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第82話 再会③
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時刻は深夜である。
「サスリカ!!」
「——来たな」
黄金の城、その天守閣。ここも、ビェルマの部屋と同じく何もない部屋だった。だが、床と天井は黄金ではなく、黒い材質だった。夜空のような透き通る黒い床と天井に、満点の星空が綺麗に映し出されている。
円形の部屋だった。壁は全面ガラス窓で、遠くにエフィリスの燃やした火事やミェシィが破壊した街が見える。
部屋の中心に。『それ』はあった。否。
「…………!」
『彼女』が居た。
「『氷漬けの美女』……っ!」
クリューの人生で、3度目の対面だ。吸い込まれるような漆黒の艶髪。黄色い異邦人の肌。全体的に平たい顔のパーツ。長い睫毛に小さな鼻と口。彼の魂を髄から刺激する魅力。未だ動く気配は無い、淀みのない氷塊に閉じ込められた細い四肢。
『グレイシア』——と、巷では呼ばれているが。クリューはただの一度もそう呼んだことは無い。名は、本人から聞くのだ。そう固く誓っていたから。
「クリュー・スタルース。一度くらいは、会ったことがあったか?」
「…………」
その『氷漬けの美女』は、何やら部屋の中心にある機械の上に置かれていた。彼女を見て喜んだクリューは、次に機械を見て怒りと嫌悪感を覚えた。
傍らに、男がひとり。黒い髪、黒いローブ。ああそう言えば、似ているのだ。この一族と、彼女は。
「……グロリオ・ギドーか。お前が元凶だな……」
「友人の父親に『お前』とは。親の教育が悪いのか」
「無駄な問答をするつもりは無い」
『ますたー!』
そして、もうひとり。サスリカは、手足を縛られ、椅子に括りつけられていた。目隠しをされている。こうなると彼女も、いくらロボットであっても身動きが取れない。クリューに向かって、叫ぶしか。
「サスリカ! 無事か!」
『ますたー! お気を付けください! オルヴァリオ様に!』
「……!? オルヴァ、さっきから黙って——」
「ふん」
グロリオの口角が上がった。
「——うおっ!?」
クリューは驚いて跳び退いた。
「…………すまん。済まない。クリュー」
「オルヴァ……!?」
オルヴァリオはその大剣を、クリューへ向けて振るったのだった。
「おい、何をしているんだ。オルヴァ」
「済まないクリュー。俺はもう、無理だ」
「何を——」
再度、距離を取ったクリューへ寄り、大剣を横なぎに振るう。クリューはさらに後退して避けるも、すぐに背が壁に当たった。
「オルヴァ!」
「すまん。俺にはどうすることもできない」
「!?」
咄嗟の出来事だった。クリューの銃は、オルヴァリオには向かなかった。
「ぐっ!」
大剣が壁に刺さり、クリューは剣と壁の間に挟まれてしまった。
「人形に命令しろ。クリュー・スタルース。『シロナ・イケガミを解かせ』と」
「なん……だと……っ」
グロリオが、オルヴァリオの背後にやってくる。オルヴァリオは申し訳なさそうな表情のまま動かない。剣を握ったまま、力を緩めない。クリューは動けない。
『ますたー!』
サスリカが叫ぶ。
「……どういうことだ。オルヴァ。まさか」
クリューは『断崖線』に登る前に言っていた、エフィリスの言葉が脳裏に過ぎった。
——あれくらいで戻ってくるなら、あいつは最初から俺達を裏切らなかったと思うんだよな——
「俺は息子に、何も教えてこなかった。勿論情報漏洩の危険性もあったが、一番の理由は俺が持つ『古代遺物』の能力だ」
「…………!」
グロリオが、黒いローブから取り出した。それはガラスの球体のようだった。星明りに照らされて、禍々しく紫色に光っている。
「『精神憑依』。心を操る能力を封じ込めた道具だ。こんなもの、多感な子供に悟られれば何が起こるか分からんからな。成長した時に確実に支配する為に、無干渉で居た」
「…………心を操る? 支配、だと」
「そうだ。これからお前も操る。そして、古代人形に氷を解かさせる。『シロナ・イケガミ』も勿論操るぞ。『宿願の御子』誕生の邪魔は誰にもさせない」
球体が、身動きの取れないクリューの目の前に掲げられた。
「!」
「さあ」
「サスリカ!!」
「——来たな」
黄金の城、その天守閣。ここも、ビェルマの部屋と同じく何もない部屋だった。だが、床と天井は黄金ではなく、黒い材質だった。夜空のような透き通る黒い床と天井に、満点の星空が綺麗に映し出されている。
円形の部屋だった。壁は全面ガラス窓で、遠くにエフィリスの燃やした火事やミェシィが破壊した街が見える。
部屋の中心に。『それ』はあった。否。
「…………!」
『彼女』が居た。
「『氷漬けの美女』……っ!」
クリューの人生で、3度目の対面だ。吸い込まれるような漆黒の艶髪。黄色い異邦人の肌。全体的に平たい顔のパーツ。長い睫毛に小さな鼻と口。彼の魂を髄から刺激する魅力。未だ動く気配は無い、淀みのない氷塊に閉じ込められた細い四肢。
『グレイシア』——と、巷では呼ばれているが。クリューはただの一度もそう呼んだことは無い。名は、本人から聞くのだ。そう固く誓っていたから。
「クリュー・スタルース。一度くらいは、会ったことがあったか?」
「…………」
その『氷漬けの美女』は、何やら部屋の中心にある機械の上に置かれていた。彼女を見て喜んだクリューは、次に機械を見て怒りと嫌悪感を覚えた。
傍らに、男がひとり。黒い髪、黒いローブ。ああそう言えば、似ているのだ。この一族と、彼女は。
「……グロリオ・ギドーか。お前が元凶だな……」
「友人の父親に『お前』とは。親の教育が悪いのか」
「無駄な問答をするつもりは無い」
『ますたー!』
そして、もうひとり。サスリカは、手足を縛られ、椅子に括りつけられていた。目隠しをされている。こうなると彼女も、いくらロボットであっても身動きが取れない。クリューに向かって、叫ぶしか。
「サスリカ! 無事か!」
『ますたー! お気を付けください! オルヴァリオ様に!』
「……!? オルヴァ、さっきから黙って——」
「ふん」
グロリオの口角が上がった。
「——うおっ!?」
クリューは驚いて跳び退いた。
「…………すまん。済まない。クリュー」
「オルヴァ……!?」
オルヴァリオはその大剣を、クリューへ向けて振るったのだった。
「おい、何をしているんだ。オルヴァ」
「済まないクリュー。俺はもう、無理だ」
「何を——」
再度、距離を取ったクリューへ寄り、大剣を横なぎに振るう。クリューはさらに後退して避けるも、すぐに背が壁に当たった。
「オルヴァ!」
「すまん。俺にはどうすることもできない」
「!?」
咄嗟の出来事だった。クリューの銃は、オルヴァリオには向かなかった。
「ぐっ!」
大剣が壁に刺さり、クリューは剣と壁の間に挟まれてしまった。
「人形に命令しろ。クリュー・スタルース。『シロナ・イケガミを解かせ』と」
「なん……だと……っ」
グロリオが、オルヴァリオの背後にやってくる。オルヴァリオは申し訳なさそうな表情のまま動かない。剣を握ったまま、力を緩めない。クリューは動けない。
『ますたー!』
サスリカが叫ぶ。
「……どういうことだ。オルヴァ。まさか」
クリューは『断崖線』に登る前に言っていた、エフィリスの言葉が脳裏に過ぎった。
——あれくらいで戻ってくるなら、あいつは最初から俺達を裏切らなかったと思うんだよな——
「俺は息子に、何も教えてこなかった。勿論情報漏洩の危険性もあったが、一番の理由は俺が持つ『古代遺物』の能力だ」
「…………!」
グロリオが、黒いローブから取り出した。それはガラスの球体のようだった。星明りに照らされて、禍々しく紫色に光っている。
「『精神憑依』。心を操る能力を封じ込めた道具だ。こんなもの、多感な子供に悟られれば何が起こるか分からんからな。成長した時に確実に支配する為に、無干渉で居た」
「…………心を操る? 支配、だと」
「そうだ。これからお前も操る。そして、古代人形に氷を解かさせる。『シロナ・イケガミ』も勿論操るぞ。『宿願の御子』誕生の邪魔は誰にもさせない」
球体が、身動きの取れないクリューの目の前に掲げられた。
「!」
「さあ」
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