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入団編
01-18 邂逅
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アリサたちが銀付き第八十七隊に入団してから日は流れ、五日ほど日が経過した。
訓練初日はバテバテだった新人たちも、流石に毎日同じことをこなしていれば、少しずつ成長の兆しが見えてくる。
覚えるべき仕事も日に日に増えて、午前中は宿舎の掃除だけでなく、隊の武器の整理や生活用品、食料品の備品の整理と管理業務を行い、午後は簡単な書類仕事と先輩兵の仕事の見学などをしてから訓練に明け暮れていた。
「お待たせしました」
軍服ではなく、ベージュの上着と黒のズボンにダークブラウンのベルトとロングブーツ。左手には金の指輪と、普段最もよく着ているスタイルの服に着替えたアリサが自室から外へと出ると、部屋の前の廊下には同じく私服に着替えたレオンハートとリックが立っていた。
レオンハートは白いワイシャツに黒のスッキリとした細身のズボン。シンプルだがシャツの袖口や襟元にはラインが入っており、よくよく見るとそれは凝った刺繍のデザインが施されている上品なもので、靴はラセットブラウンのフロントレースアップブーツを履いている。
リックは、オリーブのチュニックに濃いグレーのズボン。上下ともにアリサが着ているものと同じく柄のないシンプルなデザインで、靴は青みがかった黒の靴紐のないショートブーツを履いていた。
三人とも軍から支給されている剣を携えている以外は、休日用のラフな私服姿だ。
「よし、じゃあ行こうか?」
「楽しみだね」
初めての休暇に笑顔を浮かべてアリサを待っていたレオンハートとリックに促され、三人は歩き出す。
「城下町に下りるには、三十五隊の宿舎まで向かわないと行けないんですよね?」
自分たちの八十七隊の宿舎を出て、王宮敷地内にある別の部隊の宿舎を目指す。
王宮の敷地広い。王宮そのものは当然として、その直下には貴族が住まう貴族街の一等地があり、その更に行った先が平民の住む二等地、所謂城下町と呼ばれる場所がある。
城下町に下るには馬車を使わなければ、かなりの時間を有してしまうが、国に勤める軍人や役人はそれとは別に転移魔法を施してある施設を借りる権利があり、アリサたちはその施設を目指していた。
「転移魔法を使って移動出来るって便利だな」
「そうですね。試験や入団初日はなかなか目的地に着かなくて大変でした」
たった数日前のことなのに、幾ばくか懐かしく感じるのは、日々が濃く充実しているからだろうか。
毎日のように訓練で王宮の敷地内をマラソンをさせられているお陰で、雑談を交えながらもアリサたちの足は迷いなく目的の場所へと向かう。
「最初はどこに行く?」
「とりあえずは、部屋のカーテンが欲しいよな。布を買いに行こう」
「そうですね。後は幾つか消耗品が欲しいので、その辺りが調達出来ると嬉しいですね」
三十五隊の宿舎は王宮を中心とした南東方面で、八十七隊よりも王宮に近い。三人が少し雑談をしている間に目的地には直ぐに辿り着いた。
八十七隊の宿舎よりも一回り大きな宿舎。
表で見張りをしている三十五隊の兵士に話し掛けると、そのまま中へと案内されて三人は入口近くの小さな部屋の一角へと進んだ。
部屋の中は宿舎の自室と同じぐらいの広さがあり、奥に執務机が二つ隣り合わせで並び、それぞれの椅子に一人ずつ係りの者らしき兵士が座っていた。
「八十七隊レオンハート・ディックス、アリサ・ランディム、リック三名。二等地への外出です」
「確認します」
係りの一人、深紫色の髪の毛の兵士にレオンハートが声がけすると、彼は手元の書類とアリサたちを見比べて、書類に何かを書き始める。
「確認出来ました。新しく入団された方ですね」
確認が終わったのか、顔を上げて係りの兵士が涼やかな声で述べる。
彼は書き込みをしていた紙をそのまま机の上で回転させ、アリサたちに紙の下部を開いた手の先で示した。
