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第95話 オルヴァ
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国際政府機関。その本部留置場に、オルヴァリオは居た。エヴァルタの屋敷のある街から、数日掛かる隣国だった。大国ベルーナという国だ。
クリュー達は、すんなりと通して貰った。世間的には事件を解決したのはエフィリスだが、政府は全て知っている。
ガラスの壁を隔てた部屋で、面会をすることになった。
「15分です」
「ああ」
一同が待っている所に。ガラスの向こう側から、無精髭を生やしたオルヴァリオが入ってきた。
頬は痩けてやつれている。だがその瞳はもう、紫色ではなく綺麗なコバルトブルーだった。
「…………クリュー」
「オルヴァ。調子はどうだ」
「……何で来たんだ。俺はもう」
「オルヴァ。座れ。俺達が、何も考えずに会いに来たと思うか」
「…………」
彼は罪人であるが、情状酌量の余地はあるとされている。扱いは悪くない筈だが、彼自身が自責の念に囚われているのだ。それが見て取れた。シアはその【心】を汲み取って、胸が締め付けられた。
「……もう、元気になったのか」
「! うん。初めまして、だよね。シアって呼んで」
「…………」
彼女を見て、オルヴァリオは眉を上げた。
「済まなかった。あんたに一番迷惑を掛けたな。俺の血筋は呪われていた。しかもそれを、あんたに解いてもらった。……どう、償ったら良いのかも分からねえ」
「…………」
彼の【心】が、痛い。シアは胸に手を当ててから、ぎゅっと握り締めた。
「(やっぱり、カナタ君にそっくり。でも別人。私と一緒。オリジナルなんて関係無い)」
シロナとカナタは共に育った幼馴染みだ。
だが、このふたりとは関係無い。
「オルヴァリオさん。ごめんね。私が我儘言って、連れてきて貰ったんだ。貴方と話したくて」
「…………?」
オルヴァリオは疑問符が浮かぶ。話す理由など無いと。
「ねえ。クリューさんがサスリカを使って人を殺したとして。サスリカは悪いかな」
「…………なんだ、それ」
「良いから」
「……サスリカは、命令に逆らえない。その場合なら悪いのはクリューだ。サスリカは悪くない」
「ね? だから、オルヴァリオさんは悪くないんだよ」
「……!」
シアの口から、言うべきだ。彼女は『古代遺物』について知っている。現代では証明できないことを、知っている。
「『精神憑依』は、人を人形にして操るもの。オルヴァリオさんはずっと、それで操られていた。だから悪くないんだよ」
「…………だが」
「で、その諸悪の根源は私が壊した。『カナタ・ギドー』の能力は世界から永遠に失われた。……もう、大丈夫なんだよ。ねえ、リディさん」
「そうよ」
「!」
そして。
オルヴァリオを最も心配していたのは。彼女である。
「……リディ」
「誰もあんたを責めてないわ。今は、ちょっと手続きの関係がややこしくてこんなガラス板が挟まってるけど。もう皆、用意してるのよ」
「……用意?」
「あんたが戻ってきた時のパーティの準備と、あんたの帰る家よ」
「……は?」
オルヴァリオは、間の抜けた声を出した。全く予想をしていなかったかのような。
「オルヴァ。俺は屋敷を建てる。お前もリディも皆帰って来れるでかい屋敷を。そこへ、帰って来い。また冒険に出よう。まだ俺達は、トレジャーをひとつも見付けていない」
「…………!」
ふるふると、震えた。願ってもいない、最高の言葉だった。帰って来い、と。
「そう言えばそれ、ずっと思ってたけどずるいわよクリュー」
「ん? なんだ?」
「あたしも呼ぶから。オルヴァって。ねえほら、シアとサスリカも」
「うん。オルヴァさん。皆待ってるよ」
『ハイ。オルヴァ様』
「…………皆……!」
涙が流れた。自分を。2度も裏切った自分を。この罪人を。
許すと言うのだ。
「そういうことだ。これからも定期的に会いに来る。なるべく早く出られるよう尽くそう」
「……ぅっ」
「ほらもう泣かないの。もう時間よ。じゃあね。また来るから」
「ああ。……ああ……! ありがとう……!」
そこで、面会時間が終了した。
オルヴァリオはしばらく、動けなかった。
クリュー達は、すんなりと通して貰った。世間的には事件を解決したのはエフィリスだが、政府は全て知っている。
ガラスの壁を隔てた部屋で、面会をすることになった。
「15分です」
「ああ」
一同が待っている所に。ガラスの向こう側から、無精髭を生やしたオルヴァリオが入ってきた。
頬は痩けてやつれている。だがその瞳はもう、紫色ではなく綺麗なコバルトブルーだった。
「…………クリュー」
「オルヴァ。調子はどうだ」
「……何で来たんだ。俺はもう」
「オルヴァ。座れ。俺達が、何も考えずに会いに来たと思うか」
「…………」
彼は罪人であるが、情状酌量の余地はあるとされている。扱いは悪くない筈だが、彼自身が自責の念に囚われているのだ。それが見て取れた。シアはその【心】を汲み取って、胸が締め付けられた。
「……もう、元気になったのか」
「! うん。初めまして、だよね。シアって呼んで」
「…………」
彼女を見て、オルヴァリオは眉を上げた。
「済まなかった。あんたに一番迷惑を掛けたな。俺の血筋は呪われていた。しかもそれを、あんたに解いてもらった。……どう、償ったら良いのかも分からねえ」
「…………」
彼の【心】が、痛い。シアは胸に手を当ててから、ぎゅっと握り締めた。
「(やっぱり、カナタ君にそっくり。でも別人。私と一緒。オリジナルなんて関係無い)」
シロナとカナタは共に育った幼馴染みだ。
だが、このふたりとは関係無い。
「オルヴァリオさん。ごめんね。私が我儘言って、連れてきて貰ったんだ。貴方と話したくて」
「…………?」
オルヴァリオは疑問符が浮かぶ。話す理由など無いと。
「ねえ。クリューさんがサスリカを使って人を殺したとして。サスリカは悪いかな」
「…………なんだ、それ」
「良いから」
「……サスリカは、命令に逆らえない。その場合なら悪いのはクリューだ。サスリカは悪くない」
「ね? だから、オルヴァリオさんは悪くないんだよ」
「……!」
シアの口から、言うべきだ。彼女は『古代遺物』について知っている。現代では証明できないことを、知っている。
「『精神憑依』は、人を人形にして操るもの。オルヴァリオさんはずっと、それで操られていた。だから悪くないんだよ」
「…………だが」
「で、その諸悪の根源は私が壊した。『カナタ・ギドー』の能力は世界から永遠に失われた。……もう、大丈夫なんだよ。ねえ、リディさん」
「そうよ」
「!」
そして。
オルヴァリオを最も心配していたのは。彼女である。
「……リディ」
「誰もあんたを責めてないわ。今は、ちょっと手続きの関係がややこしくてこんなガラス板が挟まってるけど。もう皆、用意してるのよ」
「……用意?」
「あんたが戻ってきた時のパーティの準備と、あんたの帰る家よ」
「……は?」
オルヴァリオは、間の抜けた声を出した。全く予想をしていなかったかのような。
「オルヴァ。俺は屋敷を建てる。お前もリディも皆帰って来れるでかい屋敷を。そこへ、帰って来い。また冒険に出よう。まだ俺達は、トレジャーをひとつも見付けていない」
「…………!」
ふるふると、震えた。願ってもいない、最高の言葉だった。帰って来い、と。
「そう言えばそれ、ずっと思ってたけどずるいわよクリュー」
「ん? なんだ?」
「あたしも呼ぶから。オルヴァって。ねえほら、シアとサスリカも」
「うん。オルヴァさん。皆待ってるよ」
『ハイ。オルヴァ様』
「…………皆……!」
涙が流れた。自分を。2度も裏切った自分を。この罪人を。
許すと言うのだ。
「そういうことだ。これからも定期的に会いに来る。なるべく早く出られるよう尽くそう」
「……ぅっ」
「ほらもう泣かないの。もう時間よ。じゃあね。また来るから」
「ああ。……ああ……! ありがとう……!」
そこで、面会時間が終了した。
オルヴァリオはしばらく、動けなかった。
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