4 / 18
閑話①「アームズ」
しおりを挟む
アクアリウス南方市街、壊滅。
このニュースが王都サダルスウドに伝わったのは、3日後であった。
敵は正体不明。見慣れぬ鉄の甲冑に身を包み、『水装』を使う兵士。
水装以上の武装をしていないアクアリウス兵は彼らに敵わず全滅した。市民も皆殺し。南方市街にある『森の泉』は敵の手に渡った。
そして3日後とは、『黄道審判』から王が帰還する日であった。
☆
「なんという事だ!王の不在を狙って南の城壁が突破されただと!?」
「……突破されたのが4日前の夜。その次の朝には砦の街を占拠され、昼には……例の『泉』の街へ侵略」
金髪蒼眼の王は帰ってもまた会議であることに少し参った様で、玉座に肘を突く。
隣の大臣が会議の出席者に怒鳴る。
「護国の『水装士』はどうした!奴等が居てみすみすやられる訳が無いだろう!」
それを受けてやや若い将が手を挙げる。今この場にはアクアリウス軍の幹部以上、総勢20名が集まって円卓を囲んでいる。
「早馬によると、攻め込んできた敵の数は4000。南の城壁を護る水装士は2000」
「たかが倍の数なら、守りのこちらが優勢だろう!地の利がある!」
「そして現在の敵の数は……約6000」
「何!?」
円卓がざわついた。若い将は続ける。
「さらに敵は『水装』を使う。……つまりーー」
「寝返ったのか!?我らが誇り高き『水装士』が!国家機密である『水装』を横流しして!」
若い将の言葉を遮って大臣が叫ぶ。
「……ですが」
「!」
それを制したのは王の向かいの玉座に座る女性。
「姫……!あ、いや……女王!」
彼女はまだ若いが、この国の君主だ。ステラの母親でもある。王と同じく金髪蒼眼。陽に反射した水面のように美しい髪を持つ、気品と風格を併せ持った女王。
「……。たかが6000でしょう。取るに足らない数です。敵も水装士だろうと、兵を10000も動かせば収まる事です」
「で、ですが…この問題の危険性は」
「それより、『森の泉』が落とされた事が問題でしょう。……陛下」
王は頷く。
「……ふむ。泉の街に生き残りは?」
「報告では皆殺しと」
「……!!」
「なぜ砦の街の兵は取り込まれ、泉の兵は殺されたのだ?」
「……恐らく、砦の兵は以前から敵と接触していたのだと。若しくは……」
「ステラ様の居場所の情報が漏れたのか!」
「馬鹿な!機密だぞ!」
「今言っても仕方あるまい。……それで?」
「はっ。只今都の水装士が全速で救出に向かっております」
「……必ず救い出せ。でなければこの国は滅ぶと思え」
「はっ!」
その時、部屋の扉が荒々しく開かれる。
「ご報告します!」
水装士だった。
「貴様!神聖なる軍議の場であるぞ!控えよ!」
「もっ申し訳ありません!しかし!火急の報せで!」
「……申してみよ」
「はっ!……だ、第3の都市、シェアト、陥落!敵の数は2万を越えました!」
「はぁ!!?」
もはや国中の誰もが、何が起こっているのか理解出来なかった。報告の度に敵は増え、街は制圧されていった。王都からも軍を動かし迎え撃つも、報告に帰ってくる者は皆敗戦を伝えた。
敵の、王都サダルスウドへの進軍を許すのは時間の問題であった。
☆
「……っ!!」
燃え上がる街。アクアリウスの水装士だろうか、剣を振り上げ、甲冑を着た敵に向かっていくーーその姿のまま、彼は固まった。
ここは先程の軍議から1ヶ月後の王都近辺。
「な……なにが……ぐばっ!」
彼は自分の腹を確認した。だが、そこに腹は無かった。
大きく穴が空いていた。水装を貫通して。
倒れた彼を見て、甲冑を着た兵士は兜を取って後ろを見た。
「……おお。それが、今回実戦投入された武器ですか!」
そこには甲冑を着ていない、黒い衣に身を包んだ男が居た。その手にあったのは鉄で作られた筒状の棒のようなもの。
見たことの無い、妙な形をしていた。だがそれは、『別の世界』では良く似た武器がある。
「ああ。アクアリウスの『水装』に対抗するためにあんたらに依頼されてウチが開発したーー」
男は鉄の筒を逃げ惑う市民に向けた。すると先程水装士を貫いた時のように爆音が鳴り響き、次の瞬間には市民の首から上が吹き飛んでいた。
火薬を使い、鉛の弾を発射する強力な武器。
「『火器』だ。見なよ」
黒衣の男はアームズと呼ばれた筒を前に向けた。その方向を甲冑兵も倣って見る。
「あれが王都サダルスウドで……一番デカイ建物が王宮……『宝瓶宮アクエリアス』だ」
「おお……いつの間にここまで進軍していたか」
「ここの指揮は俺が執るってアネゴの指示だからね。……さあここに兵を集めてくれ。今夜中にアクアリウスを落とそう」
「はっ!了解であります協力者殿!」
「ほいほい。そんな時だけ畏まって」
このニュースが王都サダルスウドに伝わったのは、3日後であった。
敵は正体不明。見慣れぬ鉄の甲冑に身を包み、『水装』を使う兵士。
水装以上の武装をしていないアクアリウス兵は彼らに敵わず全滅した。市民も皆殺し。南方市街にある『森の泉』は敵の手に渡った。
そして3日後とは、『黄道審判』から王が帰還する日であった。
☆
「なんという事だ!王の不在を狙って南の城壁が突破されただと!?」
「……突破されたのが4日前の夜。その次の朝には砦の街を占拠され、昼には……例の『泉』の街へ侵略」
金髪蒼眼の王は帰ってもまた会議であることに少し参った様で、玉座に肘を突く。
隣の大臣が会議の出席者に怒鳴る。
「護国の『水装士』はどうした!奴等が居てみすみすやられる訳が無いだろう!」
