85 / 99
第85話 親友
しおりを挟む
「ぉおっ!!」
「!」
一瞬で、距離を詰めて来る。剣士という人種の身体能力は凄まじい。己の肉体を『最前線』へ持っていく精神力と行動力。巨大な武器を軽々と扱う筋力。長く激しい鍛錬の末に到達する、至高の動体視力と反射神経。
クリューにとってせめて幸運だったのは、オルヴァリオの持つ剣は『猛獣』を相手にすることを想定しており、その為刃が肉厚で大きいことだ。人間のクリューは当たれば確実に死ぬが、その速度はぎりぎり見切れる。普段銃を扱う彼も、動体視力は鍛えられている。
「——!」
一撃。避けた。大振りで、軌道が丸わかりだった。横なぎの攻撃を、クリューはしゃがんで避けた。
そしてすぐ様反撃に出る。グロリオと同じように、剣を持つ腕を狙う。次点で、脚を狙う。戦闘不能にすれば良いだけだ。グロリオの精神支配が解ければ自力で走ってもらうため、尚更腕の方が良い。
「ぐぅっ!」
当たった。右腕を貫通させた。オルヴァリオは攻撃の為に防御を捨てていたからだ。自身の肉体への信頼。だがそれは、銃火器には関係ない。
「——ぉぉっ!」
「!」
だが、止まらない。2撃目が迫りくる。未だ膝を折った体勢のクリュー、しかも射撃の隙もある。オルヴァリオは両手で剣を扱っている。片腕が負傷しても、直ちに影響は無い。
「待てオルヴァリオ!!」
「っ!」
だが。
グロリオの叫びが、オルヴァリオの耳に入った。ぴたりと、剣が止まった。
「…………!?」
クリューは驚きながらも、また距離を取って整えた。
その背後に。
『彼女』と装置があるのだ。
「……壊してはならん。注意して戦え。オルヴァリオ」
「…………分かった」
間一髪、クリューは助かった。グロリオとオルヴァリオも、『氷漬けの美女』を手に入れたいのだ。戦闘の余波で破壊されることは望んでいない。
「……また君に、守られてしまったな。だが君を盾にする訳には行かない」
クリューは『彼女』から離れてさらに距離を取った。
仕切り直しである。
「!」
戦闘は、基本的に射程の長い方が有利だ。この距離では、オルヴァリオがクリューへ攻撃する手段が無い。一方的に集中砲火を受ける。
だが、今、このふたりの間の戦闘に限って言えば。その有利不利は簡単に覆り得る。
「ぉおっ!」
「うっ!」
オルヴァリオ自身が、『射程武器』となって飛んでくるからだ。大剣を盾にして突っ込んで来られれば、クリューにはどうすることもできない。単純な移動速度ではクリューに勝ち目は無い。剣を防ぐ物など何も持っていない。
「——っ!」
だが、オルヴァリオに殺す気は無い。下の階で武僧相手にしたように、剣の腹で殴り付けた。
「……ぐぁっ!」
上から叩き潰される。銃を持っていない左腕で頭をガードしたが、その腕は砕けた。剣と地面に挟まれる形でクリューはぺしゃんこになった。
『ますたーっ!』
サスリカが叫ぶ。
「……終わりだ。武器を取り上げる。大人しくしておいてくれよ」
「…………!」
オルヴァリオの腕からも、血が噴き出ている。銃弾が貫通していながら、全力で剣を握り、振り回したからだ。
「…………くそ」
だが、もうほとんど握力は残っていない。先程の攻撃が最後の威力だった。手が弛んだ。
そこを。
「……お前も限界だな。オルヴァ」
「……っ!?」
クリューは見逃さなかった。左腕を犠牲にして守った右腕で。ここまで近付いたら外しようも無い。オルヴァリオの、もう片方の腕を。
——
——
「今日から、越してきたんだ」
「俺はクリュー。名前は?」
「……オル、ヴァリオ」
「?」
「……あんまり名前、好きじゃないんだ。長くてゴツいだろ。なんか偉そうで」
「じゃあ、オルヴァと呼ぶさ。高貴そうになった」
「……!」
「オルヴァは、『あの子』と同じ黒髪をしているな」
「あの子?」
——
——
「……喧嘩は、したことが無かったな。思えば俺達は『坊っちゃん』過ぎた。終わったらもう少し、腹を割って語ろう。親友」
「……!!」
微笑みかけて、撃ち抜いた。
「!」
