GLACIER(グレイシア)

弓チョコ

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第77話 炎のエフィリス

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「はぁ……っ! はぁっ!」

 街灯に照らされた、白い息が出る。エフィリスは既に肩で息をしていた。服の至る所が破け、血が見えている。致命傷にはなっていないが、相当ダメージを負ってしまっている。

「動きづらいだろう。『気圧』という概念はまだ下界には無いだろうな。ここは高所。山の上と似たようなものだが、世界のどの山より高い。充分に運動機能は働かない。例え特級ハンターでも」
「……ちっ」

 リシスは無傷のままだった。エフィリスは未だに彼に攻撃を当てられていない。

「空気の薄いここで、我々はずっと生きてきた。訓練してきたのだ。単純な運動能力ではこちらの勝ち。武器の能力も、火が出るだけの剣と汎用性の高い黄金水の壺。こちらの勝ち。『炎のエフィリス』とは、この程度か」
「……へっ。勝手言ってやがらあ」

 彼の黄金水は、変幻自在である。不定形で自由に動き、リシスの意思で好きな時に即座に硬質化する。攻撃にも防御にも隙がなく、手を出せずに居た。

「ふぅ。……そうか。空気が薄いんだな。気温も低い。丁度、『グレイシア』見付けた霊峰バルセスと同じじゃねえか」
「もう良いか。『特級トレジャーハンター』と言えどこの程度だったと。終わらせよう」
「そろそろ慣れて来たな」
「!」

 エフィリスが、再びリシスへ駆ける。だがその速度は、先程までと比べて数段速かった。リシスの動体視力と体感的には、倍以上にも速く感じた。

「っ!」

 慌てて咄嗟に、黄金水でガードの体勢を取る。だが間に合わず、エフィリスが通り過ぎた時には肩口から血が噴き出した。

「ぐっ! ……なんだと」
「先に言ってくれよ。空気が薄いってよ。いつもならサーガが教えてくれるんだが。それならそれ用の『動き方』があらぁな」

 2撃目。また、リシスの反応は間に合わない。今度は脚が斬られた。

「うぐ……! なんだこいつは。ガードが間に合わない!?」
「ふーっ」

 エフィリスも相当傷付いている。動きを止めて、深く息を吐いた。

「固まる前に斬りゃ良い。俺がお前より速く動けるかってだけのゲームだ」
「……ならば、もう遊びは終わりだ!」

 リシスは黄金水を大量に出し、全身を覆って固めた。黄金の鎧を着た姿に変身した。

「これならば、どれだけお前が速く斬り掛かろうと無意味だ!」
「趣味悪ぃ格好だな。暗くてもよく見えらあ。金ピカ野郎」
「ふん。攻撃できないだろう。『適応』という言葉を知っているか? 古代遺物の武器は、長い訓練を経て使用者の意思を汲み取ることがある。この壺は最早盗品などではない。俺の一部だ」

 リシスを覆う黄金の鎧から、液状の黄金水が槍となって飛び出る。それは全方向に向けた攻撃となり、周囲のものを破壊していく。

「近付けまい。『炎のエフィリス』!」
「…………へぇ」

 エフィリスは、それを見て少し距離を取った。この辺りは人が住んでいないのか、家屋が破壊されても誰も居ない。彼はそれを確認したかった。いくらネヴァン教の人間と言えど、非戦闘員の一般信者を手に掛けたくは無い。

 炎の剣を、地面に突き刺した。

「なんだ? 降参か?」
「……燃えろ」
「!」

 ゴウ。
 太陽から噴き出る紅炎のように、剣から溢れ出した。リシスは動きを止める。真っ赤な火炎は瞬く間に燃え広がり、周辺は昼間のように明るくなった。

「こ、これは……!?」

 凄まじい熱であった。黄金水の鎧で防いでいなければとても耐えられないだろうとリシスは察する。まんま、都市のこの一部が火事になったのだ。文字通り、火の海の中心に。

「……『適応』ねえ。これで合ってるか?」
「そんな馬鹿なっ!」

 エフィリスは髪も身体も、赤熱の炎に包まれて燃えていた。だが焼けていない。彼の肉体に、熱と火によるダメージは無いように見える。

「俺だけ熱くねえ炎か。……今、お前のお陰で完全に会得したわ。礼を言うぜ」
「馬鹿なっ! そんなことが……!」

 ジュワリ。リシスはぞっとした。自身を覆う黄金の鎧が。
 溶け始めていたのだ。

「お前、ずっとここで暮らして訓練してきたんだってな。……もっと世界を見ろ。自分の目と足で。自分で見付けるまで武器なんか持つんじゃねえ」
「——!」

 エフィリスは彼を殺さなかった。爆炎の大剣の腹で、リシスの頭を打って気絶させた。

「じゃあなリシス。今度はトレジャーハント勝負しようぜ」
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