それを受けてやや若い将が手を挙げる。今この場にはアクアリウス軍の幹部以上、総勢20名が集まって円卓を囲んでいる。
「早馬によると、攻め込んできた敵の数は4000。南の城壁を護る水装士は2000」
「たかが倍の数なら、守りのこちらが優勢だろう!地の利がある!」
「そして現在の敵の数は……約6000」
「何!?」
円卓がざわついた。若い将は続ける。
「さらに敵は『水装』を使う。……つまりーー」
「寝返ったのか!?我らが誇り高き『水装士』が!国家機密である『水装』を横流しして!」
若い将の言葉を遮って大臣が叫ぶ。
「……ですが」
「!」
それを制したのは王の向かいの玉座に座る女性。
「姫……!あ、いや……女王!」
彼女はまだ若いが、この国の君主だ。ステラの母親でもある。王と同じく金髪蒼眼。陽に反射した水面のように美しい髪を持つ、気品と風格を併せ持った女王。
「……。たかが6000でしょう。取るに足らない数です。敵も水装士だろうと、兵を10000も動かせば収まる事です」
「で、ですが…この問題の危険性は」
「それより、『森の泉』が落とされた事が問題でしょう。……陛下」
王は頷く。
「……ふむ。泉の街に生き残りは?」
「報告では皆殺しと」
「……!!」
「なぜ砦の街の兵は取り込まれ、泉の兵は殺されたのだ?」
「……恐らく、砦の兵は以前から敵と接触していたのだと。若しくは……」
「ステラ様の居場所の情報が漏れたのか!」
「馬鹿な!機密だぞ!」
「今言っても仕方あるまい。……それで?」
「はっ。只今都の水装士が全速で救出に向かっております」
「……必ず救い出せ。でなければこの国は滅ぶと思え」
「はっ!」
その時、部屋の扉が荒々しく開かれる。
「ご報告します!」
水装士だった。
「貴様!神聖なる軍議の場であるぞ!控えよ!」
「もっ申し訳ありません!しかし!火急の報せで!」
「……申してみよ」
「はっ!……だ、第3の都市、シェアト、陥落!敵の数は2万を越えました!」
「はぁ!!?」
もはや国中の誰もが、何が起こっているのか理解出来なかった。報告の度に敵は増え、街は制圧されていった。王都からも軍を動かし迎え撃つも、報告に帰ってくる者は皆敗戦を伝えた。
敵の、王都サダルスウドへの進軍を許すのは時間の問題であった。
☆
「……っ!!」
燃え上がる街。アクアリウスの水装士だろうか、剣を振り上げ、甲冑を着た敵に向かっていくーーその姿のまま、彼は固まった。
ここは先程の軍議から1ヶ月後の王都近辺。
「な……なにが……ぐばっ!」
彼は自分の腹を確認した。だが、そこに腹は無かった。
大きく穴が空いていた。水装を貫通して。
倒れた彼を見て、甲冑を着た兵士は兜を取って後ろを見た。
「……おお。それが、今回実戦投入された武器ですか!」
そこには甲冑を着ていない、黒い衣に身を包んだ男が居た。その手にあったのは鉄で作られた筒状の棒のようなもの。
見たことの無い、妙な形をしていた。だがそれは、『別の世界』では良く似た武器がある。
「ああ。アクアリウスの『水装』に対抗するためにあんたらに依頼されてウチが開発したーー」
男は鉄の筒を逃げ惑う市民に向けた。すると先程水装士を貫いた時のように爆音が鳴り響き、次の瞬間には市民の首から上が吹き飛んでいた。
火薬を使い、鉛の弾を発射する強力な武器。
「『火器』だ。見なよ」
黒衣の男はアームズと呼ばれた筒を前に向けた。その方向を甲冑兵も倣って見る。
「あれが王都サダルスウドで……一番デカイ建物が王宮……『宝瓶宮アクエリアス』だ」
「おお……いつの間にここまで進軍していたか」
「ここの指揮は俺が執るってアネゴの指示だからね。……さあここに兵を集めてくれ。今夜中にアクアリウスを落とそう」
「はっ!了解であります協力者殿!」
「ほいほい。そんな時だけ畏まって」
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
帰らなければ良かった
jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。
傷付いたシシリーと傷付けたブライアン…
何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。
*性被害、レイプなどの言葉が出てきます。
気になる方はお避け下さい。
・8/1 長編に変更しました。
・8/16 本編完結しました。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。
アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。
今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。
私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。
これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。
(完結)私より妹を優先する夫
青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。
ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。
ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる