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第88話 終わり
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崖の上。縁に。人が並んでいた。信者ではない。武僧でもない。
「あれは……!?」
「俺が呼んでおいたんだ。場所はオルヴァリオから聞いてたからな」
「!」
彼らは、信者よりさらに統率の取れた動きで、信者達を止めていく。この騒動を終わらせようと、まるで警察隊のような動きで。
「…………やっ。遅くなってごめんね」
「!?」
クリューの目の前に。
城の最上階に、翡翠の髪の女性が現れた。
「エヴァルタ!」
「やあ。クリュー君。……君もボロボロだね」
「遅えよ。もう全部倒しちまった」
皆が驚く中、エフィリスだけが知っていたかのようにエヴァルタへ話し掛けた。
「ごめんねえ。流石にこの短時間で全世界は難しいって。取り敢えず集められるだけは集めたよ。あと国際警察と——」
「馬鹿なっ!!」
エヴァルタの言葉を遮って、ビェルマが叫んだ。
「こっ! 国際警察だと!? それじゃあもう、終わりじゃねェか! なんでだ! 場所は割れようが、昇降機は破壊したんだぞ!」
「……お前舐め過ぎだよ。『トレジャーハンター』を」
「!」
縄で拘束されながら、身を乗り出して吼える。ネヴァン教が今まで余裕を醸していたのは、国際機関から完全に隠れられていたからだ。それが見付かれば、もう終わりだ。これまで世界中で働いた悪行は、計り知れない。
「昇降機破壊ったって上の部分ちょっとだろ。どんだけ高いと思ってんだ。あんだけ道が開けてりゃ、余裕で登れんだよ。ていうかそもそも昇降機なんぞ無くとも登っちまう。道なき道を往くのが、『トレジャーハンター』だろうが」
「…………!」
ガクンと。ビェルマはくず折れた。
「さあー! 帰るぞ。サーガは治療だ。エヴァルタ、医者は連れてきてるか?」
「勿論。案内するわ」
『待ってください。この方も非常に衰弱しています』
「……ええ。その子、『グレイシア』の子ね。貴女もこっちへ」
「あ、俺も左腕粉々なんだが」
「そんな軽そうに言わないでよ痛々しい。こっち来なさい」
朝日が昇ってくる。頂上であるここは、一番最初に照らされた。
「…………終わったか」
「ああ。世界中の、トレジャー盗られたハンターも来てる。何が来ても、もう何も問題ねえ」
この期に及んで、まだ『何か』する気力の残っている者が。
ひとり。
「…………じゃァよォ。何もかも、終わっちまえ」
「あん?」
ビェルマが。
懐から、小さな笛を取り出して、吹いた。
「!?」
ピィーと、甲高い音が響く。それはビェルマの息の続く限り。エフィリスが彼を止めるまで続いた。
「おい何をした。何だ今の笛」
「…………はっ。腐っても俺ァネヴァン教徒なんだよ」
「あん?」
ビェルマは、笑っていた。
「何をしたんだよ!」
「はっは……。知ってるか? 知らねェだろ。この『断崖線』はなァ、鳥の巣なんだ。もうすぐやってくるぞ。巣を荒らすゴミ虫を掃除しに」
「は? 鳥? それが——」
風が吹いた。ガラスの割れているこの部屋にも、強風が。
一瞬だけ、目を閉じて。
開ければそこには。都市には。
夜になったかと見間違うほど巨大な黒い影が、『鳥の形』をしていた。
「……は?」
「はっはっは。お前らネヴァン教の教えは何も知らねェだろ。あれは神。『神鳥ネヴァン』つってな。お前らの知る『人間界』なんざ、ただの蟻の巣なんだよ」
都市全体を覆う、巨大な鳥が。上空を旋回していたのだ。
「猛獣……違う。怪獣……!?」
「……デッドリィとか、そんなレベルじゃないぞ。ドラゴンの何倍だ」
「…………!! てめえ……!」
「もう終わりだ。ネヴァン教も、俺も。カナタ・ギドーの宿願も果たせられなかった。グロリオ猊下の代ではな。せめて、お前らも道連れだァ。全て何もかも、神鳥に喰われちまえ」
