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第一章:異世界漂流

其の七話:最悪と安息 その7 和穂の一番長い夜 #3 ついてない夜

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「館……だよね。リタの家じゃない」
 大きさは和穂が通っていた高校校舎の半分ぐらいか、暗いため外観もよくわからない。
 縦に並んだ大きな窓の光の数から二階以上であることはわかった。
 そのひとつから布のようなものが外に出て風に揺れていた。中から漏れる明かりに照らされ、炎が吹き出しているように見えた。
「あそこにいたんだ」
 二階、左から二番目の窓、手前にバルコニーがある。布はカーテンかな。
 よく無事だったなと、和穂は自分のことながら感心する。身体は痛いがなんとか立ててるし動ける。
(隠れなきゃ)
 思って、錆びついたような身体をノソノソと動かした時、揺れるカーテンの奥から何かがバルコニーに姿を現した。
 それは人のようにも見えた。
 一瞬、リタかもと思い、呼び掛けようとして思い止まった。もし、自分を吹き飛ばした黒い影の方だったとしたら今度こそ無事では済まない。このまま、この闇に紛れて隠れた方がいい。明るくなったらリタを探して、何かを誤解しているようだったら、その誤解を解こう。
 なるべく水音を立てないように動く。
 直に浅くなり始め水から出た。
 人影はバルコニーから動かない。自分を探しているんだろうか。和穂は足元を探るように歩き出した。
 歩き出して直ぐに何かにぶつかった。
 恐る恐る手を伸ばしてそれに触れた。
 細長く硬い棒のように思えた。地面に刺さっている。引いてみるが全く動かず、更に力を込めて両手で引くと僅かに動いた。
 それだけのことでかなり疲れた。
 棒を握ったまま少し休むと不思議に疲れが取れた。さっきまで重かった身体が嘘のように軽くなり、何より全身の痛みが消えた。
「どういうこと」とその謎を解明するより、この場から逃げる事を選択した。
 しかし、動けなかった。
「えっ、て、手が」
 手が棒から離れなかった。まるで接着剤でも塗られていたかのように掌が貼り付いて取れない。
「まさか、トラップ」
 なんてついてない日なんだと俯いた時、空が光った。
 突然の光に目が眩んだ。手を翳すことも出来ず、和穂は固く目を閉じ顔を背ける。
 薄く目を開けたその隙間から光りが刺しここんだ。その眩しさに反射的に目が閉じる。
 少し間を置いて目を開いた時、その前に一人の女性が立っていた。
 その姿に思わず和穂がつぶやいた。
「め、めいど……さん」



 

 
 
 
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