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思いがけない出会い 6
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東の空が、漆黒から薄い紫色に変わり地平の先は赤みを帯び始めていた。
「ライゼン様、色々とありがとうございました」
陽がまだ昇らない薄暗い野営地。
僕は出発の準備を終え、わざわざ見送りの為に朝早く起きてくれたライゼン様にお礼を言った。
「なあに、大した事じゃない。それよりリデルの作ってくれた晩飯、最高に美味しかった。逆に世話になってしまったな」
「そんな、有るもので作ったスープですよ?」
「馬鹿野郎、パーティーで女性がいる所なら別かもしれんが、冒険者や騎士傭兵を生業にしている者にとって、野営での飯っていうのは、クソまずい物に決まってんだ。それがあの風味溢れる野草と干し肉のスープ。旨味と塩味と香草の香りが相まった絶妙なバランス。今思い出しただけでも涎が出てしまうものなんだぞ!」
「は、はあそうですか。お口に合ってなによりです」
ライゼン様の様子からするとお世辞という訳じゃなさそうだけど、少し大袈裟じゃないだろうか?
「おい、リデル。もし気が向いたらで良いから俺の娘婿にならねぇか?」
「はい?」
「これだけの薬草、料理に仕える知識と腕前。俺のガサツな娘の夫になってくれたら、いつでも上手い物が食える」
「それは、娘さんが可哀想じゃないですか?」
「は! あのガサツ娘に婿にくる男なんかいねえよ」
「・・そのガサツな娘さんを僕に? ですか?」
「う、だ、だがな! 顔とスタイルは俺の奥さんに似て悪くないぞ?」
「そう言う問題ではないですよ! 娘さんの気持ちを無視したら駄目じゃないですか!」
「いや、しかしこの料理の腕前は捨てがたいんだが・・」
「・・・・はぁ、もしシアゴの街に来る機会が有ったら、僕を訊ねて来てください。豪華とはいきませんが何か料理を作りますので」
「ほ、本当か?!」
「本当です」
「そうか・・分かった! 近いうちに必ず寄るからな!」
「はい、お待ちしています」
そこまで僕の料理を喜んでもらえて嬉しいけど、騎士様が家に来てくれるなんて言ったら母さんと妹のミリルは驚くだろうな。
「ライゼン様、それでは僕はこれで失礼いたします」
「ん? そうか。気を付けて帰るんだぞ?」
「はい」
「リデル、本当に食べに行くからな!」
「はは、はい、いつでも歓迎いたします!」
大きく手を振りながらその場を後にし、家路についた。
ライゼン様の心配が杞憂に終われば問題ないのだけど、念の為にこのまま薬草採取に行かず、一旦家に戻る事を進められた。
名前を知ったブルカ様が無理矢理僕を襲う事もあるかもしれないと言うからだ。
とは言っても僕としてはブルカ様も良い人だと思いたいし、そんな下心があって僕に近づいて来たとは思いたくはないのだけど・・・
「良いから、ここは年配のおじさんの言う事を聞け!」
と、有無を言わさずに納得させられたので従う事にした。
目的の薬草地帯までは行けなかったのは残念だけど、途中幾つか薬草が生えているのを確認していたから、それを採取すれば幾らかの金にはなるはずだし今回は諦めよう。
僕はもう一度振り返り、見送ってくれているライゼン様に頭を下げた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
「行ったか。さて俺はあの若造を探してみるか・・」
「・・・ライゼン殿は居られますか?」
リデルを見送っていたライゼンの元に、野営地を警備する冒険者の警備隊員の一人が駆け寄って来た。
「ライゼンは俺だがどうした?」
「はい、ライゼン様にアスランド王国より魔法通信がありましたのでご報告に」
「アスランド王国から?」
「はい、それでこれが通信内容にございます」
そう言って警備隊の者が二つ折りになった一枚の紙を差し出して来た。
「俺は引退した身なんだがな、まったくアスランド王にも困ったもんだ」
警備隊の者には聞こえない程度の小声でブツブツと悪態をつきながらその手紙を受け取ると、直ぐに開き内容を確かめる。
「・・・・・・!? なっ・・・そうか魔王様が・・・おい! 君!」
「は?! はい!」
通信の内容を確認したライゼンは警備隊の者に声を掛ける。
「アスランドに返信を頼む。了解したと」
「は、はい! 承りました・・・内容はそれだけでよろしいですか?」
「ああ、頼む」
その言葉を聞き警備隊の者が来た道を戻って行った。
「さて、目的変更だけど・・・まさかとは思うがリデル・・・・あの様子だと全ての名は言ってないみたいだったな。あれが真名じゃないとしたらまだ複数の名を持っている・・・調べるだけ調べてみるか」
リデルが去って行った方を見つめるライゼンだった。
「ライゼン様、色々とありがとうございました」
陽がまだ昇らない薄暗い野営地。
僕は出発の準備を終え、わざわざ見送りの為に朝早く起きてくれたライゼン様にお礼を言った。
「なあに、大した事じゃない。それよりリデルの作ってくれた晩飯、最高に美味しかった。逆に世話になってしまったな」
「そんな、有るもので作ったスープですよ?」
「馬鹿野郎、パーティーで女性がいる所なら別かもしれんが、冒険者や騎士傭兵を生業にしている者にとって、野営での飯っていうのは、クソまずい物に決まってんだ。それがあの風味溢れる野草と干し肉のスープ。旨味と塩味と香草の香りが相まった絶妙なバランス。今思い出しただけでも涎が出てしまうものなんだぞ!」
「は、はあそうですか。お口に合ってなによりです」
ライゼン様の様子からするとお世辞という訳じゃなさそうだけど、少し大袈裟じゃないだろうか?
