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第29話
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どうにかこうにかエスタとの結婚は回避できたわけだが、住民登録ができない問題をどうするか――。
「しょうがないのぉ……。おい、そこの小娘よ。市長を呼べ!」
エスタはやれやれと大きなため息をつくと、まるで飲食店で店長でも呼ぶような気軽さで受付のお姉さんに言いつけた。
「申し訳ございません。市長への面会は事前にアポを取っていただかないと……」
受付のお姉さんは困惑しつつも、こういう際の型通りともいえる返答をした。
「えぃい、相変わらずお役所というところは融通が利かんの! 市長にエスタが来たと言えばそれで分かるわぁ!」
そうしてエスタが市長を呼びつけてから数分後――。
身なりのいい初老の男がばたばたと慌てた様子で駆けつけてきた。
「こ、これはこれはエスタ様! わざわざこのような場所へお越しくださるとは! 前もって仰ってくださればこちらからお迎えに上がりましたものを!」
「いや、今日は忍びゆえ、こっちから出向いたまでのことじゃ」
市長とみられるおっさんはエスタにへこへこと頭を下げている。
えっ? もしかして、エスタって本当はすごい奴なの?
小学○年生くらいにしか見えない幼女に市長があんなにも恐縮しているだなんて。
「――それで。本日はどのようなご用で?」
市長は乱れたバーコード髪を整え、ハンカチで額の汗をぬぐいながら用件を伺った。
「実はの、そこにおる軟弱そうな童貞男と結婚しようと思っての。それで婚姻届を出したのじゃが、そこの受付の小娘ができぬと申して受理してくれなかったのじゃ」
「何と、エスタ様にそのようなご無礼を働いたのですか!? それは大変失礼致しました。その者は後できつーく叱りつけておきます!」
「ひいっ! そ、それは法律の問題でして私のせいでは、ごにょごにょ……」
思いもよらず自分のせいにされた受付のお姉さんは可哀想なくらいに動揺している。
これは完全にとばっちりだな。
ていうか、エスタ! 人前で俺のことを童貞って言うんじゃない!
「まぁ結婚については、この国の法律がそうなっておるのなら仕方がない。じゃが、その童貞男にはもう一つ問題があっての。訳あって国籍や戸籍がないのじゃ。そこで市長よ、ものは相談なのじゃが――」
そう言うとエスタは、市長を物陰へと導いて耳打ちを始めた。
「……が……じゃから、……での。……ゆえに、……で頼む。悪い話ではなかろう?」
「は、はぁ。しかし、それは……。……はい、はい。そういうことでしたら……」
エスタと市長は腹黒い笑みを浮かべて何ごとかで意見が一致したようだった。
「おい、旦那様よ。市長と話がついた。お主に戸籍が与えられることになったぞ」
「えっ、本当か!? ……でもそれって、結婚するのが条件とかじゃないよな?」
しれっと俺のことを旦那様と呼んでいるあたり、絶対に何か企んでいるに違いない。
「そ、そんな訳なかろう。結婚については法律でまだできぬということじゃったろう」
エスタの目は泳ぎ明らかにきょどっている。
「ならどうして急に、俺に戸籍が与えられることになったんだよ?」
俺はエスタの肩に掴みかかり厳しく問い詰めた。
「そ、それはじゃな。つまり、その……お主は未来の旦那様ということで我が身元引き受け人となり、特例としてお主に戸籍が与えられることになったのじゃ」
くっ……、こいつ。まだ結婚を諦めていないのかよ。
「それを認めさせるために、一体どれだけのパイタケを市長に掴ませることになったか……」
なるほど、そういうからくりだったのか。
「ちょっとエスタさん、それって明らかにダメなやつですよ?」
「そうです、エスタ様! こんな軟弱な童貞男との結婚など明らかにダメなやつです!」
アナスタシアよ、論点はそこじゃない! ていうか、お前も童貞って言うな!
