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第81話 賭け
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「…………なんだそりゃ」
「っ!」
ビェルマは、武器らしい武器を持っていない。確実に背後を取って、リディの後頭部を蹴り飛ばした筈だった。だが、その蹴りは彼女に当たる前に弾かれて止まった。
「(姿が消えた!? それに高速移動。危なかった。死ぬところだったっ!)」
リディも慌てて距離を取る。ビェルマも考えるポーズを取った。お互いに、能力が不明だ。
「色々、仕込んでんだなァ。そりゃお前が見付けた古代遺物。『トレジャー』って奴か」
「あんたこそ、見るからに『特級トレジャー武器』ね。消えるなんて」
「……俺の遺物は弱ェんだ。リシスみてェにほぼなんでも出来る万能じゃねェし、ミェシィみてェに破壊力もねェ。色々、頭使わねェとなァ」
「ねェねェうるさいわね」
「知らねェよ」
「(上級トレジャー『透明なヘルメット』。初めて役に立ったわね)」
話している間に、また姿が消えた。パッと消えるでもなく、スゥと透明になるでもなく。目を離していないのにいつの間にか居なくなっているのだ。いつ消えたかも、気付いたときには分からない。これでリディは、反応が遅れてしまうのだ。
「また後ろねっ!」
「当りだ。もうバレたな」
今度は、リディが前方に跳び退いた。またしても後頭部を狙った蹴りは、空を切る形となった。
「おっ」
蹴る瞬間は、消えていないらしい。身を翻したリディが即座に拳銃を放つ。
「……ちっ」
だが、銃弾も当たることは無く、壁のガラスを撃ち抜いた。
「……穴が空いても割れないガラス? 古代文明様々ね」
「外寒ィから穴空けんなよ」
ガキン。
今度は姿を消しながら、正面から蹴ってきたビェルマ。リディはなんとか反応し、取り出した小さな盾で防いだ。
「なかなか決まらねェなァ」
「(……戦っている気がしない。相手は本気じゃないし、こっちの攻撃も当たらない。なんなのよこれ)」
リディはいらいらして来ていた。攻撃は防がなければ致命傷になる威力だ。だが、相手から殺意が感じられない。見ればずっと、気怠げなままなのだ。
「……2万5千人」
「!?」
「この都市の人口さ。お前らが猊下を殺せば、路頭に迷う人数だなァ」
「…………それで?」
そしてこうして、喋るのだ。まるで戦いたくないかのように。
「何も知らない、ただの信者だぞ」
「そんなのあたしも知らないわよ。『戦争』よ? あたしは政治家じゃなくて兵士。敵国の国民のことなんて、戦争が終わるまで考える必要は無いわ。逆に、じゃああんたは、あたし達の家族に気を遣って殺さないつもり?」
「……あァ。そう返してくるか。女の癖に『ちゃんと』してやがんなァ」
「何よさっきから。あんた戦う気あるの?」
「……あんま、無ェんだよなァ」
「……!」
敵との戦闘時に、問答など無用である。だがビェルマは、臨戦態勢を容易く解いて頭を掻いた。
「最初に『どうでも良い』っつったろ。あれマジなんだよ。お前が死のうが俺が死のうが、結果はあんま変わんねェのさ」
「……『グレイシア』が解かされて、宿願が果たされるって?」
「そうだ。『義堂彼方の魂』と『池上白愛の身体』は結ばれる。御子誕生は誰にも防げねェ。お前らが猊下の目的を挫く唯一の方法は、クリュー・スタルースを殺すことだったのさ」
『氷漬けの美女』のことを、彼らは『シロナ・イケガミ』と呼んでいる。このことも、リディ達はオルヴァリオから聞いている。
「……あたし達が勝てば、少なくとも『グレイシア』はあんた達の自由にはならないわよ」
「関係ねェ。猊下の古代遺物はな。人間の精神を操るんだ」
「は?」
遂に、ビェルマは床に座り込んでしまった。
「賭けるか? あの階段から次に降りてくるのが、『クリュー・スタルース』か猊下か」
「…………良いわ。あたしだって闘志の無い無抵抗の相手は撃たない。けど、あたしは上に行かせてくれないのよね」
「まあなァ。そりゃ止めるが、待とうじゃねェか。どうせこのまま戦い続けても終わらねェ。お前と俺じゃ勝負つかねェだろ」
「…………そうね」
リディは、乗ってしまった。武器は仕舞わず臨戦態勢も解かないが、その場に止まった。
「『クリュー・スタルース』『オルヴァリオ坊っちゃん』『古代人形』。それで、猊下に勝てるかどうか」
