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第57話 昔話
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『シロナ様は、お姫様。カナタ様は王子様。おふたりは同盟国同士で幼馴染みでした』
その後。
古代文明の謎の技術を全く甘く見ていないネヴァンは、現時点で非協力的なサスリカを自由にはしない。彼女はあらゆる拘束具を付けられ、どこか地下の牢獄に収容される。
鉄格子を挟んで、オルヴァリオが立つ。聞きに来たのだ。
1万年前の話を。
『恐らく、カナタ様はシロナ様を妃に迎えたかったのだと思います。その頃はまだ世界は滅亡しておらず、ワタシも造られていませんが』
「それは、叶わなかったのか」
『ハイ。戦争が起きました。その戦争を終結させる為に、シロナ様は敵国の王子と結ばれたようです。ワタシの記録では』
「……ふむ。まあ仕方無い話だな」
『ワタシは、カナタ様ご本人とはお会いしたことはありません。ワタシが造られた時には既に、シロナ様はレオン様と結ばれ、そして共に亡くなっておりました』
「……レオンてのが、その敵国の王子か」
『ハイ。おふたりは愛し合っていたと、共通のご友人様であるアニマ様からお聞きしました。ですからワタシの知るカナタ様は、「ご立派な宇宙飛行士」でしかありませんでした』
「……宇宙、飛行士?」
『宇宙を飛ぶ船の操縦士です。今よりもっと、文明は進んでいたのです』
「なる、ほど」
カタカタ、キューンと音が鳴る。サスリカの身体に宿る、古い記録を呼び起こしているのだ。
『世界が崩壊しても人類が長らえるように、大勢を乗せて別の惑星へ移住する計画がありました。「Project:ALPHA」と言います。それに貢献した偉大な飛行士のひとりとして、名を残したのがカナタ・ギドーです』
「……凄いな。古代人は」
『その古代人の血を、我が物にしようとしているのが、ネヴァン商会なのでしょう』
解かすつもりなのだ。あれをトレジャーだと思うのなら破壊行為はできない筈。ネヴァンもクリューと同じく、『氷漬けの美女』をひとりの女性として見ている。
『恐らくあてがわれるのは、オルヴァリオ様』
「…………!」
カナタ・ギドーの生まれ変わりを自称している者の、子孫。それだけで、察することができる。カナタの宿願を果たす。文明の復興は、表向きの目的でしかないのだろう。
「おいおい、クリューに殺されるぞ」
『ハイ。ワタシも認めません。何よりあの「グレイシア」は、シロナ様ではありませんから』
「? そうなのか?」
『あれはクローンです。滅亡後に。シロナ様達の死亡後に、アニマ様が自律AIのレイシーを使って計画したものです。ワタシの記憶は途中で途絶えていますので、まさか完成されているとは思いませんでしたが』
「……?? すまん分からん単語が」
『つまり、古代文明では人間の複製ができたのです。あれは複製された人間。シロナ様の容姿を持っていますが、別人です。滅亡する世界を嘆き、未来へ遺伝子を残そうとしたアニマ様の命と涙の雫』
「…………ふむ」
人間の複製。遺伝子。オルヴァリオからすればちんぷんかんぷんだった。
「それで、実際解かせるのか?」
『ハイ。あれは実は氷ではなく、機械です。常に冷気を放つ透明な機械と、それを維持する装置があります。装置を触り、解除する命令を出せばますたーの目的は果たされる筈です』
「なるほど。じゃあクリューが来る前に俺達がそれをやる訳にはいかないな」
『ハイ』
「…………」
オルヴァリオは、サスリカと話していて少し気まずくなった。
「怒っているか」
『ハイ』
「!」
サスリカは無表情で即答した。オルヴァリオは動揺してしまった。
『貴方様はますたーのご友人様ですが、ますたーの意向と違う行動をしています。ワタシに感情があるならば、貴方様を快く思わないでしょう』