そんなこんなで、エスタのお蔭でもって俺に戸籍が与えられ、無事に住民登録を済ませることができたのだった。
「しょうがないのぉ……。おい、そこの小娘よ。市長を呼べ!」
エスタはやれやれと大きなため息をつくと、まるで飲食店で店長でも呼ぶような気軽さで受付のお姉さんに言いつけた。
「申し訳ございません。市長への面会は事前にアポを取っていただかないと……」
受付のお姉さんは困惑しつつも、こういう際の型通りともいえる返答をした。
「えぃい、相変わらずお役所というところは融通が利かんの! 市長にエスタが来たと言えばそれで分かるわぁ!」
そうしてエスタが市長を呼びつけてから数分後――。
身なりのいい初老の男がばたばたと慌てた様子で駆けつけてきた。
「こ、これはこれはエスタ様! わざわざこのような場所へお越しくださるとは! 前もって仰ってくださればこちらからお迎えに上がりましたものを!」
「いや、今日は忍びゆえ、こっちから出向いたまでのことじゃ」
市長とみられるおっさんはエスタにへこへこと頭を下げている。
えっ? もしかして、エスタって本当はすごい奴なの?
小学○年生くらいにしか見えない幼女に市長があんなにも恐縮しているだなんて。
「――それで。本日はどのようなご用で?」
市長は乱れたバーコード髪を整え、ハンカチで額の汗をぬぐいながら用件を伺った。
「実はの、そこにおる軟弱そうな童貞男と結婚しようと思っての。それで婚姻届を出したのじゃが、そこの受付の小娘ができぬと申して受理してくれなかったのじゃ」
「何と、エスタ様にそのようなご無礼を働いたのですか!? それは大変失礼致しました。その者は後できつーく叱りつけておきます!」
「ひいっ! そ、それは法律の問題でして私のせいでは、ごにょごにょ……」
思いもよらず自分のせいにされた受付のお姉さんは可哀想なくらいに動揺している。
これは完全にとばっちりだな。
ていうか、エスタ! 人前で俺のことを童貞って言うんじゃない!
「まぁ結婚については、この国の法律がそうなっておるのなら仕方がない。じゃが、その童貞男にはもう一つ問題があっての。訳あって国籍や戸籍がないのじゃ。そこで市長よ、ものは相談なのじゃが――」
そう言うとエスタは、市長を物陰へと導いて耳打ちを始めた。
「……が……じゃから、……での。……ゆえに、……で頼む。悪い話ではなかろう?」
「は、はぁ。しかし、それは……。……はい、はい。そういうことでしたら……」
エスタと市長は腹黒い笑みを浮かべて何ごとかで意見が一致したようだった。
「おい、旦那様よ。市長と話がついた。お主に戸籍が与えられることになったぞ」
「えっ、本当か!? ……でもそれって、結婚するのが条件とかじゃないよな?」
しれっと俺のことを旦那様と呼んでいるあたり、絶対に何か企んでいるに違いない。
「そ、そんな訳なかろう。結婚については法律でまだできぬということじゃったろう」
エスタの目は泳ぎ明らかにきょどっている。
「ならどうして急に、俺に戸籍が与えられることになったんだよ?」
俺はエスタの肩に掴みかかり厳しく問い詰めた。
「そ、それはじゃな。つまり、その……お主は未来の旦那様ということで我が身元引き受け人となり、特例としてお主に戸籍が与えられることになったのじゃ」
くっ……、こいつ。まだ結婚を諦めていないのかよ。
「それを認めさせるために、一体どれだけのパイタケを市長に掴ませることになったか……」
なるほど、そういうからくりだったのか。
「ちょっとエスタさん、それって明らかにダメなやつですよ?」
「そうです、エスタ様! こんな軟弱な童貞男との結婚など明らかにダメなやつです!」
アナスタシアよ、論点はそこじゃない! ていうか、お前も童貞って言うな!
そんなこんなで、エスタのお蔭でもって俺に戸籍が与えられ、無事に住民登録を済ませることができたのだった。
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