上 下
4 / 7

第3話 馬鹿。

しおりを挟む
「でも、具体的にはどうするの? 君に何か出来る?」

 彼女の言い方はらしくなく刺々しい。確かに未来はそう簡単に変わるものでは無いのかもしれない。だとしても僕はほんの少しの可能性に懸けたいと思った。

 公園にある時計を見遣ると時刻は三時。事故が起きたのは三時半。もう余裕は無い。

 彼女の生死が僕に掛かっていると思うとプレッシャーで胸がじんじんと痛くなってきた。

 構っていられるものか。

 とは言ってもやる事は単純だ。

 三時半よりも前に安全地帯であろう彼女の家か僕の家に辿り着く。

 本当に申し訳ない事に、これくらいしか思いつかなかった。

 事故が起きたのは公園から彼女の家に行こうと移動しようとした最中のことである。

 これを踏まえると、下手に道を出歩くのもリスクになりかねないし、かと言って公園にずっといるのも最善だとは思えない。

 僕の家に行こうにもそもそも家が隣同士なので同じこと。

 ならいっその事三時半になるまでは何も起きないと仮定するしかない。まぁ僕の頭脳ではだけど。

 結局、夢かどうかもどういう理屈で時間が戻ってるかも分からない以上僅かな可能性に賭けるしか出来ない。だけど可能性がゼロって訳でも無いだろう。

「千咲、早く家に戻ろう」
「え、私まだここいたいんだけど」
「早くしろ」
「え? ほんとにどしたの?」
「助けるって言っただろ」
「はぁ......助ける、ねぇ」

 彼女は渋々と言った様子で立ち上がる。

「行こう」
「まぁ、わかった」

===

 僕らの家は公園から歩いて五分圏内の距離にあるので行くのにさほど時間はかからない。

 汗をかきながらせかせかと見慣れているけど懐かしい町を歩く。

 もうすぐ家に着くし、彼女が事故に遭った地点は既に過ぎた。まだ気は抜けないが、多分大丈夫そうだと思いつつも冷や冷やしながら横断歩道を渡る。

 その刹那だった。明らかに信号無視をしたトラックがこちらに迫ってきた。

 咄嗟に彼女の手を引いて走り、その勢いで歩道に彼女を突き飛ばす。これはこれで危ないだろうけどまた目の前で死なれるよりマシだ。

 トラックが迫ってくる。なのに何故だか足に力が入らない。重い。

 そうだ、もういいのかもしれない。僕は彼女を救ったのだ。

 悔いは無い。別に死にたい訳じゃなかったけど本望だ。

 元々、あの事故からは何も無いロスタイムのような人生を送ってきた訳だし。仮に夢だとしてもただ目が覚めるだけ。だから、もういい。

「蒼!」

 ふと、手が握られたと思えば僕は宙に浮いていた。全体重をかけて引っ張られ僕は歩道に投げ飛ばされる形となった。

 受け身を撮る暇もなく、腰を派手に打ち付け、鈍い痛みが走る。

「馬鹿!」

 見ると、千咲はかなり怒っているようだった。

「どうしてさっき逃げなかったの? 見届けるって言ったのに」
「分からない」

 またお決まりの逃げをした。

 そうだ。僕はさっき自分勝手に死のうとしたのだ。自分の人生なんてどうでもいいと、勝手に妄想して。

「ごめん。元々、ただ僕は君を助けたかったんだと思う」
「自分が良ければそれでいい?」

 今僕は確かに僕は目の前にいる彼女を傷つけたのだ。忘れるなよ。今目の前に誰がいるのか。

 僕を大切に思ってくれる人がそこにいるだろうが。

「良くない、けど」
「なら!」
「分からないんだよ。僕には何も。何がしたいのかも、何ができるのかも」
「そう」
 
 彼女は深呼吸し、再びこちらに視線を向ける。

「もういいや。私の前で死なないって約束して」
「あ、ああ」
「それで、全部話して。私も覚悟決める」

 失いたくはないと、覚悟の籠った優しい眼を向けられる。

 もう隠しては居られないようだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

青春時代のバカでエロい思い出

侘助
青春
性に目覚め、性に翻弄される思春期のバカでエロい男子中学生の物語

信じられるのは見えないものだけ

にいさ
青春
 高校二年生の柊は、バイト帰りに夜の公園で同級生の姫ヶ谷を見かける。彼は誰もいないところに向かって一人で喋っていた。翌日尋ねると「幽霊と話していた」と言う。幽霊など信じていない柊であったが、姫ヶ谷に巻き込まれる形で幽霊を成仏させるための手伝いをさせられることになった。その後も姫ヶ谷が幽霊を見つけるたびに手伝いを頼まれる。乗り気ではなかったが、見返りを求めず他人を助けようとする姫ヶ谷の姿勢に絆される形で毎回協力していくことになる。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

白衣の女神と試験管

芦都朱音
青春
大学に入学した春乃は、高校から同じ大学に進学した友人である光輝の友達作りの誘いを断り、一人広い校内を散歩していた。散歩先で出会ったのは農学部の大学院生、雪子。研究が好きで大学院まで進学した彼女には、どうしても進学したかったもう一つの理由があった――。華麗なる大学デビューを目指す光輝とお節介な奈緒、お色気全開の紗友里に振り回される大学生活。しかし、神はいた。雪子との再開の機会を得られた春乃に待ち受ける結末とは。少し甘酸っぱい青春ストーリー。

退廃くんとカメラ子ちゃん

師走こなゆき
青春
「退廃っていうのかな、そういうのが似合うキミが好きなのさ」  その日、クラスの桂木さんに声をかけられて、僕は驚いた。  クラスこそ同じものの地味で暗い僕とは違い、桂木さんは明るくて奔放的で、まさに真逆の人種。このまま卒業まで、いや、一生交わることのない人間だと思っていた。  それなのに、彼女から声をかけてくるなんて。  その上、カメラのモデルになってほしいなんて。 ※他サイトからの転載です

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...