この世のものとは思えない、脳を劈く鳴き声が轟いた。
「あれは……!?」
「俺が呼んでおいたんだ。場所はオルヴァリオから聞いてたからな」
「!」
彼らは、信者よりさらに統率の取れた動きで、信者達を止めていく。この騒動を終わらせようと、まるで警察隊のような動きで。
「…………やっ。遅くなってごめんね」
「!?」
クリューの目の前に。
城の最上階に、翡翠の髪の女性が現れた。
「エヴァルタ!」
「やあ。クリュー君。……君もボロボロだね」
「遅えよ。もう全部倒しちまった」
皆が驚く中、エフィリスだけが知っていたかのようにエヴァルタへ話し掛けた。
「ごめんねえ。流石にこの短時間で全世界は難しいって。取り敢えず集められるだけは集めたよ。あと国際警察と——」
「馬鹿なっ!!」
エヴァルタの言葉を遮って、ビェルマが叫んだ。
「こっ! 国際警察だと!? それじゃあもう、終わりじゃねェか! なんでだ! 場所は割れようが、昇降機は破壊したんだぞ!」
「……お前舐め過ぎだよ。『トレジャーハンター』を」
「!」
縄で拘束されながら、身を乗り出して吼える。ネヴァン教が今まで余裕を醸していたのは、国際機関から完全に隠れられていたからだ。それが見付かれば、もう終わりだ。これまで世界中で働いた悪行は、計り知れない。
「昇降機破壊ったって上の部分ちょっとだろ。どんだけ高いと思ってんだ。あんだけ道が開けてりゃ、余裕で登れんだよ。ていうかそもそも昇降機なんぞ無くとも登っちまう。道なき道を往くのが、『トレジャーハンター』だろうが」
「…………!」
ガクンと。ビェルマはくず折れた。
「さあー! 帰るぞ。サーガは治療だ。エヴァルタ、医者は連れてきてるか?」
「勿論。案内するわ」
『待ってください。この方も非常に衰弱しています』
「……ええ。その子、『グレイシア』の子ね。貴女もこっちへ」
「あ、俺も左腕粉々なんだが」
「そんな軽そうに言わないでよ痛々しい。こっち来なさい」
朝日が昇ってくる。頂上であるここは、一番最初に照らされた。
「…………終わったか」
「ああ。世界中の、トレジャー盗られたハンターも来てる。何が来ても、もう何も問題ねえ」
この期に及んで、まだ『何か』する気力の残っている者が。
ひとり。
「…………じゃァよォ。何もかも、終わっちまえ」
「あん?」
ビェルマが。
懐から、小さな笛を取り出して、吹いた。
「!?」
ピィーと、甲高い音が響く。それはビェルマの息の続く限り。エフィリスが彼を止めるまで続いた。
「おい何をした。何だ今の笛」
「…………はっ。腐っても俺ァネヴァン教徒なんだよ」
「あん?」
ビェルマは、笑っていた。
「何をしたんだよ!」
「はっは……。知ってるか? 知らねェだろ。この『断崖線』はなァ、鳥の巣なんだ。もうすぐやってくるぞ。巣を荒らすゴミ虫を掃除しに」
「は? 鳥? それが——」
風が吹いた。ガラスの割れているこの部屋にも、強風が。
一瞬だけ、目を閉じて。
開ければそこには。都市には。
夜になったかと見間違うほど巨大な黒い影が、『鳥の形』をしていた。
「……は?」
「はっはっは。お前らネヴァン教の教えは何も知らねェだろ。あれは神。『神鳥ネヴァン』つってな。お前らの知る『人間界』なんざ、ただの蟻の巣なんだよ」
都市全体を覆う、巨大な鳥が。上空を旋回していたのだ。
「猛獣……違う。怪獣……!?」
「……デッドリィとか、そんなレベルじゃないぞ。ドラゴンの何倍だ」
「…………!! てめえ……!」
「もう終わりだ。ネヴァン教も、俺も。カナタ・ギドーの宿願も果たせられなかった。グロリオ猊下の代ではな。せめて、お前らも道連れだァ。全て何もかも、神鳥に喰われちまえ」
この世のものとは思えない、脳を劈く鳴き声が轟いた。
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