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第33話
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「絶対崇高なる神の御力は、深淵の闇に光る一筋の希望、純潔を失い迷える仔羊に、再び聖なる乙女の証を与えたまえ! リヴァージン!」
ボンクエのエントランスの片隅で、周りに誰もいないことを確認した俺はアナスタシアに魔法をかけてやった。
何度やっても詠唱するのは死ぬほど恥ずかしい。
「おぉ、私の《処女力》が10になっている! これでまた救国の英雄になれるわけだな!」
魔法をかけてやったのに、それでもアナスタシアの《処女力》ってたったの10しかないのかよ……。
「おい、旦那様よ。我にもそのリヴァージンとやらをかけるのじゃ!」
エスタが目を輝かせながら無邪気にせがんできた。
「あのなぁ、エスタ。リヴァージンというのは失った純潔を取り戻す魔法なわけ。だから、《処女力》が1億もあるガッチガチな処女のお前にかけても意味がないんだよ」
俺は諭すように説明してやった。
「なら旦那様よ、我とまぐわうのじゃ! そしてその魔法をかければまた純潔に戻れるのじゃろう? そうすれば、我は旦那様とまぐわい放題ではないか!」
「何を馬鹿なこと言ってるんだ。それが処女神の言うことかよ。そもそも俺は、童貞を喪失するとこの魔法が使えなくなるんだよ」
「何じゃ、そうなのか。せっかくいい方法を思いついたと思ったのじゃが……」
エスタは口を尖らせてぷいっとそっぽを向いた。
「エスタ様! あなた様は永遠の処女を誓われた御身であるのに、なんと嘆かわしいことを仰るのですか! このような軟弱な童貞男とまぐわうなどもっての外でございます!」
アナスタシアが声を荒げてエスタをたしなめた。
あのさ、毎回毎回そうやって俺のことを貶すの止めてくれないか。
※ ※ ※
再び受付に戻ると、お姉さんは露骨に迷惑そうな顔をして出迎えた。
さて、次は冒険者ギルド系のクエストを受注するためのパーティー登録だ。
「それではこちらの用紙にご記入ください」
お姉さんが差し出した登録用紙には、パーティー名やメンバー氏名、職業、希望クエストなどを書き込む欄がある。
パーティー名か……。
こういうのって地味に悩むよな。
「なぁ、スグル。私たちのパーティー名は《救国の英雄とその仲間たち》というのはどうだろうか?」
アナスタシアがノリノリになって提案してきた。
「却下だ! お前は救国の英雄ではなくてただの勇者見習いだろうが!」
「で、では《絶対崇高な神に仕える敬虔なエックス教徒たち》はどうだ?」
「それも却下だ! そもそも俺はエックス教徒じゃない!」
「むぅ~。ならばスグル、貴様はどうなのだ?」
アナスタシアがふくれっ面で俺に意見を求めてきた。
「えっ、俺か?」
急にそう言われるとそれはそれで困る……。
「うーん、それなら……。《漆黒の竜騎士団》とか《百合騎士連隊》なんていうのはどうだ?」
「……ぷぷぷっ。スグル、貴様もかなり痛いではないか」
アナスタシアは口元に手を当てて笑いを堪えながらそう言った。
「う、うっさいわ! お前にだけは言われたくない!」
こいつに馬鹿にされると妙にイラッとくる。
「お主ら、静かにせい。パーティー名ならばもう我が決めて申込用紙は出しておいたぞ」
「「えっ!?」」
エスタの奴め、さっきからやけに静かだと思ったら勝手にそんなことしやがって。
「ちょ、おい。パーティー名は一体何にしたんだ?」
どうせこいつのことだから、嫌な予感しかしないのだが……。
「それでは皆さま。パーティー名は《チェリー&ヴァージン》ということで登録の方を完了致しました」
そう言って、受付のお姉さんがパーティ用のボンクエカードを差し出した。
お姉さんの顔は努めて平静さを装っているものの、吹き出しそうになるのを懸命に堪えているといった様子だ。
「チェリー&ヴァージンだぁ? そんなこっ恥ずかしいパーティー名なんて俺は絶対に嫌だからな!」
「こっ恥ずかしいとは何じゃ! 我らに相応しいパーティー名じゃろうが!」
エスタはぺったんこな胸をこれでもかと突き出して得意げに言い放った。
「あぁ、さすがはエスタ様! とても素晴らしいパーティー名でございます!」
アナスタシアよ、本当にそれでいいのか?
