GLACIER(グレイシア)

弓チョコ

文字の大きさ
上 下
49 / 99

第49話 クリューの決意②

しおりを挟む
「俺の方もまた調べてみるが、忘れるなよ。俺達は『組織』を相手にするんだ。『探っていること』すら知られるな。どこから不意打ちで暗殺されるか分からねえからな」

 ルクシルアでエフィリス達と別れて。クリュー達はラビア王国へやってきていた。クリューの実家、スタルース商会を訪ねるためだ。
 また、馬車での移動。エフィリスのチーム専属の快適な馬車ではなく、普通の乗り合い馬車であるが。

「……悪いな」
「えっ?」

 ガタガタと揺られながら、クリューが呟いた。リディが聞き返す。

「本来、『トレジャーハンター』には必要ないのにな。今やっていることは」
「…………」

 リディとオルヴァリオで、お互い見合わせた。今更こいつは何を言っているんだ? とばかりに。

「……だってさ。言ってやってオルヴァリオ」
「……あのな、クリュー」

 ふたりして溜め息を吐いた。

「俺はトレジャーハンターをやりたいが、特に目的はねえ」
「あたしはお金稼げればなんでも」
「で、俺達は『仲間』だろ」

 トレジャーハンターになったばかり、とは言え。バルセス地方で数ヶ月狩猟をやってきている。

「お前が『やりたい』ことなんだ。そりゃ協力するだろ」
「オルヴァ」
「今それより優先すべきこともないしな。気にするなクリュー。なんだかんだ、俺達も見たいんだよ。『古代人の復活』を」
「……」
「あと、あんたの恋路の結末もね」
「リディ……」

 そもそも、彼らはサスリカ以外のトレジャーと呼べるものを何も見付けていない。トレジャーハンターというよりは最早『無職の若者』でしかないのだ。『やりたいこと』を何よりも優先する青春の時代。

「古代文明の解明。俺達も伝説に立ち会わせろよ。クリュー」
「……ありがとう」

 改めて、クリューは頭を深く下げた。本来自分ひとりでやろうとしていたことだ。それに協力してくれる。願ってもないありがたいことだった。

「そういえば、サスリカは『グレイシア』に心当たりは無いのか? 知り合いとかさ」
『分かりません。絵を見ても。実際に見てみなければ』

 新聞を買って広げる。この時代にはまだ、写真は無い。盗まれた『氷漬けの美女』の絵は描いてあるが、これでは分からない。

「俺達より少し色の付いた肌でな。綺麗なんだ。黒く艶やかな髪で。眼は閉じていたが、鼻は低く、口は小さいんだ。恐らく実年齢より幼く見える顔立ちだと思う。それが美しいんだ」
『……黄色人種の特徴ですね。確かに、この世界ではまだ、白人種以外見ていません。いえ……正確には白人種ではないのですが』
「? なんの話だ?」

 クリューが、2度見た『氷漬けの美女』の特徴を語る。思い出しながら、楽しそうに。それを、サスリカは考察する。ガルバ荒野で検死をした、この大陸の人間の特徴と併せて。

『……少なくとも、「古代人」と「現代人」は繋がっていません。トレジャーハンターが追っている「古代文明」の人達は、「あなた方」の先祖では、無いのです』
「……そうなのか。末裔という男性はバルセスに居たが」

 キュインと、駆動音が鳴った。寂しそうな音だった。

『一度か二度、完全に滅んでいます。もう、途絶えてしまった』
「…………」
「……けど」
「ああ」
『ハイ』

 自分達が滅びるのは、悲しいことだ。サスリカがひとり復活したところで、彼女は子を宿せない。
 だが。

『その「グレイシア」が復活すれば。世紀の発見どころではありません。「血」を、存続させることができるのです』
「…………任せろ」

 絶滅。今を生きるクリュー達には想像もできない危機だ。それを回避する細い糸のような希望がある。

「クリューの恋が実るかは別の話よ?」
「勿論分かってる。『彼女の解放』が第一だ。もし望まぬ復活なら、また氷で覆えば良い。俺はトレジャーハンターを辞め、家業を継ごう」
「…………」
「まずは、ネヴァン商会だ。まだ何も掴めていない。奴らを突き止めねばな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!

SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、 帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。 性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、 お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。 (こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...