一瞬で、距離を詰めて来る。剣士という人種の身体能力は凄まじい。己の肉体を『最前線』へ持っていく精神力と行動力。巨大な武器を軽々と扱う筋力。長く激しい鍛錬の末に到達する、至高の動体視力と反射神経。
クリューにとってせめて幸運だったのは、オルヴァリオの持つ剣は『猛獣』を相手にすることを想定しており、その為刃が肉厚で大きいことだ。人間のクリューは当たれば確実に死ぬが、その速度はぎりぎり見切れる。普段銃を扱う彼も、動体視力は鍛えられている。
「——!」
一撃。避けた。大振りで、軌道が丸わかりだった。横なぎの攻撃を、クリューはしゃがんで避けた。
そしてすぐ様反撃に出る。グロリオと同じように、剣を持つ腕を狙う。次点で、脚を狙う。戦闘不能にすれば良いだけだ。グロリオの精神支配が解ければ自力で走ってもらうため、尚更腕の方が良い。
「ぐぅっ!」
当たった。右腕を貫通させた。オルヴァリオは攻撃の為に防御を捨てていたからだ。自身の肉体への信頼。だがそれは、銃火器には関係ない。
「——ぉぉっ!」
「!」
だが、止まらない。2撃目が迫りくる。未だ膝を折った体勢のクリュー、しかも射撃の隙もある。オルヴァリオは両手で剣を扱っている。片腕が負傷しても、直ちに影響は無い。
「待てオルヴァリオ!!」
「っ!」
だが。
グロリオの叫びが、オルヴァリオの耳に入った。ぴたりと、剣が止まった。
「…………!?」
クリューは驚きながらも、また距離を取って整えた。
その背後に。
『彼女』と装置があるのだ。
「……壊してはならん。注意して戦え。オルヴァリオ」
「…………分かった」
間一髪、クリューは助かった。グロリオとオルヴァリオも、『氷漬けの美女』を手に入れたいのだ。戦闘の余波で破壊されることは望んでいない。
「……また君に、守られてしまったな。だが君を盾にする訳には行かない」
クリューは『彼女』から離れてさらに距離を取った。
仕切り直しである。
「!」
戦闘は、基本的に射程の長い方が有利だ。この距離では、オルヴァリオがクリューへ攻撃する手段が無い。一方的に集中砲火を受ける。
だが、今、このふたりの間の戦闘に限って言えば。その有利不利は簡単に覆り得る。
「ぉおっ!」
「うっ!」
オルヴァリオ自身が、『射程武器』となって飛んでくるからだ。大剣を盾にして突っ込んで来られれば、クリューにはどうすることもできない。単純な移動速度ではクリューに勝ち目は無い。剣を防ぐ物など何も持っていない。
「——っ!」
だが、オルヴァリオに殺す気は無い。下の階で武僧相手にしたように、剣の腹で殴り付けた。
「……ぐぁっ!」
上から叩き潰される。銃を持っていない左腕で頭をガードしたが、その腕は砕けた。剣と地面に挟まれる形でクリューはぺしゃんこになった。
『ますたーっ!』
サスリカが叫ぶ。
「……終わりだ。武器を取り上げる。大人しくしておいてくれよ」
「…………!」
オルヴァリオの腕からも、血が噴き出ている。銃弾が貫通していながら、全力で剣を握り、振り回したからだ。
「…………くそ」
だが、もうほとんど握力は残っていない。先程の攻撃が最後の威力だった。手が弛んだ。
そこを。
「……お前も限界だな。オルヴァ」
「……っ!?」
クリューは見逃さなかった。左腕を犠牲にして守った右腕で。ここまで近付いたら外しようも無い。オルヴァリオの、もう片方の腕を。
——
——
「今日から、越してきたんだ」
「俺はクリュー。名前は?」
「……オル、ヴァリオ」
「?」
「……あんまり名前、好きじゃないんだ。長くてゴツいだろ。なんか偉そうで」
「じゃあ、オルヴァと呼ぶさ。高貴そうになった」
「……!」
「オルヴァは、『あの子』と同じ黒髪をしているな」
「あの子?」
——
——
「……喧嘩は、したことが無かったな。思えば俺達は『坊っちゃん』過ぎた。終わったらもう少し、腹を割って語ろう。親友」
「……!!」
微笑みかけて、撃ち抜いた。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。



日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる