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第96話 好き
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留置場から出る頃にはもう夜になっていた。空を見上げると、満天の星空が飛び込んでくる。
「足元、気を付けろ」
「うん。ありがと」
違う。シアは今、ふと気付いた。
これが、普通の晴れの夜空なのだ。彼女の持つ記憶では、殆ど星は見えなかった。都会から出て大自然の場所へ行けば、こんな空が見えた気がする。晴れであれば、基本的に満天であるのだ。
「オルヴァさん、立ち直りそうだね。良かった」
「ああ。そもそもあいつは人を裏切れる神経をしていないからな。辛かったろうに。今も、随分苦しんでいるだろう」
「でもまあ、元に戻れそうで良かったわ。ねえ、あたし、この街にしばらく滞在してっても良い?」
「…………ああ。そうだな。オルヴァを頼む。今日も危なかったからな。あのまま放っておいたら自殺でもしそうだった」
「ええ。そんなことさせないわ。許し倒してやる。甘やかし倒してやるわよ」
「あはは。なにそれ」
夜風が冷たくて心地好い。シアも気分が良かった。楽しい。このメンバーと、ずっと一緒に過ごしたいと心から思った。
「リディは、本当にオルヴァが好きだな」
「!」
クリューが突っ込んだ。シアは口元に手を当てる。リディを見ると。
「…………そうね。あたし、ああいう男が好きなのよ。ちょっと頼りない、優しい男が。今までトレジャーハンターやってて、そんな男居なかったし」
やれやれと観念したように、それを肯定した。シアは驚いた。女性陣での会話では否定していたのに。
「頼りなくないぞ? あいつは滅茶苦茶強い。バルセスで俺より早く脚を痛めてたあいつが。いつの間にか大剣士だ」
「……まあそうだけど。雰囲気の話よ。あたしの好みでありながら実は滅茶苦茶強いとか最高じゃない。今弱ってるし、すぐ落としてやるわ。シア。あんたより先に子を授かってやるから」
「へへぇ!?」
急に、矛先がシアへ向いた。吃驚しすぎて変な声を出してしまった。真っ赤にしながら、クリューを見る。
「ほら。まだ返事してないでしょうが」
「……ちょ……っ」
リディに背中を押された。クリューも立ち止まる。ふたりが向き合うと、リディはサスリカを引っ張ってその場から離れた。
「…………返事が聞けるのか」
「ふぇっ。……あ、えっと……」
鳥の声がした。静かだ。通行人は居ない。星明りで、お互いの顔ははっきり分かる。
クリューは相変わらず、真剣な表情で。じっと待っていた。いつまでも、待ってくれるだろう。そんな空気を感じた。
「…………あの、ね?」
「ああ」
「……その。私も。……クリューさんが、す」
ずっと。このまま。皆と一緒に居たい。
だが時間は進んでいく。関係性も変わっていく。オルヴァリオは裏切ったが許され、リディは彼を好いていた。恐らく結ばれるだろう。彼女は強引にでも、オルヴァリオを引っ張るだろう。自責で沈みそうになっている彼を、無理矢理引き上げて勢いのままキスでもするだろう。
「好き」
この愛が。いつまでも自分へ向いている保証は確かに無い。クリューは自分が好きだから、色々としてくれているのだ。彼がリディに対して夜道の足元に気を付けろ、など言わない。
「クリューさんともっとずっと。一緒に居たい。だってクリューさん、とっても優しい。かっこ良い。……好き。私が、特別だからかもしれないけど」
「俺は、君が古代人でなくても、なんであっても君を好きになっていた。断言できる。『付属品』は要らない。君だけが欲しい」
「…………!」
プロポーズの返事、なのだが。何故か自分から告白したような気になってしまっていたシアは、想いを受け止めてくれて気が緩み、その場に座り込んでしまった。
「おいおい……」
「……はは。良かった。クリューさん。好き」
「…………」
「あれ、照れてる? うそ、クリューさんが?」
「…………もう、戻るぞ。随分遅くなってしまった」
「え、クリューさんかわいい。ねえ抱っこして。安心して腰抜けちゃった」
