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第18話

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 とりあえず、俺はアナスタシアを背負って歩き出してはみたものの、どこへ行くという当てがあるわけでもない。

 あぁ、これがガチで路頭に迷うというやつなのか……。

 何はともあれ、今夜の寝る場所を確保しなければならない。

 そういえば『あのにく!』のオズマも、最初の頃は金がなくて豚小屋で寝泊まりしていたんだっけ。

 俺たちもそれを見習って……。

 いやいや、さすがにリアルで豚小屋はないわ。

 ――って、アナスタシアが重い!

 こいつを背負ってまだ数百メートルくらいしか歩いていないのに、疲労感が半端ないんだが……。

 そこら辺へ放り出したくなったその時、背中がふっと軽くなった。

「アナスタシア!?」

 またいなくなったのかと思ったら、通りに面した店先に飾ってある大きい猫みたいなぬいぐるみに抱きついていた。

「おいおい、びっくりさせるなよ! 勝手にうろちょろするんじゃない!」

 慌ててアナスタシアのもとへ駆け寄ってみたものの、一心不乱にそのぬいぐるみにしがみついていて、俺のことなど全く眼中にないといった様子だ。

「あぁ~可愛いでちゅね~! このもふもふがたまらないでちゅね~!」

 えっ、何故に赤ちゃん言葉? キャラ変わってないかこいつ??

「おい、アナスタシア。人の話を聞けって!」

 彼女の肩に手を伸ばそうとした瞬間――。

「ムフーッ! これ、買ってくれないか?」

 アナスタシアがぬいぐるみに抱きついたままくるっと振り向き、目をキラッキラに輝かせて無邪気におねだりしてきた。

 さっきまでのゾンビのような雰囲気はどこへやら、ぬいぐるみに抱きつくアナスタシアのテンションはめちゃくちゃに高い。

 そのぬいぐるみは例えて言うなら、ヨンリオのキャラクターのような思いっきりデフォルメされた黒い猫で、首輪に付いた大きい鈴がトレードマークのようだ。

 まぁこういうのを可愛いと思うあたり、やっぱりアナスタシアも普通に年頃の女の子ということなのだろう。

「買ってくれって、それって売り物じゃないんだろう?」

 そう思ってそのぬいぐるみをよく見ると、てろっと値札らしきものが付いていた。

 ―ニャベゾーくん 2800フリン―

 どうやら、この大きな猫のぬいぐるみはニャベゾーくんという名前の売り物らしい。

「ニャベゾーくん、たっか!」

 2800フリンということは、日本円にすると42万円くらいってことだよな?

 無理無理、絶対に無理! こんなのに42万円はないわ!!

「ねぇ、買って……」

 アナスタシアは俺の手を握りしめると上目づかいに訴えてきた。

 ドキッ!

 いかんいかん。不覚にもまたドキッとしてしまった。

 童貞男子が女の子からこんな風におねだりされたら、普通はコロッといっちゃうよね?

 アナスタシアもアナスタシアで、これを素でやっているとしたら相当な童貞殺しだぞ。

「こんなところで無駄遣いしている場合じゃない! それよりも、今夜の寝る場所を確保しなくちゃなんだよ!」

 俺は心を鬼にしてアナスタシアの手を振り払った。

「え~買ってよ~。ねぇ~、買って買ってぇ~」

 アナスタシアはまた俺の手を握り直すと、左右に大きく振りながらねだりしてきた。

 こういうシチュエーションって何だかデートみたいで憧れてはいたけれど、よりによって相手はこいつだし、おねだりしている物もあまりに高過ぎる。

「ダメったらダメだ! そもそも、ニャベゾーくんは高過ぎて買えないんだってば!」

「ちぇ、ケチ……。これくらいの物も買えないって、貴様は本当に甲斐性のない男だな」

 アナスタシアは握っていた手を放すと、ぷいっとそっぽを向いた。

 カッチーン!

「おい、クソアマ! お前の入市税、一体誰が払ってやったと思っているんだ? 50フリン、後できっちり返してもらうからな!」

「ふん。とんだしみったっれだな。そんなことでは女にはモテないし、いつまで経っても童貞のままだぞ」

 あぁ……。ついに言っちまったなそれを。

 ていうか、俺はまだこいつに童貞だなんて言ってないはずなんだが。

 今すぐこいつの顔面を思いっきり殴り倒してやりたい!

 そんな衝動に駆られて拳を握りしめたその時――。

「ちょっと、お店の前で困ります! 訴えますよ?」

 振り向くとそこに、ケモ耳に尻尾をつけた小柄な女の子がこちらに鋭い視線を向けて立っていた。
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