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第80話 特級ハンター③
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「サーガっ!!」
「…………っ!」
生き物は、そうそう即死しない。否、死ぬが、完全に停止するまでしばらく時間が掛かるのだ。どれだけの傷を負おうと、数秒動ければ。次の瞬間死ぬにせよ、少しだけでも動くことができれば、人は剣を振る。引き金を引く。戦う意志が、残っていれば。
屠殺される鶏が有名だろうか。首を切り落とされてからも、しばらく暴れて羽を広げ、飛び回るのだ。
ミェシィも、もう意識を失う寸前だ。動けるとは言え、致命傷に違いない。胸を銃弾が貫いて、無事な訳は無い。だが。
最後の最後まで、力は緩めない。『海を割る剣』は止まらない。例え死んでも、この男を殺す。
「…………——っ!」
必死に歯を食い縛り、間から血を吐きながら。サーガの左腕に食い込んだ刃は進んでいく。彼の胴体を両断しようと。
「(わたしのせいだっ! 心臓を外したっ! 変に狙わず、背骨を撃ってたら良かったのに!)」
勿論、動きを止める殺し方もある。肉体の構造的に動けないようにするのだ。この場合、首から尾てい骨までのどこかの背骨を砕いていれば、ミェシィは立ってすら居られなかっただろう。マルの精確な射撃は、肋骨の間すら通り抜けて貫いたが、身体を動かす為の神経も筋肉も傷付けては居なかった。
「……がはっ!」
「……!!」
ミェシィが、大口を開けて血を吐いた。少なくとも肺に穴は空いている。もう呼吸は満足にできない。
「…………——っ」
そして。
剣から手が離れ、膝から崩れて。
どさりと倒れた。
「…………っ! はぁっ! ……ふぅ!」
「サーガっ!!」
そこで、マルが駆けつける。サーガの胴体は斬られていない。剣は止まったのだ。破壊の能力も発動しなかった。
「ぐ! …………っ。マル、無事ですか」
「わたしじゃないよ! サーガ! 待って、腕! 腕がっ!」
だが無傷でもない。サーガの左腕は完全に切断されていた。彼は動けない。そのままにしていれば失血で死ぬだろう。
「……もしかして、この剣は私に『適応』してくれたのですか」
「そんなの良いから! 手当を!」
「…………ぐふっ。そう、ですね。生き残りました。私だって死にたくありません。……ともかく、止血を」
「分かってるから! 止血だって教わった! サーガに! じっとしてて!」
マルは泣きじゃくりながら、サーガへ手当を始める。もう銃も何も放り出して。自分の服もビリビリにして。
「…………がはっ! がふ!」
「!」
その、すぐ隣に。
もうひとり、『もうすぐ死ぬ』少女が居る。
「…………ぅっ」
マルは、何も外してなど居ない。大人ならばこんな容赦はしない。
ミェシィが、マルと同年代の子供だったからだ。
彼女はミェシィの所へも向かい、手当を始めた。
「……ぐすっ」
「…………優しいですね」
「………………エフィリスは、怒る、かな」
「そんなことは無いでしょう。私だってできることなら殺したくありません。武器さえ持たなければ、可愛らしい子じゃありませんか。この子は大人に利用されたのですよ」
「……わたしは……?」
ここで生まれて育ったのなら。ネヴァンの考え方で育ったのだ。そうして歪んだ子供は、本人が悪いのだろうか。
「……マルは、最初から、自分の意思でここに居るじゃありませんか。エフィリスも私も、強引に連れてきてはいませんよ。貴女には選択肢が沢山あった。けれど、その子には無かった。その違いです」
「…………ぅん」
マルもサーガも、もう何人も殺している。敵と見れば容赦なく殺している。だが、この少女は殺さなかった。筋の通らない行動だろうか。否。
「お。お前らも勝ったか」
「……エフィリス」
「エフィリス!! うわあぁ!」
「おっ。マルどうした。ぐしょぐしょじゃねえか」
エフィリスは、縄で縛ったリシスを引きずりながら現れた。彼も殺していない。彼は、炎によって今回最も多く殺しているが。
「サーガ! お前腕」
「……良いんです。それより、貴方も殺さなかったのですね」
「んお? ああ。まあな。俺達は勝者だ。殺すも殺さないも自由。トレジャーハンターは自由だぜ」
「……ええ。私達は自由です」
理屈など必要ない。未開地を往く彼らには常識など。
