GLACIER(グレイシア)

弓チョコ

文字の大きさ
上 下
82 / 99

第82話 再会③

しおりを挟む
 時刻は深夜である。

「サスリカ!!」
「——来たな」

 黄金の城、その天守閣。ここも、ビェルマの部屋と同じく何もない部屋だった。だが、床と天井は黄金ではなく、黒い材質だった。夜空のような透き通る黒い床と天井に、満点の星空が綺麗に映し出されている。

 円形の部屋だった。壁は全面ガラス窓で、遠くにエフィリスの燃やした火事やミェシィが破壊した街が見える。

 部屋の中心に。『それ』はあった。否。

「…………!」

 『彼女』が居た。

「『氷漬けの美女』……っ!」

 クリューの人生で、3度目の対面だ。吸い込まれるような漆黒の艶髪。黄色い異邦人の肌。全体的に平たい顔のパーツ。長い睫毛に小さな鼻と口。彼の魂を髄から刺激する魅力。未だ動く気配は無い、淀みのない氷塊に閉じ込められた細い四肢。

 『グレイシア』——と、巷では呼ばれているが。クリューはただの一度もそう呼んだことは無い。名は、本人から聞くのだ。そう固く誓っていたから。

「クリュー・スタルース。一度くらいは、会ったことがあったか?」
「…………」

 その『氷漬けの美女』は、何やら部屋の中心にある機械の上に置かれていた。彼女を見て喜んだクリューは、次に機械を見て怒りと嫌悪感を覚えた。
 傍らに、男がひとり。黒い髪、黒いローブ。ああそう言えば、似ているのだ。この一族と、彼女は。

「……グロリオ・ギドーか。お前が元凶だな……」
「友人の父親に『お前』とは。親の教育が悪いのか」
「無駄な問答をするつもりは無い」
『ますたー!』

 そして、もうひとり。サスリカは、手足を縛られ、椅子に括りつけられていた。目隠しをされている。こうなると彼女も、いくらロボットであっても身動きが取れない。クリューに向かって、叫ぶしか。

「サスリカ! 無事か!」
『ますたー! お気を付けください! オルヴァリオ様に!』
「……!? オルヴァ、さっきから黙って——」
「ふん」

 グロリオの口角が上がった。

「——うおっ!?」

 クリューは驚いて跳び退いた。

「…………すまん。済まない。クリュー」
「オルヴァ……!?」

 オルヴァリオはその大剣を、クリューへ向けて振るったのだった。

「おい、何をしているんだ。オルヴァ」
「済まないクリュー。俺はもう、無理だ」
「何を——」

 再度、距離を取ったクリューへ寄り、大剣を横なぎに振るう。クリューはさらに後退して避けるも、すぐに背が壁に当たった。

「オルヴァ!」
「すまん。俺にはどうすることもできない」
「!?」

 咄嗟の出来事だった。クリューの銃は、オルヴァリオには向かなかった。

「ぐっ!」

 大剣が壁に刺さり、クリューは剣と壁の間に挟まれてしまった。

「人形に命令しろ。クリュー・スタルース。『シロナ・イケガミを解かせ』と」
「なん……だと……っ」

 グロリオが、オルヴァリオの背後にやってくる。オルヴァリオは申し訳なさそうな表情のまま動かない。剣を握ったまま、力を緩めない。クリューは動けない。

『ますたー!』

 サスリカが叫ぶ。

「……どういうことだ。オルヴァ。まさか」

 クリューは『断崖線』に登る前に言っていた、エフィリスの言葉が脳裏に過ぎった。

 ——あれくらいで戻ってくるなら、あいつは最初から俺達を裏切らなかったと思うんだよな——

「俺は息子に、何も教えてこなかった。勿論情報漏洩の危険性もあったが、一番の理由は俺が持つ『古代遺物』の能力だ」
「…………!」

 グロリオが、黒いローブから取り出した。それはガラスの球体のようだった。星明りに照らされて、禍々しく紫色に光っている。

「『精神憑依マインド・ポゼッション』。心を操る能力を封じ込めた道具だ。こんなもの、多感な子供に悟られれば何が起こるか分からんからな。成長した時に確実に支配する為に、無干渉で居た」
「…………心を操る? 支配、だと」
「そうだ。これからお前も操る。そして、古代人形に氷を解かさせる。『シロナ・イケガミ』も勿論操るぞ。『宿願の御子』誕生の邪魔は誰にもさせない」

 球体が、身動きの取れないクリューの目の前に掲げられた。

「!」
「さあ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!

SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、 帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。 性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、 お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。 (こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...