとはじいてレタスだけを食べることにした。
「ん? 旦那様よ。タコが残っているがひょっとして嫌いなのか? この先っちょの部分が一番美味いというのに」
いや、そうじゃない。そうじゃないんだ、エスタ。
「好き嫌いはいかんぞ。料理は残さず食べる。それが作った者への礼儀、糧となった生き物たちへの感謝なのじゃから」
そう言うとエスタは、はじいておいた触手の先端部分をつまんでひょいと口の中へ放り込んだ。
あっ、だからそれは……。
「うむうむ。ほんのり塩気があって美味いではないか」
「そ、そうか……。そりゃ良かったな」
エスタにドン引きした視線を向けたその時――。
ドスンという大きな音とともに、俺たちの乗っている船のすぐそばに水柱が上がった。
その直後に、激しく船が揺れて湖水が雨のように降り注ぐ。
「な、何だなんだ??」
あまりに突然なことで、何が起こったのか全く状況を理解できない。
その後も立て続けにいくつもの水柱が上がり、その度に船が大きく揺れて俺は船底を転げ回った。
「アナスタシア、エスタ、大丈夫か?」
二人に呼びかけると、エスタは舷側にしがみついていてどうにか無事のようだ。
アナスタシアは!?
彼女の方へ目をやると、こんな状況にも関わらずカルパッチョの皿を抱え込んでむしゃむしゃと食べているじゃないか。
「まだ食ってるんかーい!」
どんだけ食い意地が張ってるんだよ、こいつ……。
とにかく、二人とも無事ではあるようだ。
ようやく船の揺れが収まったので、舷側からそっと顔を出して辺りを窺ってみる。
すると、何やら遠くに怪しい船影が見て取れた。
「むむむ、あれは湖賊じゃな」
「こぞく?」
「そうじゃ。ここワース湖を傍若無人に荒らし回り、行き交う船を襲撃して金品を奪う。さらに、レタスの収獲時期には漁船を襲って漁の邪魔をする無法者じゃ」
要するに海賊の湖版というわけか。
よく目を凝らすと、芦ノ湖なんかで見たことがあるような、いかにも海賊っぽい船が悠然とこっちへ向かってきている。
おいおいおい。そんなヤバいのが出てくるなんて聞いてないぞ!
元いた世界で人気だった漫画の《シルクハットの一味》みたいな、義侠心溢れる海賊団っていうわけじゃないんだろうな、きっと。
「旦那様よ、収獲したレタスを全部湖に捨てるのじゃ」
「えっ、何でだよ?」
「今すぐここから逃げる。レタスを満載していたのでは船速が出ずに逃げ切れぬ」
逃げるのには賛成だが、せっかく獲ったレタスを捨てるのは惜しい……。
「何をぐずぐずしておるのじゃ! 今が逃げるチャンスなんじゃぞ、早くせい!」
いつもはおませで強気なエスタが珍しく真顔になって声を荒げる。
「だあああああ! 分かったよ、捨てりゃいいんだろ、捨てりゃあ!!」
俺は手当たり次第にレタスを掴んでは湖へと放り投げた。
アナスタシアに目をやるとまだカルパッチョを食べてやがる。
「おい、のんきに食ってる場合か! お前もレタスを捨てるのを手伝えよ!」
「ひょうひひた!」
そう言うと、アナスタシアは皿に残るカルパッチョを一気にかき込んだ。
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