「軍の転移魔法での移動は幾つか決まりがありますので、簡単に説明致します。外出時転移する場所、戻る場所は規定があります。今回向かうのは二等地なので、ご自身で到着場所を指定出来ます。指定出来る箇所は五つです」
示された紙に記載されているのは、二等地の大まかな地図だ。
東西南北に一ヶ所ずつ。それ以外は中央に一ヶ所の計五つをそれぞれ指差した。
「王宮、一等地、その他は向かう場所の許可が出ている場合のみ、使用が可能です。また、戻りの場合は基本的にはこちらの部屋に戻り、その報告をお願い致します。今回の外出届けは夕刻までになっております。定刻までに戻らない場合は、トラブルが発生したとみなされご自身部隊に連絡がいきますので、時間内に戻れない場合は何かしらの報告を行って下さい。連絡がない場合は緊急時を除き罰則もありますので気を付けて下さい。ご質問は?」
少し長めの説明ではあったが、少し女性的な澄んだ声はまるで詩でも聴いているようで、耳に入りやすい。
また、内容も簡潔で特に問題なかった三人は、互いに目配せをした。
「問題ありません」
代表してレオンハートが再び答えると、係りの兵士は再び書類を回転させてサインを施し脇に寄せると、テーブルの引き出しから深緑色の薄い箱を取り出した。
「剣をこちらへ」
執務机に剣を置くように促され、三人はそれに従う。
箱を開け、兵士が言霊を唱えると、三本の剣が淡い緑の色を帯びて僅かに光り、瞬間光りは雲散する。
「貴殿方の剣に二回分の転移魔法を施しました。間違えて一度に二回使わないように。またあり得ないと思いますが、盗難には気を付けて下さい」
最後の説明が終わると、アリサたちは魔法が込められた己の剣を再び装備した。
手続きをしてくれた兵士に礼を言うと、彼はにっこり笑い会釈する。
「じゃあ行くか!」
「二等地中央へ!」
張り切る二人にアリサも頷き、それぞれ剣のガードに触れる。ジワリと剣に触れた手から温かな熱を感じたかと思うと、白緑の光が漂い始めた。
――――そう言えば、これの使い方聞いてないような。
転移魔法ってどうやって使うんだと疑問に思いながら、アリサの体は光に包み込まれていった。
訓練初日はバテバテだった新人たちも、流石に毎日同じことをこなしていれば、少しずつ成長の兆しが見えてくる。
覚えるべき仕事も日に日に増えて、午前中は宿舎の掃除だけでなく、隊の武器の整理や生活用品、食料品の備品の整理と管理業務を行い、午後は簡単な書類仕事と先輩兵の仕事の見学などをしてから訓練に明け暮れていた。
「お待たせしました」
軍服ではなく、ベージュの上着と黒のズボンにダークブラウンのベルトとロングブーツ。左手には金の指輪と、普段最もよく着ているスタイルの服に着替えたアリサが自室から外へと出ると、部屋の前の廊下には同じく私服に着替えたレオンハートとリックが立っていた。
レオンハートは白いワイシャツに黒のスッキリとした細身のズボン。シンプルだがシャツの袖口や襟元にはラインが入っており、よくよく見るとそれは凝った刺繍のデザインが施されている上品なもので、靴はラセットブラウンのフロントレースアップブーツを履いている。
リックは、オリーブのチュニックに濃いグレーのズボン。上下ともにアリサが着ているものと同じく柄のないシンプルなデザインで、靴は青みがかった黒の靴紐のないショートブーツを履いていた。
三人とも軍から支給されている剣を携えている以外は、休日用のラフな私服姿だ。
「よし、じゃあ行こうか?」
「楽しみだね」
初めての休暇に笑顔を浮かべてアリサを待っていたレオンハートとリックに促され、三人は歩き出す。
「城下町に下りるには、三十五隊の宿舎まで向かわないと行けないんですよね?」
自分たちの八十七隊の宿舎を出て、王宮敷地内にある別の部隊の宿舎を目指す。
王宮の敷地広い。王宮そのものは当然として、その直下には貴族が住まう貴族街の一等地があり、その更に行った先が平民の住む二等地、所謂城下町と呼ばれる場所がある。