彼らはトレジャーハンターだ。兵士でも聖人でもない。
『特級』の自由人であるからだ。
「…………っ!」
生き物は、そうそう即死しない。否、死ぬが、完全に停止するまでしばらく時間が掛かるのだ。どれだけの傷を負おうと、数秒動ければ。次の瞬間死ぬにせよ、少しだけでも動くことができれば、人は剣を振る。引き金を引く。戦う意志が、残っていれば。
屠殺される鶏が有名だろうか。首を切り落とされてからも、しばらく暴れて羽を広げ、飛び回るのだ。
ミェシィも、もう意識を失う寸前だ。動けるとは言え、致命傷に違いない。胸を銃弾が貫いて、無事な訳は無い。だが。
最後の最後まで、力は緩めない。『海を割る剣』は止まらない。例え死んでも、この男を殺す。
「…………——っ!」
必死に歯を食い縛り、間から血を吐きながら。サーガの左腕に食い込んだ刃は進んでいく。彼の胴体を両断しようと。
「(わたしのせいだっ! 心臓を外したっ! 変に狙わず、背骨を撃ってたら良かったのに!)」
勿論、動きを止める殺し方もある。肉体の構造的に動けないようにするのだ。この場合、首から尾てい骨までのどこかの背骨を砕いていれば、ミェシィは立ってすら居られなかっただろう。マルの精確な射撃は、肋骨の間すら通り抜けて貫いたが、身体を動かす為の神経も筋肉も傷付けては居なかった。
「……がはっ!」
「……!!」
ミェシィが、大口を開けて血を吐いた。少なくとも肺に穴は空いている。もう呼吸は満足にできない。
「…………——っ」
そして。
剣から手が離れ、膝から崩れて。
どさりと倒れた。
「…………っ! はぁっ! ……ふぅ!」
「サーガっ!!」
そこで、マルが駆けつける。サーガの胴体は斬られていない。剣は止まったのだ。破壊の能力も発動しなかった。
「ぐ! …………っ。マル、無事ですか」
「わたしじゃないよ! サーガ! 待って、腕! 腕がっ!」
だが無傷でもない。サーガの左腕は完全に切断されていた。彼は動けない。そのままにしていれば失血で死ぬだろう。
「……もしかして、この剣は私に『適応』してくれたのですか」
「そんなの良いから! 手当を!」
「…………ぐふっ。そう、ですね。生き残りました。私だって死にたくありません。……ともかく、止血を」
「分かってるから! 止血だって教わった! サーガに! じっとしてて!」
マルは泣きじゃくりながら、サーガへ手当を始める。もう銃も何も放り出して。自分の服もビリビリにして。
「…………がはっ! がふ!」
「!」
その、すぐ隣に。
もうひとり、『もうすぐ死ぬ』少女が居る。
「…………ぅっ」
マルは、何も外してなど居ない。大人ならばこんな容赦はしない。
ミェシィが、マルと同年代の子供だったからだ。
彼女はミェシィの所へも向かい、手当を始めた。
「……ぐすっ」
「…………優しいですね」
「………………エフィリスは、怒る、かな」
「そんなことは無いでしょう。私だってできることなら殺したくありません。武器さえ持たなければ、可愛らしい子じゃありませんか。この子は大人に利用されたのですよ」
「……わたしは……?」
ここで生まれて育ったのなら。ネヴァンの考え方で育ったのだ。そうして歪んだ子供は、本人が悪いのだろうか。
「……マルは、最初から、自分の意思でここに居るじゃありませんか。エフィリスも私も、強引に連れてきてはいませんよ。貴女には選択肢が沢山あった。けれど、その子には無かった。その違いです」
「…………ぅん」
マルもサーガも、もう何人も殺している。敵と見れば容赦なく殺している。だが、この少女は殺さなかった。筋の通らない行動だろうか。否。
「お。お前らも勝ったか」
「……エフィリス」
「エフィリス!! うわあぁ!」
「おっ。マルどうした。ぐしょぐしょじゃねえか」
エフィリスは、縄で縛ったリシスを引きずりながら現れた。彼も殺していない。彼は、炎によって今回最も多く殺しているが。
「サーガ! お前腕」
「……良いんです。それより、貴方も殺さなかったのですね」
「んお? ああ。まあな。俺達は勝者だ。殺すも殺さないも自由。トレジャーハンターは自由だぜ」
「……ええ。私達は自由です」
理屈など必要ない。未開地を往く彼らには常識など。
彼らはトレジャーハンターだ。兵士でも聖人でもない。
『特級』の自由人であるからだ。
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