「いくらなんでも舐め過ぎじゃないの」
「お前らがな」
「…………」
「っ!」
ビェルマは、武器らしい武器を持っていない。確実に背後を取って、リディの後頭部を蹴り飛ばした筈だった。だが、その蹴りは彼女に当たる前に弾かれて止まった。
「(姿が消えた!? それに高速移動。危なかった。死ぬところだったっ!)」
リディも慌てて距離を取る。ビェルマも考えるポーズを取った。お互いに、能力が不明だ。
「色々、仕込んでんだなァ。そりゃお前が見付けた古代遺物。『トレジャー』って奴か」
「あんたこそ、見るからに『特級トレジャー武器』ね。消えるなんて」
「……俺の遺物は弱ェんだ。リシスみてェにほぼなんでも出来る万能じゃねェし、ミェシィみてェに破壊力もねェ。色々、頭使わねェとなァ」
「ねェねェうるさいわね」
「知らねェよ」
「(上級トレジャー『透明なヘルメット』。初めて役に立ったわね)」
話している間に、また姿が消えた。パッと消えるでもなく、スゥと透明になるでもなく。目を離していないのにいつの間にか居なくなっているのだ。いつ消えたかも、気付いたときには分からない。これでリディは、反応が遅れてしまうのだ。
「また後ろねっ!」
「当りだ。もうバレたな」
今度は、リディが前方に跳び退いた。またしても後頭部を狙った蹴りは、空を切る形となった。
「おっ」
蹴る瞬間は、消えていないらしい。身を翻したリディが即座に拳銃を放つ。
「……ちっ」
だが、銃弾も当たることは無く、壁のガラスを撃ち抜いた。
「……穴が空いても割れないガラス? 古代文明様々ね」
「外寒ィから穴空けんなよ」
ガキン。
今度は姿を消しながら、正面から蹴ってきたビェルマ。リディはなんとか反応し、取り出した小さな盾で防いだ。
「なかなか決まらねェなァ」
「(……戦っている気がしない。相手は本気じゃないし、こっちの攻撃も当たらない。なんなのよこれ)」
リディはいらいらして来ていた。攻撃は防がなければ致命傷になる威力だ。だが、相手から殺意が感じられない。見ればずっと、気怠げなままなのだ。
「……2万5千人」
「!?」
「この都市の人口さ。お前らが猊下を殺せば、路頭に迷う人数だなァ」
「…………それで?」
そしてこうして、喋るのだ。まるで戦いたくないかのように。
「何も知らない、ただの信者だぞ」
「そんなのあたしも知らないわよ。『戦争』よ? あたしは政治家じゃなくて兵士。敵国の国民のことなんて、戦争が終わるまで考える必要は無いわ。逆に、じゃああんたは、あたし達の家族に気を遣って殺さないつもり?」
「……あァ。そう返してくるか。女の癖に『ちゃんと』してやがんなァ」
「何よさっきから。あんた戦う気あるの?」
「……あんま、無ェんだよなァ」
「……!」
敵との戦闘時に、問答など無用である。だがビェルマは、臨戦態勢を容易く解いて頭を掻いた。
「最初に『どうでも良い』っつったろ。あれマジなんだよ。お前が死のうが俺が死のうが、結果はあんま変わんねェのさ」
「……『グレイシア』が解かされて、宿願が果たされるって?」
「そうだ。『義堂彼方の魂』と『池上白愛の身体』は結ばれる。御子誕生は誰にも防げねェ。お前らが猊下の目的を挫く唯一の方法は、クリュー・スタルースを殺すことだったのさ」
『氷漬けの美女』のことを、彼らは『シロナ・イケガミ』と呼んでいる。このことも、リディ達はオルヴァリオから聞いている。
「……あたし達が勝てば、少なくとも『グレイシア』はあんた達の自由にはならないわよ」
「関係ねェ。猊下の古代遺物はな。人間の精神を操るんだ」
「は?」
遂に、ビェルマは床に座り込んでしまった。
「賭けるか? あの階段から次に降りてくるのが、『クリュー・スタルース』か猊下か」
「…………良いわ。あたしだって闘志の無い無抵抗の相手は撃たない。けど、あたしは上に行かせてくれないのよね」
「まあなァ。そりゃ止めるが、待とうじゃねェか。どうせこのまま戦い続けても終わらねェ。お前と俺じゃ勝負つかねェだろ」
「…………そうね」
リディは、乗ってしまった。武器は仕舞わず臨戦態勢も解かないが、その場に止まった。
「『クリュー・スタルース』『オルヴァリオ坊っちゃん』『古代人形』。それで、猊下に勝てるかどうか」
「いくらなんでも舐め過ぎじゃないの」
「お前らがな」
「…………」
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