You're my……

弓チョコ

文字の大きさ
上 下
2 / 30

第2話 立ち位置

しおりを挟む
『明日、空いてる?(^-^)』

 ピコン、と音がすれば。大抵相原さんからのメッセージだ。明日は土曜日。部活もやってない僕に予定は無い。

『空いてますよ』

 そう返す。すると一瞬で既読が付いて、返信が帰ってくる。

『わたしも休みでさ。ご飯いこーよ!(^3^)/
 おごったげる!(^-^)v』

 僕は神藤重明。16歳だ。
 この人は相原真愛さん。24歳だ。それに相原さんは、綺麗なんだ。
 少なからず、僕のテンションは上がって良いと思うんだ。
 僕が、上がるだけだけど。

——

——

「やっ。待った?」
「いえ、全然」
「おにいちゃん!」
「あはは。優愛ったら」

 待ち合わせ場所で。優愛は僕を見付けるととたとたと走ってきて飛び込んできた。汗でべたべただ。この子は気にしない。
 なんというか、これが凄く嬉しいんだ。言葉で伝えるのは難しいけど、優愛に懐かれているのが。

「いやー。今日も暑いね。こっちこっち。おいしー洋食屋さんがあるんだけど、量が多くてさ。半分食べてよ」
「……了、解」

 そのまま優愛を抱っこして、相原さんに付いていく。5歳って重いんだよな。それでいて抱っこ大好きなんだ。優愛は特に。

——

「デミグラスオムライスひとつ。あとトマトスパゲティと……。神藤くんは?」
「半分こなら、そのふたつで充分、す」
「あははばかな。育ち盛りでしょーが。ハンバーグ定食もお願いしまーす」
「あらら」
「ねえゆあこれ食べたい」
「はいはーい。カルボナーラね。じゃお母さんと半分こね。あっ。おにいちゃんとさん分こね」

 正直、僕も健全な高校生だ。
 これはデートなのだろうかと。一晩中考えていた。

「ね? おいしーでしょ?」
「……っす。うまいっす」
「ほれほれ~」

 相原さんはなんというか、テンションが高い。僕は余り対応できてないけど、楽しいんだ。シングルマザーで大変だけど、その明るさでなんとか乗り越えているのかもしれない。

「はいっ」
「?」

 確かに量は多かった。半分といいつつ7割くらいは僕に回ってきた。それも大半食べたという所で、相原さんが右手を挙げた。

「はいっ。当ててよ」
「えーっと。相原さん」
「はーい。問題提起します!」
「へ?」

 相原さんはいつになく真剣な表情だった。

「『呼び方と話し方』変えたいです!」
「……??」

 僕は首を傾げる。

「まずさ。敬語っぽいのやめよーよ」
「……え」

 そういうことか……。
 僕は、相原さんに対してどう接するのが適切なのか、未だに測りかねていた。タメ口はなんか失礼だと思うし、かといってガチガチに敬語ってのもなんか違う。優愛には普通に接せれるんだけどな……ってそれは当然か。

「完全タメ口! プラス、わたしは重明くんて呼ぶから。重明くんも真愛さんって呼んでよ」
「…………え」
「今日ね。これが話したかったことなの。今の仕事初めてからずっとお世話になってるしさ。そろそろ、よそよそしいの嫌なんだけど」
「……えっ、と」
「ほら。真愛さんって。ま、い、さん」

 僕にとっては。危機と言って良い。クラスの女子にだって、下の名前で呼んだこと無いのに。いや、そっちの方がハードル高いのかな? もう分からん。
 でも、本人が呼んで欲しいと言ってるんだから良い筈だ。
 いやだけど。めっちゃ恥ずかしい。なんだこの気持ち。ていう、重明くん、って呼ばれた! それも恥ずかしい!

「しーげあーきくん。ほらほら」
「ぅ。……まい、さん」
「うわーい。やたー」
「おかあさんうるさい」
「あーごめんごめんごめん」

 呼んでしまった。
 めっちゃ恥ずかしい。
 大人の女の人を。下の名前で呼ぶなんて。

「ま。これからもお世話になるしさ。……ごめん。良いかな」
「や。それはまあ。僕も放課後暇だし」
「ありがとうね。なんかあったら言ってね。無理矢理、当日だけ預けられる場所もあるからさ」
「……っす」
「『っす』じゃないってー。しーげあーきくんっ」
「…………うん。……分かった」
「うんうん。だってもうさ。優愛にとっては完全に『おにいちゃん』だし。わたしも重明くんみたいな『弟』欲しかったし。ま、お姉ちゃんでも良いけどねー」
「…………」

 そう。
 当然だけど。
 相原……いや。真愛さんからしたら。僕は『弟』なんだ。それが、事実。

「じゃごめんちょっとお手洗い行って来るね」
「……うん」
「おっけー!」

 バッグを持って席を立った真愛さん。残された僕と優愛。優愛は子供用のプラスチックのフォークで、カルボナーラと格闘している。

「『こーちゃん』もおにいちゃんみたいだったらな」
「…………」

 優愛がぼそりと呟いた。そう。この子が、僕にここまで懐くのには理由がある。
 真愛さんには、彼氏が居る。それがどうにも、優愛と合わないらしいのだ。

「……優愛」
「はーい」
「カルボナーラのソース、めっちゃ口に付いてる」
「んむむむー」

 べとべとの口周りを紙布巾で拭いてあげる。優愛は抵抗しない。

「ほら綺麗になった」
「あいがとごさーます!」
「えらいえらい」

 僕の立ち位置は。優愛の『おにいちゃん』で、真愛さんの『弟』が。
 望まれてるらしい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

家に帰ると夫が不倫していたので、両家の家族を呼んで大復讐をしたいと思います。

春木ハル
恋愛
私は夫と共働きで生活している人間なのですが、出張から帰ると夫が不倫の痕跡を残したまま寝ていました。 それに腹が立った私は法律で定められている罰なんかじゃ物足りず、自分自身でも復讐をすることにしました。その結果、思っていた通りの修羅場に…。その時のお話を聞いてください。 にちゃんねる風創作小説をお楽しみください。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

処理中です...