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第89話 目覚め
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「………………」
『起きられましたか』
目が覚めた。柔らかい陽光が瞼の隙間から流れ込んでくる。天井は木でできているようだ。木造建築なのだろう。
布団は白かった。安心する色だった。彼女は、ゆっくりと上体を起こして、肉声ではない合成音声のした方を見た。
『お加減どうですか? お腹、空いていませんか。どこか痛い、苦しい所はありませんか?』
青い髪。金色の瞳。彼女は見ただけですぐに分かった。この少女はロボットだ。精巧に似せられているが、少しの違和感がある。
そして、見覚えがあった。
「…………貴女、師匠の研究してたアンドロイドにそっくり」
『南原かりん博士ですか?』
「……そう。…………けほっ。ごめんなんか、お茶とか無い?」
『ハイ』
声を出すと、すぐに喉が痛くなった。殆ど初めて喋るのだ。ロボットが持ってきたお茶も、初めて飲む飲料水だ。
「……ふぅ。ここはどこ? どうして私は、ここに居るの?」
落ち着いた彼女は、ロボットへ質問した。部屋を見渡したが、ベッドと机と椅子しかない。天井に照明も無いし、壁にコンセント差込口も無い。窓、森の向こうから街の様子が見えたが、電信柱が無い。道もコンクリートで舗装されていない。
『……貴女様は、ご自身のことをお分かりになりますか?』
「え? 私でしょ? 池上………………」
記憶はある。あの日。あの人と。
死んだ記憶。
「…………違う。私、白愛じゃない。だってわた……彼女は、もう死んだわよ。黎と一緒に、あの時」
思い出す。光景を。見てきたものを。世界の破滅を。
「…………私は、誰?」
『……貴女様は、アニマ様とレイシーが共同で開発したクローンです』
「!」
頭の中が、グチャグチャになった。『池上白愛』の記憶は、『池上白愛』の主観であった。それが、『今の自分』の物ではないのだ。クローン。
クローン。
「………………クローン。そっか。アニマは、こうやって、『繋いで』くれたってことなんだ」
理解した。
『ハイ。白愛様の細胞を採取していたのです。いつか、きっと、「繋げる」ように』
「…………そっか。それが私か。……髪、白くないね」
『ハイ』
壁に立てかけられていた姿見を確認した。自分でも触って確かめる。池上白愛は白かった。だが自分は黒い。
「……1万年、寝てたんだ」
『ハイ』
「…………ねえ、あの彼方君は? 彼もクローンを?」
『いえ。あれはオルヴァリオ様です。ますたーのご友人。彼方様の生まれ変わりの、子孫です』
「生まれ変わり。……マスター?」
『ハイ。ワタシは、サスリカと申します。今ワタシがお仕えしているのが、ますたークリュー・スタルース様です。貴女様の身を、一番案じておられます』
「…………?」
分からないことだらけだ。だが焦ってはいけない。少しずつ、理解していくのだ。彼女は自分で、それを分かっていた。
「起きましたか。気分はどうですか?」
「……えっと……?」
そこで、エヴァルタが部屋へ入ってきた。ここは彼女の屋敷だった。
『エヴァルタ様。彼女に大陸語は通じません』
「そうね。じゃあ通訳してくれるかしら」
『ハイ』
1万年前の言語と、現代の言葉の両方を話せるのはサスリカのみだ。
「私はエヴァルタ・リバーオウル。この屋敷の主人です」
「…………どうも。エヴァルタ、さん。私は……。名前は無いの。生まれたばかりだから」
「らしいわね。1万年間、凍っていたから」
「……解けちゃったんだ」
「必死になってね。貴女を解かそうとしていた子が居るの」
「……どうして?」
「それは、本人から聞くべきね。お節介かもしれないけれど、ちゃんと聞いてあげて欲しいな」
「…………分かった。ねえ、どうして私は、あんな塔の上に居たの? なんか、ボロボロで傷だらけの人達がいっぱい居たわ」
「貴女を巡って、争いが起きたからよ」
「………………そう、なんだ」
「詳しく説明しましょうか。……ご飯にしてからね」
