GLACIER(グレイシア)

弓チョコ

文字の大きさ
上 下
44 / 99

第44話 古代文明

しおりを挟む
「ふぅ。まあ、こんなもんだな。よくやったマル」
「……えへへ。……うん」

 いつの間にか、エフィリスが崖を登り切っていた。マルが嬉しそうに頭を撫でられている。
 そこへ、クリュー達と、サスリカの手助けで登ってきたオルヴァリオも合流する。

「よぉ。お疲れさん。怪獣つってもやりゃあ簡単だったろ?」

 ドラゴンと正面からやり合ったエフィリスは、なんと無傷だった。

「……あたし達要らなかったじゃない」
「ははっ。最初はそんなもんだ。良い経験になったろ?」

 白い歯を見せて笑うエフィリスと逆に、リディは肩を落としていた。恐らく彼女にはプライドがあったのだろう。トップ層には届かずとも、一定の成果は上げられると。
 だが結果的に、クリューやオルヴァリオと同じく『役に立たなかった』。彼女は目に見えて落胆していた。

「よし。狩りは終わりだ。今日は焼肉して、明日帰ろう。回収はギルド職員がやる。……つってもお前らはメンバーじゃねえから報酬も何も無いがな」
「付いてきただけで何もしていない。元より報酬なんて要らないさ。良い勉強をさせてもらった。……肉を、食うのか?」

 誘き寄せて罠に嵌め、狙撃して狩る。言葉にすればそれだけだが、これは完全に『特級』の仕事だった。ドラゴンに殺されずに誘導できる戦闘力と、暴れるドラゴンの眼球を精確に狙撃する技術。少なくともそのふたつが無ければ達成できない依頼だった。クリューのチームでは全く不可能だ。

「ああ。俺達の特権だ。仕留めた『特級』怪獣の美食。世界で最初に味わえるんだぜ。サーガ、焼肉の準備だ」
「既に下に」
「流石。仕事が早い。じゃ降りるぞ」

 崖の崩れた所を避けつつ、全員で降りる。間近で見るドラゴンはやはり巨大で、死んでなおプレッシャーを放っている。クリューは生唾を飲み込んだ。

「ギルドの依頼だと獲物はギルドに所有権あるんじゃないの?」

 リディが、質問した。エフィリスは笑って答える。

「こんな大量の肉、半分も食えねえよ。どうせ殆ど腐るんだ。ギルドにやるのは鱗とか角とかその辺」
「……そっか。まあそうね。勿体無いけど」
『…………』

 この時代。
 サスリカは。『あれ』が無いのかと。思った。バルセスで目覚めてからここまで、なるべく『口出し』はしないようにしていた。まずは、この時代のことを学ぼうと。この時代を知ろうと。
 そして。

『……「保存方法」は無いのですか?』
「!」

 遂に訊いた。

「あん? まあ干し肉にする手もあるが不味いし……全部は処理する前にいくつか腐るぜ。『ドラゴンの解体』ってな、完全にできる奴は居ねえし」
『ただの「大きな爬虫類」とするなら、できない理由は「人手」でしょうか』
「お? ……まあ、そうだな。そもそもドラゴンなんざほいほい討伐されねえんだよ。今回は『俺が』特級だったからだ」

 その会話の途中で。サスリカはサーガを引き留めた。討伐の報告をしようと街へ向かう所だったのだ。

『紙とペンはありますか?』
「? ……ありますが」
『ではこれと、人手を集めてきてくださいませんか』
「??」

 サスリカが紙に書いたのは、工具と材料のリストだった。

「なんだこれは……?」
『近くに湖と、川もありますから。「冷蔵」しましょう。人間は生きていますから、食糧は出来るだけ保存しましょう』
「……!?」

 サスリカが今、マスターの許可無く勝手に行っていることは。マスターの許可が不要な行動である。彼女はそれに該当する行動がプログラムされていた。
 つまり、『生命維持が必要』な事柄に対しての提言。加えて、街が破壊され、仕事と食糧を同時に失った人間が多数居るという状況を鑑みて。

『エフィリス様。鱗を剥がして解体をしなければ』
「おん? お、おう……。そうだが、この巨大だぞ。血抜きも無理だ」
『——では、ますたーとオルヴァリオ様もナイフを手に。ワタシの指示通りにお願いいたします』

 『古代文明』が、1万年の時を経て目覚めたのだ。
 『こんなもの』ではない。こんな、原始的なものでは。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

とある婚約破棄の顛末

瀬織董李
ファンタジー
男爵令嬢に入れあげ生徒会の仕事を疎かにした挙げ句、婚約者の公爵令嬢に婚約破棄を告げた王太子。 あっさりと受け入れられて拍子抜けするが、それには理由があった。 まあ、なおざりにされたら心は離れるよね。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

IL FALCO NERO 〜黒い隼〜

宇山遼佐
大衆娯楽
この物語は、レシプロ黄金時代のアレッサンドロ海を舞台に、誇りと金と女をかけて空中海賊と戦い、黒い隼(ファルコ・ネーロ)と呼ばれた一人の賞金稼ぎの物語である。 (要するに「紅の豚」リスペクト・パロディな話) 現実世界からレシプロ戦闘機の機体及び発動機等の設計図が流れ着き、それを基に造られたWW2終結までのレシプロ機が翔び交う世界で、真っ黒に塗装したキ43 一式戦闘機〈隼〉Ⅱ型を駆り、黒い隼(ファルコ・ネーロ)の名で、賞金稼ぎとして生きる男の物語 (※小説家になろうでも連載中)

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル
SF
 これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。 ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。 βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?  そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。  この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。

処理中です...