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第一章:異世界漂流
其の九話:最悪と安息 その9 和穂の一番長い夜 #5 フェリア
しおりを挟む光の中、和穂はゆったりと揺られていた。
暑くもなく、寒くもなく、寄せては返す寄せては返す光の揺らぎに身を任せていた。
あれだけ重かった身体が軽い。熱い針の上を転がされていたような痛みも消えていた。
この光は癒し効果もあるらしい。
『お加減は如何ですか、マスター』
呼び掛けられて薄く開いた目に人影が見えた。
「誰」
姿を追って首を動かすと、それは和穂の顔の正面へ移動してきた。
光に同化しそうな淡い輪郭だけの存在、手を伸ばすと手の甲に立ち上がった。
小さい。和穂の広げた手の大きさと同じぐらいか、背中に四対の羽のようなものが見えた。
「妖精、なのか」
そのまま自分の方に引き寄せる。和穂の手に乗ったまま、それは目の前までやって来た。
『私は妖精ではありません。初めまして、マスター』
「マスターって、君は何なんだ」
『あなたが掴んでいた剣です』
「剣って、あの棒のこと」
『はい、あれが私です』
「信じられない、封印でもされていたの」
『わかりません。契約解除と共に私はリセットされ適性者と出会うまで休眠状態にはいりますので』
「契約って」
『私との契約のことです。それによって私を使用することが可能となります』
「契約しなかったら、君はどうなるの」
『わかりません。ですがマスター、残念ながら契約はすでに受理されています』
「どういうこと、僕は知らないよ」
『あなたが私に血を注いだ時に、そして私を抜いた時に』
「だってあれはずるいよ」
握ったら取れない抜けないなんて、殆どボッタクリじゃないか。
それに血が流れたのだって不可抗力だ。好きで斬られた訳じゃない。
僕の知らないところで話が進んでいる。
和穂は頭を抱えた。
「あの、契約解除とかは」
『マスターが死ぬことで解除となります』
悪魔か、和穂が毒づいた。
『ですがマスター、今のマスターのLvは無いに等しいです。私を手に入れる事で少しは状況もマシになるのでは』
痛いところを突くなぁ。
これは悪魔の囁きだ、聞くんじゃないと声が聞こえる一方で、少しでも抗える方法があるならば助かる確率も上がるんじゃないか、リタも来てくれたし、なんとかなるかもしれない。
「でも方法はあるの、さっきも言ったけど僕は剣もなにも使えないよ」
『それに関しては……』
「えー、だってさっきはリセットされるって
言ったじゃないか。矛盾してない」
『マスターの考え方の方がおかしいです。大体、リセットするごとに経験値をゼロから稼いでいたら効率が悪いです』
効率って、たしかにそうだけど。
『逃げる時間は稼げますよ。ただ、可動時間はLvに偏りますから、マスターの場合は迅速に、です』
「わ、わかったよ」
『では私に名前を下さい』
「名前って」
『私はマスターから名前を頂いて初めて起動状態になります。どうぞ、良い名前をお願いします』
「名前って急にいわれても」
何も思い付かない。
こうしているうちにも事態は進んでいる。命が時間に刻まれている。だけど、目の前の自称〝剣〟であると主張する淡い輪郭を起動しなければ、僕は確実に斬られる。
和穂はローザの躊躇ない攻撃を思い出して身震いした。
「フェリア、とか」
『ではフェリアで登録します。ではマスター、末長くよろしくです』
「よ、よろしく」
『長く感じたと思いますが、この状態はただの情報のやり取り、一瞬の夢に過ぎません。現実時間でも経過はコンマ1秒未満です。解除と同時にスキル発動開始します。心の準備を』
「わ、わかった」
『では解除します』
光が四散した。
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