「おい、リデル。もし気が向いたらで良いから俺の娘婿にならねぇか?」
「はい?」
「これだけの薬草、料理に仕える知識と腕前。俺のガサツな娘の夫になってくれたら、いつでも上手い物が食える」
「それは、娘さんが可哀想じゃないですか?」
「は! あのガサツ娘に婿にくる男なんかいねえよ」
「・・そのガサツな娘さんを僕に? ですか?」
「う、だ、だがな! 顔とスタイルは俺の奥さんに似て悪くないぞ?」
「そう言う問題ではないですよ! 娘さんの気持ちを無視したら駄目じゃないですか!」
「いや、しかしこの料理の腕前は捨てがたいんだが・・」
「・・・・はぁ、もしシアゴの街に来る機会が有ったら、僕を訊ねて来てください。豪華とはいきませんが何か料理を作りますので」
「ほ、本当か?!」
「本当です」
「そうか・・分かった! 近いうちに必ず寄るからな!」
「はい、お待ちしています」
そこまで僕の料理を喜んでもらえて嬉しいけど、騎士様が家に来てくれるなんて言ったら母さんと妹のミリルは驚くだろうな。
「ライゼン様、それでは僕はこれで失礼いたします」
「ん? そうか。気を付けて帰るんだぞ?」
「はい」
「リデル、本当に食べに行くからな!」
「はは、はい、いつでも歓迎いたします!」
大きく手を振りながらその場を後にし、家路についた。
ライゼン様の心配が杞憂に終われば問題ないのだけど、念の為にこのまま薬草採取に行かず、一旦家に戻る事を進められた。
名前を知ったブルカ様が無理矢理僕を襲う事もあるかもしれないと言うからだ。
とは言っても僕としてはブルカ様も良い人だと思いたいし、そんな下心があって僕に近づいて来たとは思いたくはないのだけど・・・
「良いから、ここは年配のおじさんの言う事を聞け!」
と、有無を言わさずに納得させられたので従う事にした。
目的の薬草地帯までは行けなかったのは残念だけど、途中幾つか薬草が生えているのを確認していたから、それを採取すれば幾らかの金にはなるはずだし今回は諦めよう。
僕はもう一度振り返り、見送ってくれているライゼン様に頭を下げた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
「行ったか。さて俺はあの若造を探してみるか・・」
「・・・ライゼン殿は居られますか?」
リデルを見送っていたライゼンの元に、野営地を警備する冒険者の警備隊員の一人が駆け寄って来た。
「ライゼンは俺だがどうした?」
「はい、ライゼン様にアスランド王国より魔法通信がありましたのでご報告に」
「アスランド王国から?」
「はい、それでこれが通信内容にございます」
そう言って警備隊の者が二つ折りになった一枚の紙を差し出して来た。
「俺は引退した身なんだがな、まったくアスランド王にも困ったもんだ」
警備隊の者には聞こえない程度の小声でブツブツと悪態をつきながらその手紙を受け取ると、直ぐに開き内容を確かめる。
「・・・・・・!? なっ・・・そうか魔王様が・・・おい! 君!」
「は?! はい!」
通信の内容を確認したライゼンは警備隊の者に声を掛ける。
「アスランドに返信を頼む。了解したと」
「は、はい! 承りました・・・内容はそれだけでよろしいですか?」
「ああ、頼む」
その言葉を聞き警備隊の者が来た道を戻って行った。
「さて、目的変更だけど・・・まさかとは思うがリデル・・・・あの様子だと全ての名は言ってないみたいだったな。あれが真名じゃないとしたらまだ複数の名を持っている・・・調べるだけ調べてみるか」
リデルが去って行った方を見つめるライゼンだった。
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