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第50話 旅の途中
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ラビア王国。技術と資源が豊かな、大国に匹敵する国力を持つ国だ。戦争など無縁。トレジャーハンターも数多く抱えるルクシルアの同盟国。
クリューとオルヴァリオの故郷は、首都ではないが都市と言って差し支えない大きな街であった。
「へぇ、都会じゃない」
リディが感心する。馬車用に舗装された道、区画整理された建物。歩道にもゴミなどは落ちていない。手入れの行き届いている綺麗な街だった。つまり、無法者代表であるハンターが居ない街。ギルドの無い街である。
「……意外と早く帰ってきちまったな」
「ああ。俺も父と口論して出てきたから少し気まずい」
ぽつりとオルヴァリオが呟いた。
「寄るなら寄ってこいよ。別に皆で俺の屋敷に来なくても良い。話をするだけだからな」
「いや、俺は家には寄らない。知り合いに見付かるのも嫌だし隣街で宿でも取ってるさ。じゃあまたな」
「ああ」
街の入口まで来て、オルヴァリオが引き返した。クリューも特に止めない。彼は自分の屋敷へ向かってすたすたと進む。当然のように、サスリカはクリューに付いていく。
「えっ。ちょ。あたしは?」
「自由行動だ」
「はぁ?」
キョロキョロとふたりを交互に見て。リディは仕方なくクリューの方へ向かった。
「ちょっとなにあれ?」
「……オルヴァは、ちょっと色々あってな。家族の問題とか。ひとりにさせた方が良い」
「なによそれ。気になるわね」
「そうか?」
「そうよ。話してくれても良いじゃない。あんた達はあたしの家のこと知ってるんだし」
「ふむ確かに」
思えば。クリューの話はよく聞く。『グレイシア』について。商人である家について。だが。
オルヴァリオの話は聞かない。彼が話さないのだ。どちらかというとクリューよりお喋りな彼が。
「リディはオルヴァをどう思う?」
「どうって? 剣の話なら、素直だし筋は良いと思うわ」
クリューの質問に、リディは首をかしげた。
「性格とかそういう」
「あー。あのね、ずっと思ってたけどあんたら結構似てるのよ。喋り方も普段のテンションも。流石同郷ねって感じ」
「そうなのか?」
「まあ自覚は無いでしょうね。……まあ、あんたは『一直線』で、オルヴァリオは『寄り道』も楽しむ感じね。特に目的が無いのは、あたし寄りだけど」
「……人を殺せると思うか」
「!」
ずばりと出てきたその質問には。リディは答えられなかった。
クリューの実家は、リディの居たハクラー邸よりひと回り小振りな屋敷だった。門をくぐると、『坊っちゃん』の帰りに気が付いた使用人がぱたぱたと慌ててやってくる。
「クリュー坊っちゃん!」
「……アーリャか。久し振りだな」
エプロンを着けた黒髪の女性。外見は30代くらいだろうか。線の細い美人だとリディは思った。
「お帰りになられたのですね。そちらは」
「トレジャーハンターの仲間だ。リディとサスリカ。気にしなくて良い。今日は父上に話があって来たんだ」
「……かしこまりました」
「リディを客室に案内してやってくれ。父上が居るなら俺から向かおう。サスリカ、お前も来てくれ」
『ハイ』
「えっ。なんで?」
「後で話す」
リディとサスリカはぺこりと頭を下げた。そこでリディと一旦別れて、クリューは父親の書斎へと歩みを進める。
「父上」
ノックをして、返事を待たずに入る。
「……クリュー。旅は終わったのか」
約半年振りの帰宅と再会。父親はクリューの格好を見て大方の予想を立てていた。
「まだです」
「だろうな。腰に銃がある。ならば何故帰ってきた」
ふたりの間に、前置きや世間話は要らない。
「『ネヴァン商会』について、何かご存知ありませんか。父上」
「!」
単刀直入。この為に来たのだから。そして、その質問でこの父親はすぐに思い至る。
「……ルクシルアの『グレイシア』盗難事件。犯人はお前ではなくネヴァン商会という訳か」
「耳がお早い。その通りです」
当初、そのニュースを見て彼はクリューが盗んだと思った。馬鹿なことをしたなと。結局100億など不可能だったのだと。
しかし違った。帰ってきたクリューは『旅の途中』だった。
そして、真犯人の名前。
