傷持つ姫と僕

ユウヒ シンジ

文字の大きさ
上 下
27 / 32
第4章 旅立ち

しおりを挟む
「シンジ、上手くいったみたいね」
「うん、これで死んだと思ってくれると思うけどね?」

レアイアとシンジが話し合っていると、ルアルが近づき険しい表情をシンジに向ける。

「そこ! 何終わった感出しているの! これをどうするかがまだ決まってないわよ!」

ルアルがこれと言って、指差した方に、女性と少女がほぼ全裸に近い格好で座り込んでいた。

「ああ、ごめん、ごめん。咄嗟の事だったから。はい、これ毛布」

シンジは何も悪びれるわけでもなく、自分の機能バックから2枚の毛布を取り出し、二人の女性に手渡した。

「うう、く、屈辱ですわ・・・」
「ひ、姫、申し訳ありません。私がついていながら・・・」

半泣きの状態の少女を庇いながら、シンジの方をキッ! と睨む女性。

「まあ、確かに同じ女として、ちょっと今回は、駄目かもね?」
「そうよ、だいたいシンジはデリカシーってもんが欠落しているのよ!」

レアイアもルアルも、今回はさすがにあんたが悪いわよ! と若干軽蔑に似た目をシンジに向けてきた。
それには、さすがのシンジも反省しなくてはいけない事なのか? と自問を始めた。

「だいたい、あの状況での咄嗟の判断でこうやって上手くいっているんだから問題ないでしょ?」

そう、確かにあの場は最善といえば最善なのだろう。

二人が乗った馬車と馬が、人の2~3倍はありそうな大きな岩に激突しそうになった瞬間、シンジが瞬間移動で馬車内部に入ると、何が起こったか分からずに固まってしまった少女を発見。直ぐに手を取り、魔法を発動。一瞬で細身の丸太木が少女と入れ替わった。ただ入れ替わっただけでなく、その丸太には今まで少女が着ていた服がちゃんと着せられていた。
そして次に御者台で今にも飛ばされそうになっていた、女性も同じように丸太と入れ替えさせてしまう。
そして荷物が置いてある場所に火薬が詰め込まれた小さな樽を無造作に置き、樽から少し出ていた導火線に魔法で着火する。それと同時に、シンジは入れ替わった木偶が、彼女達にみえる幻覚魔法を馬車の周囲に展開させた。
それから後は先程見た通りだ。まんまと二人が死んだと騙されて、兵士達は撤退していったのだ。

「やっぱり、どう考えてもこの方法が一番良い気がするんだけど?」

シンジは、少し怯えるような視線でレアイアに、駄目なの? と言いたそうにその母性本能方くすぐる可愛らしい顔で訴えかけてくるので、ついほだされてしまうようだ。

「ああ、もうそんな顔したら可愛いじゃない! 駄目じゃないけど相手は女の子なんだからちゃんと謝んなさい!」
「どうしても?」
「どうしても!!」
「う、うん、分かった」

毛布を抱え身構える彼女達に、シンジは向き直り、地べたに膝を付き正座になると、深々と頭を下げようたした時、シンジの視線の先に、背中が露わになった少女の姿があった。
シンジは絶句する。
その少女の背中にあるモノに、怒りを覚えた。
その背中には、無数の傷やミミズ腫れを起こした跡がくっきりと残っていた。

「!?」

少女は、シンジの視線が自分の背中に向いている事に気付く。

「見た?」

少女はシンジを下から見上げ睨む。

「・・・・う、う、ううん! 見てないよ!」
「・・・・嘘ね?」
「・・・・はい、嘘です。でも、でも、そんなに見てないよ?」
「良いわよ。一応、命の恩人なんだし、それにこれを見られたからって、どうこうするつもりもないから・・」

少女は、あまり表情も変わらず、自分の背中にある傷について、本当に気にしてはいないようだ。
ただ、シンジは、その隣に寄り添うように座る、女性は悲しそうな目をして少女の傷を見ている事に気づいた。
ただ、そこにはあまり他人の自分が踏み込んで良いところではない、という事くらいは分かるシンジだった。

