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プロローグ

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 いつもと同じような夏の日だった。

 いつもの公園で、彼女は今日もいつものように一眼レフのカメラを掲げる。

 陽炎に写る彼女を僕はただ眺めていた。

 パシャリと、シャッター音が微かに聞こえる。

「暑い......何でいつも同じところばかり撮ってるだよ。そろそろ帰らない?」
「待って」

 またパシャリ。いつもこうだ。彼女はことある事にカメラを起動し、目の前の風景を撮り続けている。

 まあいいけど。分かってて僕も彼女といるのだし。

 何よりカメラを掲げる彼女の瞳は何時だって凛と澄んでいて、僕はただ見蕩れていた。あんな風に何かに熱中できる事なんて僕にはないから。

「写真って何が楽しい?」

 ただの興味本位で僕はそう質問をした。

「楽しい......? んーどうだろ」
「楽しくないのにやってるのかよ」
「たいてい、そんなもんだと思うよ。自分でも分からないや」
「じゃあ何で」

 彼女が写真を撮り始めたのは割と最近だけど一度も理由は聞いていない。何だか犯してはいけない、聞いたらいけない禁忌の領域な気がしたから。それくらいに写真に熱中する彼女は僕には余りにも眩しく思えるのだ。

「この唯一を残したいから、かな」
「?」
「この一瞬と全く同じ景色を私達は二度と見ることは出来ないでしょ? 一見同じでもきっとそれはたった一つの唯一。だから残すの」

 彼女の言っていることはよく分からなかった。彼女も僕と同じ中学生なのに達観し過ぎている、不思議な人だとしか思えない。

「そう」

 ぽつりとただ僕は相槌だけを打つ。

 シャッター音が静かな緑の中でまた響いた。

 視野の狭い僕にとってはこの時間こそが僕の世界だ。僕自身には何も無くたって、それさえあればそれで良かった。

 だから、僕らの間に確かに存在する徹底的な差からは今は目を逸らす。

 僕にはまだ君は眩しすぎるから。



 数年後、僕は高校生になるまでただ無為に時間を過ごし、彼女は――この日から間もなくの中二の夏に交通事故でその命を散らした。その傍らにもう動かないカメラを遺して。
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