GLACIER(グレイシア)

弓チョコ

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第97話 祈り

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「そうか。リディが残ったと。んで……お前らがくっついたと」

 エヴァルタの屋敷へ帰ってきた。クリューとシアと、サスリカが。

「おめでとう! シアちゃん」
「おめでとうございます」
「……えへへ……」

 クリューとシアは結ばれることになった。だが、正式な手続きや皆の前での儀式などはまだ先だ。ネヴァン事件が完全に解決してからになるだろう。オルヴァリオにも祝福して欲しいので当然だが。

「へっ。若いねえ」
「エフィリスもまだ若いじゃないですか」
「俺はあれだ。冒険が恋人だよ。所帯なんざ持ってる暇ねえなあ」
「……はあ。マルも何か言ってやってください」
「え。うん。エフィリスも結婚したら?」
「いや、あのなあマル。相手も居ねえのに」
「ここに居るよ」
「はあ?」
「…………知らない」
「は?」

 マルは、実は何度かエフィリスに想いを伝えたことがある。だがいつも、こうなるのだ。彼女は頬を膨らませて、屋敷の奥へ引っ込んでしまった。

「今のはエフィリスが悪い」
「はぁ? なんだよそれ」
「エフィリス。本当に何も気付いていないんですか?」
「…………」

 サーガに詰め寄られて。
 エフィリスは頭を掻いた。

「……まだ早えだろ」
「それを、伝えていないでしょう。彼女は相手にすらされていないと毎回落ち込んでいます」
「……つってもよ。あいつはまだガキだし。ていうか俺にとっちゃ」
「エフィリス。トレジャーハンターは自由です」
「うっ」
「…………はぁ。まだ、もう少し掛かりますかね」

 サーガは溜め息を吐いた。この男は無頓着過ぎる。マルはおろか、クリュー達も全員エフィリスより年下であるというのに。

——

——

「ねえサスリカ」
『ハイ』

 シアは星を見るのが好きだった。遠くに、思いを馳せるのが。

「……ここってさ。ぶっちゃけ地球じゃないよね」
『ハイ。星の配置が違います。1万年のズレを計算しても合いませんから』
「うん。じゃあさ」
『恐らく、世界の破滅後に、アニマ様か、どなたかの手によって運ばれたか、飛ばされたのでしょう。この星は、人類移住計画「Project:ALPHA」の候補地のひとつだと思います』
「……だよね。やっぱり、地球はもう駄目になっちゃったんだね」
『ハイ。恐らくは』

 思いを馳せる。遠くを。昔を。

「……あんまり、考えても仕方ないかもね。私達にはもうどうすることもできないし。今こうして人類が存続してるなら、計画は成功したって言えるもんね」
『ハイ。ワタシ達が今、ここで生きていく。それで良いと思います。シア様は、シア様ですから。今の、シア様の人生を』
「……うーん。こんなこと考えるのは、アニマよりはソラちゃんかなあ。あの子もいつも星を見てた」
『古代のことを、ますたーや皆様にお話しになりますか?』
「…………うーん」

 サスリカの問いに、シアは腕を組んで考えた。

「別に要らないんじゃないかな。興味ないだろうし。『トレジャー』って、いくつか見たけど。私達の知らない文明が1万年の間にあるよね、これ」
『ハイ。この星での文明は、ワタシ達には分かりません。あの古代都市や黄金の城も、知りませんし』
「うん。だから、良いんじゃないかな。彼らが暴きたいのは誰も知らない古代文明でしょ。私達のことは、もう継がなくて良いよ。私が……。クリューさんの赤ちゃんを授かることで、それで終わりにしよう。後はもう、次の世代に託して」
『……ハイ』
「なーんか私、異世界転生者みたいだよね」

 そこへ。

「ちょっと良いかしら」
「エヴァルタさん」

 エヴァルタがやってきた。彼女は白い杖を持っていた。シアも、見覚えがある杖だ。

「それ……」
「返そうと思って。貴女達の時代の物でしょう?」
『……王の杖』

 受け取った。ただの古い杖だ。だが。

「!」

 抱き締めた瞬間に、山ほどの【心】が滝のように流れ込んできた。

「……シアちゃん?」
「…………うん。ありがとう。私も、末裔として受け入れてくれたみたい」

 1万年以上前の。もっともっと前からの。先祖代々の【祈り】が。
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