GLACIER(グレイシア)

弓チョコ

文字の大きさ
上 下
98 / 99

第98話 西方大陸帰還

しおりを挟む
 それから、2年が経った。
 オルヴァリオは放免となり、自由となった。

「まったく遅いわよ」
「すまんすまん」

 彼はもうやつれてはいなかった。2年間ずっと、殆ど毎日リディと面会していたからだ。彼女の献身的なメンタルケアにより、オルヴァリオには以前の笑顔が戻っていた。
 クリュー達が全員で出迎えた。

「……クリュー。皆」
「さあ帰るぞ」
「…………! ああ」

 シアも彼の【心】を感じ取った。前に会った時の暗さは全く無い。一点の曇りも無い純粋な【心】だった。

「良かったね。オルヴァさん」
「ありがとうシア。ああ。皆に感謝しないとな」
「んじゃ、明日にでも西方大陸へ帰るぞ。俺は向こうでも王との謁見だのなんだのくっそ忙しい」
「そうだね。孤児院に報告しないといけないし」
「マル。身長伸びたな……え、マル?」

 オルヴァリオが、最も驚いたのが。
 成長したマルの、さらに大きくなったお腹であった。

「…………エフィリス?」
「あん? なんか文句あんのか」
「えっ。いや……」

 何があったのか、問われたエフィリスはそっぽを向いて、マルはお腹を撫でながら赤面した。
 サーガが、溜め息を吐く。

「この男はこういう男です。トレジャーハンター以外、男としてはこういう奴ですからね」
「…………ああ、そう……」

 驚いたが、オルヴァリオがとやかく言うことではない。マルが幸せそうだったので、それ以上は何も言えなかった。

 その後、エヴァルタの屋敷でパーティをした。オルヴァリオは泣いていた。リディもつられて泣いた。帰ってきたのだと実感した。

 そして。

「じゃ、随分お世話になっちゃったわね。エヴァルタさん」
「うん。中央に来た時はまたいつでも寄ってね」

 エヴァルタは、港まで見送りに来てくれた。なんだかんだと、2年も居たのだ。彼女も最早仲間である。

「おう。トレジャーハンターやってりゃ、中央へまた来ることはあるだろうな。宿代と食事代が浮くのはありがてえ」
「厚かましいですよエフィリス」
「ふふっ。良いよ。何でも作るし好きなだけ泊まってね」
「落ち着いたら伝書で連絡を入れる。俺達の結婚式には来てくれないとな。シア」
「……うん。またね、エヴァルタさん」
「またね。シアちゃん」

 彼らは笑顔で別れた。

——

——

「で、どうするんです? 私はもう引退しますよ。マルもあんな状態で。ひとりでトレジャーハンターするんですか?」
「…………む」

 船の上で。一同は甲板に出ていた。中央大陸から西方大陸へ向かう客船だ。来る時はネヴァンに見付からないよう隠れるように来たが、今回は大手を振って帰国できる。潮風で、彼女らの髪が靡く。

「そうよ。この子が生まれるまでなんて待てないでしょエフィリス。ていうかわたしも引退よ。子育てしたいし」
「む。未開地でやりゃ良いじゃねえか。良いハンターに育つぜ」
「本気で言ってる?」
「…………」

 少し、関係性が変わったらしい。詰め寄るマルと、たじろぐエフィリス。彼はマルに逆らえなくなってしまったようだ。

「……オルヴァリオ!」
「ん」
「一緒にやろうぜ。お前らも、クリューは引退だろ?」
「……ふむ。良いですね。彼らと一緒なら安心です」
「どういう意味だサーガこのやろ」

 エフィリスはオルヴァリオを呼んだ。正確にはオルヴァリオとリディを。

「……特級ハンターとチームアップか。確かに魅力的だな」
「そうね。受けて良いと思うわ。クリューだけじゃなくて、サスリカも抜けるんだし」
「だがよ、リディ。俺は自分の力で成り上がりたくもあるんだ」
「あー……。あんた考えそう」
「ねえ、じゃあ私、付いてって良いかな」
「シア?」
「や、別にそんな危険な所じゃなくて良いからさ。私も、一度くらい冒険したいなって」
「おう! 良いぜ。ガルバ荒野なら俺の庭だ」
「良いの? クリュー」
「……そうだな。じゃあ先に行くか。ラビアに戻ったら俺も実家の修行、シアも花嫁修業でしばらく動けなくなる」
「は? 花嫁修業?」
「なんだそりゃ」
「…………ねえシア、もしかしてだけど」

 嫌な予感がしたリディが、シアへ小声で聞いた。

「うん。……スタルース家って、良家なんだね。婚前交渉も無し。あはは」
「…………うっそ……!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...