お前は何かとすぐに純潔を喪失するだろうが。
「あの……すみませんがお姉さん。パーティー名の変更ってできませんか?」
「申し訳ありません。原則として変更は受け付けておりません……」
受付のお姉さんは事務的に、でも同情を禁じ得ないような顔でそう言ったのだった。
ボンクエのエントランスの片隅で、周りに誰もいないことを確認した俺はアナスタシアに魔法をかけてやった。
何度やっても詠唱するのは死ぬほど恥ずかしい。
「おぉ、私の《処女力》が10になっている! これでまた救国の英雄になれるわけだな!」
魔法をかけてやったのに、それでもアナスタシアの《処女力》ってたったの10しかないのかよ……。
「おい、旦那様よ。我にもそのリヴァージンとやらをかけるのじゃ!」
エスタが目を輝かせながら無邪気にせがんできた。
「あのなぁ、エスタ。リヴァージンというのは失った純潔を取り戻す魔法なわけ。だから、《処女力》が1億もあるガッチガチな処女のお前にかけても意味がないんだよ」
俺は諭すように説明してやった。
「なら旦那様よ、我とまぐわうのじゃ! そしてその魔法をかければまた純潔に戻れるのじゃろう? そうすれば、我は旦那様とまぐわい放題ではないか!」
「何を馬鹿なこと言ってるんだ。それが処女神の言うことかよ。そもそも俺は、童貞を喪失するとこの魔法が使えなくなるんだよ」
「何じゃ、そうなのか。せっかくいい方法を思いついたと思ったのじゃが……」
エスタは口を尖らせてぷいっとそっぽを向いた。
「エスタ様! あなた様は永遠の処女を誓われた御身であるのに、なんと嘆かわしいことを仰るのですか! このような軟弱な童貞男とまぐわうなどもっての外でございます!」
アナスタシアが声を荒げてエスタをたしなめた。
あのさ、毎回毎回そうやって俺のことを貶すの止めてくれないか。
※ ※ ※
再び受付に戻ると、お姉さんは露骨に迷惑そうな顔をして出迎えた。
さて、次は冒険者ギルド系のクエストを受注するためのパーティー登録だ。
「それではこちらの用紙にご記入ください」
お姉さんが差し出した登録用紙には、パーティー名やメンバー氏名、職業、希望クエストなどを書き込む欄がある。
パーティー名か……。
こういうのって地味に悩むよな。
「なぁ、スグル。私たちのパーティー名は《救国の英雄とその仲間たち》というのはどうだろうか?」
アナスタシアがノリノリになって提案してきた。
「却下だ! お前は救国の英雄ではなくてただの勇者見習いだろうが!」
「で、では《絶対崇高な神に仕える敬虔なエックス教徒たち》はどうだ?」
「それも却下だ! そもそも俺はエックス教徒じゃない!」
「むぅ~。ならばスグル、貴様はどうなのだ?」
アナスタシアがふくれっ面で俺に意見を求めてきた。
「えっ、俺か?」
急にそう言われるとそれはそれで困る……。
「うーん、それなら……。《漆黒の竜騎士団》とか《百合騎士連隊》なんていうのはどうだ?」
「……ぷぷぷっ。スグル、貴様もかなり痛いではないか」
アナスタシアは口元に手を当てて笑いを堪えながらそう言った。
「う、うっさいわ! お前にだけは言われたくない!」
こいつに馬鹿にされると妙にイラッとくる。
「お主ら、静かにせい。パーティー名ならばもう我が決めて申込用紙は出しておいたぞ」
「「えっ!?」」
エスタの奴め、さっきからやけに静かだと思ったら勝手にそんなことしやがって。
「ちょ、おい。パーティー名は一体何にしたんだ?」
どうせこいつのことだから、嫌な予感しかしないのだが……。
「それでは皆さま。パーティー名は《チェリー&ヴァージン》ということで登録の方を完了致しました」
そう言って、受付のお姉さんがパーティ用のボンクエカードを差し出した。
お姉さんの顔は努めて平静さを装っているものの、吹き出しそうになるのを懸命に堪えているといった様子だ。
「チェリー&ヴァージンだぁ? そんなこっ恥ずかしいパーティー名なんて俺は絶対に嫌だからな!」
「こっ恥ずかしいとは何じゃ! 我らに相応しいパーティー名じゃろうが!」
エスタはぺったんこな胸をこれでもかと突き出して得意げに言い放った。
「あぁ、さすがはエスタ様! とても素晴らしいパーティー名でございます!」
アナスタシアよ、本当にそれでいいのか?
お前は何かとすぐに純潔を喪失するだろうが。
「あの……すみませんがお姉さん。パーティー名の変更ってできませんか?」
「申し訳ありません。原則として変更は受け付けておりません……」
受付のお姉さんは事務的に、でも同情を禁じ得ないような顔でそう言ったのだった。
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