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第36話

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 俺は今、白波を立てて軽快に進む小さな船の上で風を感じている。

 どこまでも続く青い空に白い雲、緑豊かな山並みといった見渡す限りの大自然。

 ここはガンマ地方の隣り、ノブコイ地方にあるワース湖だ。

「おい、旦那様よ。どうじゃこの水着、似合っているじゃろう?」

 そう言って、つるぺたのエスタがスク水姿を得意げにひけらかしてきた。

「こ、ここは異世界だろう! どこでそんな物を手に入れたんだよ?」
「ふふん、これでも我は神のはしくれ。手に入らぬものなどないわ! この水着は旦那様の好み通りじゃろう?」
「うっ、そ、それはその……」

 そりゃまぁ、スク水姿は嫌いではないれど、超絶ロリババァのお前じゃな……。

「あぁ、エスタ様! なんと神々しいお姿なのでしょう!」

 布の面積が限りなく小さい、ほぼ紐のようなビキニを着たアナスタシアがエスタをぎゅっと抱きしめた。

「アナスタシア! お前はお前でなんていう物を着ているんだよ!」

 下半身が敏感に反応してしまった俺は、前のめり気味にそう叫んだ。

 ――ったく。アホで面倒臭くて色々と残念な女のくせに、身体つきだけは本当にエロいんだから。

 ま、まぁ好みで言うなら、俺としては断然こっちの方だけども。

「えぇい、止めろ! 離さんかぁ!」

 水着から時折りはみ出しそうな、いやむしろ少しはみ出てなくもないような、そんな大きい胸に顔を挟まれているエスタがちょっと羨ましい。

 いかんいかん! 

 俺は両手で頬をぴしゃりと叩いて雑念を振り払った。

「おい、お前たち! 水着なんか着て浮かれているがここには遊びで来たんじゃないんだぞ!」
 
 そう、俺たちチェリー&ヴァージンは初めてのクエストでここにやって来たのだ。
 
 何のクエストかって? 

 それは、ずばりレタス狩り!
 
 だが、何故湖でレタス狩りなのか。ここまでなんの疑問もなく来たわけなのだが――。

「おい、エスタ。今更なんだが、俺たちはレタス狩りに来たっていうのに、どうして船なんかに乗っているんだ?」

「はぁ? 何を言っておる。レタスとはここで獲るものじゃろうが」

 腕組みしたエスタが片足でたんたんと船底を踏み鳴らした。

「――はい?」
「レタスは湖の中を泳いでおるのじゃ」

 えっ? レタスが何だって??

「いやいやいや、ちょっと待ってくれ! レタスが泳ぐとか全っ然意味が分からないんだが!」

 エスタの説明によると、この世界のレタスは旬の時期を迎えると一斉に畑から飛び出して、湖の中を泳ぎ回るのだという。

 中でも、ここワース湖は全国でも有数のレタスの産地で、収獲されたばかりの瑞々しいレタスは市場でも高く売れるらしい。

「何だスグル、そんなことも知らなかったのか。だから貴様はいつまでたっても童貞のままなのだ」

 アナスタシアが俺の肩にぽんと手をのせて侮蔑を含んだ憐みの視線を向けてきた。

「うっさいわ! それと童貞言うな!」

 肩にのった手を払いのけようとしたその時――。

 アナスタシアの背後に巨大な触手が現れた。

「お、おい、後ろ後ろ!」

 そう注意したものの、ぬるぬると動くその触手は見る見るうちにアナスタシアの身体に巻きついてしまった。

「くっ……。身動きが取れない!」

 もがけばもがくほど、巨大な触手がアナスタシアの身体を締め上げていく。
 
 それにしても、触手が巻きついた姿が何だかめっちゃエロい。

「ふむ。これはオオマミズダコじゃな」

 エスタが目の前の状況に動じることなくそう言った。

「えっ? 湖なのにタコ?」

 淡水にタコって生息できるのか?

 まぁこの世界ではレタスが湖の中を泳ぐというのだから、淡水にタコがいても別に不思議ではないのかもしれないが……。

「そうじゃ。こいつはその名の通り真水に生息するタコじゃ。そしてレタスを好み、その群れを追っておる。こいつがいるということはレタスの群れも近いぞ。旦那様よ、投網の用意をせい!」

「いやいやいや。それよりもアナスタシアを助ける方が先だろう!」

 アナスタシアを見ると、絡みついた触手の先端がうねうねと艶めかしい動きをしながら、彼女の紐のような水着の隙間へ入り込もうとしている。

「いやあああ! ス、スグル! た、たたた、助けてくれ! 触手の先っぽがもうすぐそこまでっ! は、早く、早くどうにかしてくれえええ!」

 どうにかしろって言われても……。

 とりあえず、隙間に入り込もうとしている触手に掴みかかってみたものの、ぬるぬるしていて引き離すことができない。

 エスタはというと、こんな状況にも関わらず投網を湖に放っている。

「おい、エスタ! そんなことしている場合か! お前も助けるのを手伝えよ!」
「なぁに、絡みついてるだけで食われはせん。それよりも、オオマミズダコがそやつに取りついている今こそ、レタスを獲る絶好のチャンスなのじゃ」

 どうやら、エスタはアナスタシアを助ける気がないようです。

「は、早く、早くそいつをどけてくれえええ!」

 アナスタシアが泣き叫べば叫ぶほど触手はぬめぬめと絡みつき、その先端がついに水着の隙間に入り込んでしまった。

「ひ、ひいいい! いやあああああああああああ!」

 あっ――。

 アナスタシアの悲鳴が止み、辺りは静寂に包まれた。
 
 ダメだったか……。
 
 手遅れになってしまったが、アナスタシアをこのままにもしては置けない。

 俺はレタス狩りのために用意していた大きな鎌で絡みつく触手をどうにかこうにか掻き切った。

 触手から解き放たれたアナスタシアは、力なくその場にへなへなとしゃがみ込む。

 その目からはハイライトが消え、小刻みに震えながら何かをぶつぶつ呟いている。

 はぁ、またこれかよ。ほんと、この女ってばもう……。

「ア、アナスタシア、大丈夫か? あとでまたリヴァージンをかけてやるから、その……、元気出せよ」

 ――と、その時。

「うおおお! 大漁じゃああああああああ!」

 重苦しい空気を打ち消すかのようにエスタが大声を上げた。

 引き揚げられた投網の中には何玉ものレタスが入っていて、活きがいい証拠にぽんぽん飛び跳ねている。

 やれやれ、本当に湖でレタスが獲れやがった。

 さっきの大きなタコといい、湖の中を泳ぐこのレタスといい、ここはなんてデタラメな世界なんだよ。

「どうじゃ、大漁じゃろう! これからじゃんじゃん引き揚げるぞ! ほれ、旦那様も見てないで手伝うのじゃ!」

 俺は半ば呆れる思いでレタス漁をするエスタを見ていたが、ここへはクエストで来たことを思い出し、気を取り直して手伝うことにした。
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