お腹が、鳴ってしまった。彼女は赤面して俯いたが、当然のことだった。
1万年間、断食をしていたのだから。
『起きられましたか』
目が覚めた。柔らかい陽光が瞼の隙間から流れ込んでくる。天井は木でできているようだ。木造建築なのだろう。
布団は白かった。安心する色だった。彼女は、ゆっくりと上体を起こして、肉声ではない合成音声のした方を見た。
『お加減どうですか? お腹、空いていませんか。どこか痛い、苦しい所はありませんか?』
青い髪。金色の瞳。彼女は見ただけですぐに分かった。この少女はロボットだ。精巧に似せられているが、少しの違和感がある。
そして、見覚えがあった。
「…………貴女、師匠の研究してたアンドロイドにそっくり」
『南原かりん博士ですか?』
「……そう。…………けほっ。ごめんなんか、お茶とか無い?」
『ハイ』
声を出すと、すぐに喉が痛くなった。殆ど初めて喋るのだ。ロボットが持ってきたお茶も、初めて飲む飲料水だ。
「……ふぅ。ここはどこ? どうして私は、ここに居るの?」
落ち着いた彼女は、ロボットへ質問した。部屋を見渡したが、ベッドと机と椅子しかない。天井に照明も無いし、壁にコンセント差込口も無い。窓、森の向こうから街の様子が見えたが、電信柱が無い。道もコンクリートで舗装されていない。
『……貴女様は、ご自身のことをお分かりになりますか?』
「え? 私でしょ? 池上………………」
記憶はある。あの日。あの人と。
死んだ記憶。
「…………違う。私、白愛じゃない。だってわた……彼女は、もう死んだわよ。黎と一緒に、あの時」
思い出す。光景を。見てきたものを。世界の破滅を。
「…………私は、誰?」
『……貴女様は、アニマ様とレイシーが共同で開発したクローンです』
「!」
頭の中が、グチャグチャになった。『池上白愛』の記憶は、『池上白愛』の主観であった。それが、『今の自分』の物ではないのだ。クローン。
クローン。
「………………クローン。そっか。アニマは、こうやって、『繋いで』くれたってことなんだ」
理解した。
『ハイ。白愛様の細胞を採取していたのです。いつか、きっと、「繋げる」ように』
「…………そっか。それが私か。……髪、白くないね」
『ハイ』
壁に立てかけられていた姿見を確認した。自分でも触って確かめる。池上白愛は白かった。だが自分は黒い。
「……1万年、寝てたんだ」
『ハイ』
「…………ねえ、あの彼方君は? 彼もクローンを?」
『いえ。あれはオルヴァリオ様です。ますたーのご友人。彼方様の生まれ変わりの、子孫です』
「生まれ変わり。……マスター?」
『ハイ。ワタシは、サスリカと申します。今ワタシがお仕えしているのが、ますたークリュー・スタルース様です。貴女様の身を、一番案じておられます』
「…………?」
分からないことだらけだ。だが焦ってはいけない。少しずつ、理解していくのだ。彼女は自分で、それを分かっていた。
「起きましたか。気分はどうですか?」
「……えっと……?」
そこで、エヴァルタが部屋へ入ってきた。ここは彼女の屋敷だった。
『エヴァルタ様。彼女に大陸語は通じません』
「そうね。じゃあ通訳してくれるかしら」
『ハイ』
1万年前の言語と、現代の言葉の両方を話せるのはサスリカのみだ。
「私はエヴァルタ・リバーオウル。この屋敷の主人です」
「…………どうも。エヴァルタ、さん。私は……。名前は無いの。生まれたばかりだから」
「らしいわね。1万年間、凍っていたから」
「……解けちゃったんだ」
「必死になってね。貴女を解かそうとしていた子が居るの」
「……どうして?」
「それは、本人から聞くべきね。お節介かもしれないけれど、ちゃんと聞いてあげて欲しいな」
「…………分かった。ねえ、どうして私は、あんな塔の上に居たの? なんか、ボロボロで傷だらけの人達がいっぱい居たわ」
「貴女を巡って、争いが起きたからよ」
「………………そう、なんだ」
「詳しく説明しましょうか。……ご飯にしてからね」
お腹が、鳴ってしまった。彼女は赤面して俯いたが、当然のことだった。
1万年間、断食をしていたのだから。
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