「……仕方ないな」
「やったあ。好き」
一度言ってしまえば堰が切れたように。その日は何度も想いを伝えた。
「足元、気を付けろ」
「うん。ありがと」
違う。シアは今、ふと気付いた。
これが、普通の晴れの夜空なのだ。彼女の持つ記憶では、殆ど星は見えなかった。都会から出て大自然の場所へ行けば、こんな空が見えた気がする。晴れであれば、基本的に満天であるのだ。
「オルヴァさん、立ち直りそうだね。良かった」
「ああ。そもそもあいつは人を裏切れる神経をしていないからな。辛かったろうに。今も、随分苦しんでいるだろう」
「でもまあ、元に戻れそうで良かったわ。ねえ、あたし、この街にしばらく滞在してっても良い?」
「…………ああ。そうだな。オルヴァを頼む。今日も危なかったからな。あのまま放っておいたら自殺でもしそうだった」
「ええ。そんなことさせないわ。許し倒してやる。甘やかし倒してやるわよ」
「あはは。なにそれ」
夜風が冷たくて心地好い。シアも気分が良かった。楽しい。このメンバーと、ずっと一緒に過ごしたいと心から思った。
「リディは、本当にオルヴァが好きだな」
「!」
クリューが突っ込んだ。シアは口元に手を当てる。リディを見ると。
「…………そうね。あたし、ああいう男が好きなのよ。ちょっと頼りない、優しい男が。今までトレジャーハンターやってて、そんな男居なかったし」
やれやれと観念したように、それを肯定した。シアは驚いた。女性陣での会話では否定していたのに。
「頼りなくないぞ? あいつは滅茶苦茶強い。バルセスで俺より早く脚を痛めてたあいつが。いつの間にか大剣士だ」
「……まあそうだけど。雰囲気の話よ。あたしの好みでありながら実は滅茶苦茶強いとか最高じゃない。今弱ってるし、すぐ落としてやるわ。シア。あんたより先に子を授かってやるから」
「へへぇ!?」
急に、矛先がシアへ向いた。吃驚しすぎて変な声を出してしまった。真っ赤にしながら、クリューを見る。
「ほら。まだ返事してないでしょうが」
「……ちょ……っ」
リディに背中を押された。クリューも立ち止まる。ふたりが向き合うと、リディはサスリカを引っ張ってその場から離れた。
「…………返事が聞けるのか」
「ふぇっ。……あ、えっと……」
鳥の声がした。静かだ。通行人は居ない。星明りで、お互いの顔ははっきり分かる。
クリューは相変わらず、真剣な表情で。じっと待っていた。いつまでも、待ってくれるだろう。そんな空気を感じた。
「…………あの、ね?」
「ああ」
「……その。私も。……クリューさんが、す」
ずっと。このまま。皆と一緒に居たい。
だが時間は進んでいく。関係性も変わっていく。オルヴァリオは裏切ったが許され、リディは彼を好いていた。恐らく結ばれるだろう。彼女は強引にでも、オルヴァリオを引っ張るだろう。自責で沈みそうになっている彼を、無理矢理引き上げて勢いのままキスでもするだろう。
「好き」
この愛が。いつまでも自分へ向いている保証は確かに無い。クリューは自分が好きだから、色々としてくれているのだ。彼がリディに対して夜道の足元に気を付けろ、など言わない。
「クリューさんともっとずっと。一緒に居たい。だってクリューさん、とっても優しい。かっこ良い。……好き。私が、特別だからかもしれないけど」
「俺は、君が古代人でなくても、なんであっても君を好きになっていた。断言できる。『付属品』は要らない。君だけが欲しい」
「…………!」
プロポーズの返事、なのだが。何故か自分から告白したような気になってしまっていたシアは、想いを受け止めてくれて気が緩み、その場に座り込んでしまった。
「おいおい……」
「……はは。良かった。クリューさん。好き」
「…………」
「あれ、照れてる? うそ、クリューさんが?」
「…………もう、戻るぞ。随分遅くなってしまった」
「え、クリューさんかわいい。ねえ抱っこして。安心して腰抜けちゃった」
「……仕方ないな」
「やったあ。好き」
一度言ってしまえば堰が切れたように。その日は何度も想いを伝えた。
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