「…………だよな」
自分が何をしているか。オルヴァリオは自分で理解している。サスリカに背を向けて、その場を去った。
その後。
古代文明の謎の技術を全く甘く見ていないネヴァンは、現時点で非協力的なサスリカを自由にはしない。彼女はあらゆる拘束具を付けられ、どこか地下の牢獄に収容される。
鉄格子を挟んで、オルヴァリオが立つ。聞きに来たのだ。
1万年前の話を。
『恐らく、カナタ様はシロナ様を妃に迎えたかったのだと思います。その頃はまだ世界は滅亡しておらず、ワタシも造られていませんが』
「それは、叶わなかったのか」
『ハイ。戦争が起きました。その戦争を終結させる為に、シロナ様は敵国の王子と結ばれたようです。ワタシの記録では』
「……ふむ。まあ仕方無い話だな」
『ワタシは、カナタ様ご本人とはお会いしたことはありません。ワタシが造られた時には既に、シロナ様はレオン様と結ばれ、そして共に亡くなっておりました』
「……レオンてのが、その敵国の王子か」
『ハイ。おふたりは愛し合っていたと、共通のご友人様であるアニマ様からお聞きしました。ですからワタシの知るカナタ様は、「ご立派な宇宙飛行士」でしかありませんでした』
「……宇宙、飛行士?」
『宇宙を飛ぶ船の操縦士です。今よりもっと、文明は進んでいたのです』
「なる、ほど」
カタカタ、キューンと音が鳴る。サスリカの身体に宿る、古い記録を呼び起こしているのだ。
『世界が崩壊しても人類が長らえるように、大勢を乗せて別の惑星へ移住する計画がありました。「Project:ALPHA」と言います。それに貢献した偉大な飛行士のひとりとして、名を残したのがカナタ・ギドーです』
「……凄いな。古代人は」
『その古代人の血を、我が物にしようとしているのが、ネヴァン商会なのでしょう』
解かすつもりなのだ。あれをトレジャーだと思うのなら破壊行為はできない筈。ネヴァンもクリューと同じく、『氷漬けの美女』をひとりの女性として見ている。
『恐らくあてがわれるのは、オルヴァリオ様』
「…………!」
カナタ・ギドーの生まれ変わりを自称している者の、子孫。それだけで、察することができる。カナタの宿願を果たす。文明の復興は、表向きの目的でしかないのだろう。
「おいおい、クリューに殺されるぞ」
『ハイ。ワタシも認めません。何よりあの「グレイシア」は、シロナ様ではありませんから』
「? そうなのか?」
『あれはクローンです。滅亡後に。シロナ様達の死亡後に、アニマ様が自律AIのレイシーを使って計画したものです。ワタシの記憶は途中で途絶えていますので、まさか完成されているとは思いませんでしたが』
「……?? すまん分からん単語が」
『つまり、古代文明では人間の複製ができたのです。あれは複製された人間。シロナ様の容姿を持っていますが、別人です。滅亡する世界を嘆き、未来へ遺伝子を残そうとしたアニマ様の命と涙の雫』
「…………ふむ」
人間の複製。遺伝子。オルヴァリオからすればちんぷんかんぷんだった。
「それで、実際解かせるのか?」
『ハイ。あれは実は氷ではなく、機械です。常に冷気を放つ透明な機械と、それを維持する装置があります。装置を触り、解除する命令を出せばますたーの目的は果たされる筈です』
「なるほど。じゃあクリューが来る前に俺達がそれをやる訳にはいかないな」
『ハイ』
「…………」
オルヴァリオは、サスリカと話していて少し気まずくなった。
「怒っているか」
『ハイ』
「!」
サスリカは無表情で即答した。オルヴァリオは動揺してしまった。
『貴方様はますたーのご友人様ですが、ますたーの意向と違う行動をしています。ワタシに感情があるならば、貴方様を快く思わないでしょう』
「…………だよな」
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