城下町に下るには馬車を使わなければ、かなりの時間を有してしまうが、国に勤める軍人や役人はそれとは別に転移魔法を施してある施設を借りる権利があり、アリサたちはその施設を目指していた。
「転移魔法を使って移動出来るって便利だな」
「そうですね。試験や入団初日はなかなか目的地に着かなくて大変でした」
たった数日前のことなのに、幾ばくか懐かしく感じるのは、日々が濃く充実しているからだろうか。
毎日のように訓練で王宮の敷地内をマラソンをさせられているお陰で、雑談を交えながらもアリサたちの足は迷いなく目的の場所へと向かう。
「最初はどこに行く?」
「とりあえずは、部屋のカーテンが欲しいよな。布を買いに行こう」
「そうですね。後は幾つか消耗品が欲しいので、その辺りが調達出来ると嬉しいですね」
三十五隊の宿舎は王宮を中心とした南東方面で、八十七隊よりも王宮に近い。三人が少し雑談をしている間に目的地には直ぐに辿り着いた。
八十七隊の宿舎よりも一回り大きな宿舎。
表で見張りをしている三十五隊の兵士に話し掛けると、そのまま中へと案内されて三人は入口近くの小さな部屋の一角へと進んだ。
部屋の中は宿舎の自室と同じぐらいの広さがあり、奥に執務机が二つ隣り合わせで並び、それぞれの椅子に一人ずつ係りの者らしき兵士が座っていた。
「八十七隊レオンハート・ディックス、アリサ・ランディム、リック三名。二等地への外出です」
「確認します」
係りの一人、深紫色の髪の毛の兵士にレオンハートが声がけすると、彼は手元の書類とアリサたちを見比べて、書類に何かを書き始める。
「確認出来ました。新しく入団された方ですね」
確認が終わったのか、顔を上げて係りの兵士が涼やかな声で述べる。
彼は書き込みをしていた紙をそのまま机の上で回転させ、アリサたちに紙の下部を開いた手の先で示した。
「軍の転移魔法での移動は幾つか決まりがありますので、簡単に説明致します。外出時転移する場所、戻る場所は規定があります。今回向かうのは二等地なので、ご自身で到着場所を指定出来ます。指定出来る箇所は五つです」
示された紙に記載されているのは、二等地の大まかな地図だ。
東西南北に一ヶ所ずつ。それ以外は中央に一ヶ所の計五つをそれぞれ指差した。
「王宮、一等地、その他は向かう場所の許可が出ている場合のみ、使用が可能です。また、戻りの場合は基本的にはこちらの部屋に戻り、その報告をお願い致します。今回の外出届けは夕刻までになっております。定刻までに戻らない場合は、トラブルが発生したとみなされご自身部隊に連絡がいきますので、時間内に戻れない場合は何かしらの報告を行って下さい。連絡がない場合は緊急時を除き罰則もありますので気を付けて下さい。ご質問は?」
少し長めの説明ではあったが、少し女性的な澄んだ声はまるで詩でも聴いているようで、耳に入りやすい。
また、内容も簡潔で特に問題なかった三人は、互いに目配せをした。
「問題ありません」
代表してレオンハートが再び答えると、係りの兵士は再び書類を回転させてサインを施し脇に寄せると、テーブルの引き出しから深緑色の薄い箱を取り出した。
「剣をこちらへ」
執務机に剣を置くように促され、三人はそれに従う。
箱を開け、兵士が言霊を唱えると、三本の剣が淡い緑の色を帯びて僅かに光り、瞬間光りは雲散する。
「貴殿方の剣に二回分の転移魔法を施しました。間違えて一度に二回使わないように。またあり得ないと思いますが、盗難には気を付けて下さい」
最後の説明が終わると、アリサたちは魔法が込められた己の剣を再び装備した。
手続きをしてくれた兵士に礼を言うと、彼はにっこり笑い会釈する。
「じゃあ行くか!」
「二等地中央へ!」
張り切る二人にアリサも頷き、それぞれ剣のガードに触れる。ジワリと剣に触れた手から温かな熱を感じたかと思うと、白緑の光が漂い始めた。
――――そう言えば、これの使い方聞いてないような。
転移魔法ってどうやって使うんだと疑問に思いながら、アリサの体は光に包み込まれていった。
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