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エピローグ

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 僕はいつだって大切な何かを取りこぼしてきた気がする。

 大学受験や高校受験ももれなく失敗したし、別にリアルが充実してる訳でもない。こんな事を言ってると自分で悲しくなってくる。

 何より僕は高校一年生の時に春野千咲というずっと仲が良かった幼馴染の女の子を亡くしたのだった。

 どうしようも無い感情で溢れて、失意と、果てしない虚無と否応なしに向き合わされた。

 だけど一言で言うならば悔しい。乏しい語彙だけどそれに尽きる。

 彼女が病気であることは容態が重篤になるまで知らされなかった。

 それまでの僕は彼女に嫉妬していた。写真の才能があって何度も賞をとって。特筆するような才能が僕には何もなくて。

 だから目を逸らした。見えないフリをした。彼女のことが嫌いになった訳では無いけど自分の小ささを直視させられる気がしたから。

 彼女が亡くなってからようやくその写真に向き合おうと思った。いざ見てみると物凄く綺麗だった。

 この世界はこんなにも綺麗なもので満ちている事を僕はこれまでの人生で知らなかったのかと恥ずかしい気持ちにすらなった。やはり悔しかった。

 中でも目を引いたのは『この「唯一」を君に捧ぐ』という題の写真だった。

 カルガモが泳いでいるだけの他と比べてシンプルな写真。

 問題は撮影場所だ。

 僕は昔からこの湖が大好きだった。何でかは分からないけど子供はそういうものだ。

 だけど、今でもあそこに行くと嫌な事を全部忘れられる気がする。

 彼女はそれを知ってかその湖でよく写真を撮っていた。それの意味する所を僕に関連付けるのは自意識過剰だろうけど全部タイトルが示して居るのだと察することが出来た。

 やはり、また、悔しかった。

 と、何だか暗い話に感じるかもしれないけど別にそういう事を言いたいわけじゃないな。

 ただ、このことをきっかけに色々なものに目を向けたことで、最近ようやく、この世界も悪くないんじゃないかって思えるようになった。

 それでちゃんと自分の未来と向き合おうと思えた。それだけだ。

 彼女は死の間際に大切な物を沢山残せたとそう言っていたらしい。

 明日も明後日もきっと人生は続く。死にたくなった時に僕はふとあの写真を思い出すのだと思う。遺したのだ、彼女は。

 あの公園に久々に来たものだから色々思い出してしまった。

 ふと、木立の当たりからシャッター音が聞こえる。けど辺りを見渡しても何も無い。

 彼女の笑い声が聞こえた気がした。

~完~
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