「……トレジャーハンターで100億稼ぐより危険だぞ」
「何ら問題ありません。父上の知る全てをお教えください」
やはり彼はネヴァン商会を知っていた。クリューはにやりと口角を上げた。
クリューとオルヴァリオの故郷は、首都ではないが都市と言って差し支えない大きな街であった。
「へぇ、都会じゃない」
リディが感心する。馬車用に舗装された道、区画整理された建物。歩道にもゴミなどは落ちていない。手入れの行き届いている綺麗な街だった。つまり、無法者代表であるハンターが居ない街。ギルドの無い街である。
「……意外と早く帰ってきちまったな」
「ああ。俺も父と口論して出てきたから少し気まずい」
ぽつりとオルヴァリオが呟いた。
「寄るなら寄ってこいよ。別に皆で俺の屋敷に来なくても良い。話をするだけだからな」
「いや、俺は家には寄らない。知り合いに見付かるのも嫌だし隣街で宿でも取ってるさ。じゃあまたな」
「ああ」
街の入口まで来て、オルヴァリオが引き返した。クリューも特に止めない。彼は自分の屋敷へ向かってすたすたと進む。当然のように、サスリカはクリューに付いていく。
「えっ。ちょ。あたしは?」
「自由行動だ」
「はぁ?」
キョロキョロとふたりを交互に見て。リディは仕方なくクリューの方へ向かった。
「ちょっとなにあれ?」
「……オルヴァは、ちょっと色々あってな。家族の問題とか。ひとりにさせた方が良い」
「なによそれ。気になるわね」
「そうか?」
「そうよ。話してくれても良いじゃない。あんた達はあたしの家のこと知ってるんだし」
「ふむ確かに」
思えば。クリューの話はよく聞く。『グレイシア』について。商人である家について。だが。
オルヴァリオの話は聞かない。彼が話さないのだ。どちらかというとクリューよりお喋りな彼が。
「リディはオルヴァをどう思う?」
「どうって? 剣の話なら、素直だし筋は良いと思うわ」
クリューの質問に、リディは首をかしげた。
「性格とかそういう」
「あー。あのね、ずっと思ってたけどあんたら結構似てるのよ。喋り方も普段のテンションも。流石同郷ねって感じ」
「そうなのか?」
「まあ自覚は無いでしょうね。……まあ、あんたは『一直線』で、オルヴァリオは『寄り道』も楽しむ感じね。特に目的が無いのは、あたし寄りだけど」
「……人を殺せると思うか」
「!」
ずばりと出てきたその質問には。リディは答えられなかった。
クリューの実家は、リディの居たハクラー邸よりひと回り小振りな屋敷だった。門をくぐると、『坊っちゃん』の帰りに気が付いた使用人がぱたぱたと慌ててやってくる。
「クリュー坊っちゃん!」
「……アーリャか。久し振りだな」
エプロンを着けた黒髪の女性。外見は30代くらいだろうか。線の細い美人だとリディは思った。
「お帰りになられたのですね。そちらは」
「トレジャーハンターの仲間だ。リディとサスリカ。気にしなくて良い。今日は父上に話があって来たんだ」
「……かしこまりました」
「リディを客室に案内してやってくれ。父上が居るなら俺から向かおう。サスリカ、お前も来てくれ」
『ハイ』
「えっ。なんで?」
「後で話す」
リディとサスリカはぺこりと頭を下げた。そこでリディと一旦別れて、クリューは父親の書斎へと歩みを進める。
「父上」
ノックをして、返事を待たずに入る。
「……クリュー。旅は終わったのか」
約半年振りの帰宅と再会。父親はクリューの格好を見て大方の予想を立てていた。
「まだです」
「だろうな。腰に銃がある。ならば何故帰ってきた」
ふたりの間に、前置きや世間話は要らない。
「『ネヴァン商会』について、何かご存知ありませんか。父上」
「!」
単刀直入。この為に来たのだから。そして、その質問でこの父親はすぐに思い至る。
「……ルクシルアの『グレイシア』盗難事件。犯人はお前ではなくネヴァン商会という訳か」
「耳がお早い。その通りです」
当初、そのニュースを見て彼はクリューが盗んだと思った。馬鹿なことをしたなと。結局100億など不可能だったのだと。
しかし違った。帰ってきたクリューは『旅の途中』だった。
そして、真犯人の名前。
「……トレジャーハンターで100億稼ぐより危険だぞ」
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