上 下
10 / 70

第10話

しおりを挟む
「あの~……。だ、大丈夫ですか?」

 俺は恐る恐る女の子に近づいてそっと声をかけてみる。

 着衣が乱れているため、視線が無意識に胸のあたりへ行ってしまうのはしょうがない。
 
 って、でかっ!
 
 豊満なその膨らみはG……いや、Hはあると見た。恐らく俺の彼女だった由依ちゃんよりもでかいはずだ。

「……殺せ。……殺せ」

 女の子は仰向けに横たわり、ハイライトの輝きを失ったいわゆるレ○プ目というやつで虚空を見つめぶつぶつと呟いていた。

「あの~、大丈夫……」

 再び声をかけたその瞬間、女の子がハッと我に返る。

「きゃああああああああ!」

 大きな叫び声を上げると、はだけた衣服を直しつつ後退った。
 
 碧く澄んだその瞳は恐怖に怯え、両手を交差して肩をおさえながらガタガタと震えている。女の子は俺に対して強い警戒心を抱いているようだ。

 そりゃ無理もないか。あんな目に遭った直後なのだからな。

「もう大丈夫ですよ。さっきの奴らは俺が追い払ったので」

 俺は努めて優しく話しかけ、女の子の方へ歩み寄ろうとした瞬間――。

「近づくな! 汚らわしいっ!」

 女の子はそう叫ぶと、敵意をむき出しにした視線を俺に向けてきた。
 
 何でそんなに警戒するのだろう。俺もさっきの奴らの仲間だと思われているのか?

「こっちに来るな、変態っ!」
 
 えっ、変態!? それって俺のこと??

 女の子の目は強い敵意とともに軽蔑の色も浮かべている。

「えーっと、あの……。俺はさっきの奴らの仲間ではないし、それにその……、変態でもないのだが」

 そこはきっぱりと否定すべくやや語気を強めた。

「黙れ! ならばその格好は一体何のつもりだ?」

 ん? 格好??

「――あっ!」

 さっきの戦闘でベルトを外したため、いつの間にかズボンが脱げて下半身がパンツだけという姿になっているじゃないか!

「あっ、こ、これはその……、さっきの連中を追い払うために、えーっと……。武器がなかったから、その……、やむを得ずベルトを抜き取って武器にして、ぶつぶつ……」

 あぁ、きょどりつつ苦しい言い訳をしている自分が恥ずかしい。

 とりあえず、急いでズボンを穿いて身なりを整える。

 そして、辺りに散乱していた女の子の衣服やら持ち物を拾い集めると、女の子のそばへそっと置いてやった。

「それじゃあ改めて、俺の名前は竜舞勝りゅうまいすぐるだ。それとハッキリ言っておくが、俺は変態でもないしさっきの奴らの仲間でもない」
「――ふんっ、そんなこと信じられるものか! その奇妙な服装は、貴様もインヴィランドの兵士なのだろう!」

 そうか、俺のこの制服姿って、こっちの世界では奇妙な格好に見えるんだな。

 ていうか、インヴィランドの兵士って何だ? 

「俺はその……インヴィランドの兵士ではないし、そもそもここがどこなのかも分からない」

「はぁ? ここがどこか分からないだと?? 貴様、私のことを愚弄しているのか!」

 怪訝な表情をしていた女の子の顔がさっと怒りに変わった。

「ここは我が祖国にして全世界で最も偉大で神聖な国フリンス! そこへ貴様のように怪しい変態が足を踏み入れるなど言語道断だ!」

 あぁこいつ、まだ俺のことを変態だと思ってやがる。男に襲われているところを命がけで助けてやったっていうのにさぁ……。

 もういいや。面倒臭いからこれ以上関わるのはやめておこう。

「そ、そうですか。それじゃあ俺はこのへんで……」
「ま、待て! 貴様に頼みがある」

 そそくさと退散しようとする俺を女の子は慌てて呼び止めた。

「はぁ? 頼みがあるだって? 助けたことへのお礼もなしに、しかも不審者&変態扱いしている俺なんかに、一体何の頼みごとがあるっていうんですかぁ??」

 俺は敢えて意地悪く答えてやった。

「うっ……。貴様のことは怪しい。だが奴らを追い払ってくれたことにはその……礼を言う。あ、ありがとう……」

 俯いて照れ臭そうにお礼を言う女の子に俺は不覚にもドキッとしてしまった。
 
 あぁ、そうか!

 これってもしかして、この異世界におけるヒロインとの最初の邂逅イベントというやつじゃないのか!?

 となると、今ここでこの女の子の頼みごとを聞いてあげれば、めでたくメインヒロインということになるわけだ。

 まぁ金髪碧眼に巨乳なヒロインというのもコッテコテだけど、それはそれで王道という感じがして悪くはない。しかも、ツンデレっぽいときている。

 よし。それならば、この子の頼みっていうのを聞いてやろうじゃないか!

 その前に、まずは彼女が誰なのか聞かなければだ。

「人に頼みごとをするのなら、まずは名前くらい名乗ったらどうなんだ?」
「…………」

 女の子は仕方ないといった感じで大きなため息をついた。

「私の名はアナスタシア。絶対崇高な神に仕え、この身を捧げるエックス教の信徒。そして偉大なる我が祖国フリンスへの忠誠を誓う者だ!」

 アナスタシアと名乗るその女の子は力強く、そして誇らしげに自己紹介するとさらに続けた。

「我がフリンスは宿敵インヴィランドと千年にもわたる戦いを続け、今は劣勢に立たされている。そこで神の啓示を授かった私は、救国の英雄となるべく旅をしているのだ」

 えっ? 名前を聞いただけなのに得意げにあれこれ語りだしちゃったぞ、この子。

 しかも自分のことを救国の英雄だとか言っちゃってるよ。

 これって絶対に面倒臭いやつだよね?

 やっぱり深く関わるのはやめておこう……。

「そ、そうなんですか。た、大変ですね。それじゃあ、俺はこの辺で……」
「待て! 頼みがあると言っただろう!」

 アナスタシアはそう叫ぶと、近くに転がっていた自分の剣を支えにして、よろめきながらゆっくりと立ち上がった。

 そして、支えにしていた剣を俺の目の前へ差し出して訴えた。

「頼む、殺してくれ……」
「は、はい?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

処理中です...