傷持つ姫と僕

ユウヒ シンジ

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第3章 クルデ村

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あれから、彼女は泣き続けていたが、暫くして落ち着いたのか、泣くことは無くなっていた。

「その、何て言うかごめん」

彼女が少し落ち着いてきたので、シンジは改めて謝る。彼女は黙ったままだ。
今、この部屋にはシンジと彼女だけになっていた。
エレノアールは彼女の着替えや、お風呂の用意をするために一旦離れていた。

「あ、そうだ。お腹空いているよね?」

彼女はまだ黙ったままだ。

「でも、いきなり食事っていっても身体が受け付けないか? じゃあ、スープでも持って来るよ。ちょっと待っててね」

黙ったままの彼女を一度見て、部屋を出ようとするシンジ。

「ちょっと、待って」

扉を開け部屋を出ようとした時、不意に彼女から言葉を掛けられ振り向く。

「どうしたの? 何処か痛くなった? ちょっと待っててね。母様を呼んで来るから」

そう言って再び出ようとするシンジに彼女がまた声を掛ける。

「違うの! ちょっと、こっちに来てここに座ってちょうだい!」

すこしいらついている様な彼女の声に少し驚くも、シンジは言う通りにベット横の置いてある丸椅子に腰掛けた。
彼女はベットの上で座ったまま、シンジの方を強い視線で睨みつけてくる。
シンジはやっぱり怒られるのかと思って覚悟をしていたが、聞こえてきた彼女の言葉は違っていた。

「その、ね、あ、ありが、とう」

一言、言って彼女はシンジとは反対の壁の方に顔を背けた。

「え?」
「だから、有り難うって言ってるの!」

シンジからは顔が良く見えないけど、耳が真っ赤になっているから想像はついた。

「は、は、良かったー。もの凄く怒られるのかと思ったよ」

緊張感から解放されてシンジはホッとする。

「どうして、怒る必要があるのよ。貴方は、私を救ってくれたんでしょ? 感謝する事はあっても、怒る事はなわよ」
「でも、唇の事とか、角の傷の事とかもあるでしょ?」

「それはそうだけど、私だって意識が無い状態とはいえ、貴方を殺そうとしたんでしょ? それを防ぐ結果でこうなってしまったんだから、貴方の責任じゃないわよ」

「そっか、でも改めて謝るよ。女の子にとって大事なものを故意ではないけど奪ってしまって、ごめんなさい」

椅子に座ったままだが、両膝に頭が付くくらい深く謝るシンジを見て、彼女は大きく息を吐く。

「貴方って、人族の血が入っているのに優しいね」

そう言う彼女の顔は今までと違って少し力が抜けた柔らかい表情になっていた。

「でも、まだ信用した訳じゃないからね。それと、貴方を夫にするとかは別の話だからね。信用もしてない男を旦那さんになんか出来ないわよ」

怒った顔で言い放つ彼女だが、それは今までの雰囲気とは大きく違うように感じられた。

「え?じゃあ、信用してくれたら言い訳?」

シンジは特に意味があった訳ではなかったが、ついそんな風に聞いてしまった。

「バ!馬鹿!信用なんて簡単にしないからね。でも、あんた、強そうだし鬼族の男性と比べても遜色ないのだけは認めてあげるわ」

さっきより一層顔が赤くなっているようだ。

「えへへへへ、有り難う」

シンジも強いと認めてくれたので、少し嬉しくなっていた。

「ぐ~きゅるきゅる」

話が終わったと思ったら、タイミング良くお腹の虫がなるもんである。
彼女はもう身体中が真っ赤っかだった。

「ごめん!今スープを持ってくるから、待っててね」

椅子を勢い良く立とうとした時、彼女が向こうを向いたまま、手だけシンジの方に伸ばしてきた。

「私はルエル、ルエル・ダイアファレス、です」

シンジは一瞬解らなかったがそういえば自己紹介してない事に気付いた。

「あ!そうだね。僕はシンジ・コールウェルだよ。よろしく、ダイアファレスさん」

「ルエルで良いわよ。私も、シンジって呼ぶから」
「解った、ルエル宜しく」

二人は、自己紹介を終え握手する。
シンジはそれからスープを取りに部屋をでた。

「シンジ~、良い雰囲気だったね」

部屋を出て、廊下の角を曲がった死角にエレノアールが潜んでいたらしく、出会い頭にシンジを抱きしめた。

「な!母様!何してるんですか?!」
「何って、息子の成長を喜んでいたのよ」
「馬鹿な事言ってる母様に付き合ってるほど暇じゃないんです」

顔を赤くしたシンジは強引にエレノアールから逃れると、村の食堂のある建物の方に向かって走って行った。
それをエレノアールは微笑ましく眺めていた。

「けど、凄い名前が出てきたわね。これは、一騒動どころじゃ済まないかもしれないわね」

シンジの後ろ姿を見ながら、これからの事を思い少し憂鬱な気持ちになっているエレノアールだった。
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