「あ! そうだ!」
「な、何?」
「まだ、ちゃんと謝っていなかった! その、咄嗟の判断とはいえ、女の子を裸にしてしまった事は謝ります。ごめんなさい!」

そういえばと思い出したシンジは、殆ど膝に着くくらいまで大きく頭を下げほぼ裸にしてしまった少女達に改めて謝罪した。

「本当にもう良いわよ。それより何か着るもの貸してくださらないかしら?」

あまりに勢い良く頭を下げるシンジに、毒気を抜かれたのか、つい吹き出してしまった少女だった。

「ああ、ごめんよ。それじゃあそっちの大きい貴女には私の服を貸してあげるわ。そっちのお嬢さんには、ルアル、服貸してあげて?」
「まあ、良いわよ」

そう言って二人はそれぞれのマジックバックから、予備の服を一式二人に渡してあげた。

「シンジ! あんたはあっち行っていなさい!」

徐に、レアイアから明後日の方向に指差しされて、ここから移動するように言われ、シンジは困惑の表情を見せた。

「どうして?」
「ど、どうしてって、女の子の着替えをマジマジと見る男なんて最低だからね」
「え~、去年くらいまではレアイアだって僕の前で平気で下着になって着替えていたじゃない?」
「レアイアさん! 貴女小さいシンジにまさか変なことしてないでしょうね?」

シンジの言葉にあらぬ疑いを掛けるルアル。
それに、顔を真っ赤にするレアイア。

「ば、馬鹿! そんな事するわけないじゃない! ただ、さすがに10才になったシンジの前では恥ずかしくなっただけよ!」
「つまり、シンジを男として意識し始めたって事ですね?」
「!!・・・・・・うう」

顔を真っ赤にして俯いてしまったレアイアを、勝ち誇ったような目で見るルアルだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

異世界に転生!堪能させて頂きます

葵沙良
ファンタジー
遠宮 鈴霞(とおみやりんか)28歳。 大手企業の庶務課に勤める普通のOL。 今日は何時もの残業が無く、定時で帰宅途中の交差点そばのバス停で事件は起きた━━━━。 ハンドルを切り損なった車が、高校生3人と鈴霞のいるバス停に突っ込んできたのだ! 死んだと思ったのに、目を覚ました場所は白い空間。 女神様から、地球の輪廻に戻るか異世界アークスライドへ転生するか聞かれたのだった。 「せっかくの異世界、チャンスが有るなら行きますとも!堪能させて頂きます♪」 笑いあり涙あり?シリアスあり。トラブルに巻き込まれたり⁉ 鈴霞にとって楽しい異世界ライフになるのか⁉ 趣味の域で書いておりますので、雑な部分があるかも知れませんが、楽しく読んで頂けたら嬉しいです。戦闘シーンも出来るだけ頑張って書いていきたいと思います。 こちらは《改訂版》です。現在、加筆・修正を大幅に行っています。なので、不定期投稿です。 何の予告もなく修正等行う場合が有りますので、ご容赦下さいm(__)m

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

もう、いいのです。

千 遊雲
恋愛
婚約者の王子殿下に、好かれていないと分かっていました。 けれど、嫌われていても構わない。そう思い、放置していた私が悪かったのでしょうか?

キャラ交換で大商人を目指します

杵築しゅん
ファンタジー
捨て子のアコルは、元Aランク冒険者の両親にスパルタ式で育てられ、少しばかり常識外れに育ってしまった。9歳で父を亡くし商団で働くことになり、早く商売を覚えて一人前になろうと頑張る。母親の言い付けで、自分の本当の力を隠し、別人格のキャラで地味に生きていく。が、しかし、何故かぽろぽろと地が出てしまい苦労する。天才的頭脳と魔法の力で、こっそりのはずが大胆に、アコルは成り上がっていく。そして王立高学院で、運命の出会いをしてしまう。

処理中です...