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第19話 星の夜
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「お前ら来たのか。丁度良い。運ぶの手伝ってくれ」
「えっ」
銃声のした方へ、慌てて駆け付けると。
クリューが握る銃からは、煙が。そして。
彼の足元に、毛むくじゃらの巨体が倒れていた。
「なんだ、これ?」
「さあな。熊かと思ったが少し違うようだ。兎の耳が付いたゴリラのような。この前のバルセスベアより大きい個体だ」
「あんたこれ倒したの? 1発で?」
「ああ」
リディがその死体を確認する。白い眉間から血が流れ出ている。1発で。
撃ち抜いたのだ。この猛獣を。
「……フロストウサギよ。ベテランでも手を焼く猛獣」
「変な名前だな。まあ今夜の肉だ」
「…………クリューあんた、何者よ」
「うん?」
クリューは無傷だった。出会った瞬間に撃ったのだろう。平気な顔をして。
この男には銃の。ハンターの才能がある。リディは確信した。
「はぁ。まあ、こんだけ大きいとある程度切り分けないとね。あたしがやっとくからクリューは薪拾い。オルヴァリオは先に戻って休んどいて」
「いや、俺も手伝うぜ。もう大丈夫だ」
「そう?」
オルヴァリオも、友の活躍を見て何も思わない訳は無い。こんな山道程度で音を上げる訳にはいかない。
「こいつには群れが居ないのか?」
「さあ。そこまで詳しく生態は調べられていないんじゃないかしら。油断はできないわね」
ある程度解体して、後は放置するしかない。他の動物達の食糧となるだろう。
「(……あのゴリラと出くわしたとして。俺は勝てるだろうか)」
フロストウサギの肉を食べながら。オルヴァリオは悩む。あれもまた毛皮が硬そうだ。この剣ではやはり顔面を狙うしかない。
届くだろうか。今の自分の技術で。
「いやあ、旅は順調ね。大きな怪我もしてないし。明日には遺跡に着くし。あとはお宝を回収して終わりね」
「何事も無ければ良いけどな」
「やめてよ不吉な。大丈夫よ」
「リディは以前もここへ来たよな。その時はひとりだったのか?」
「そうよ。あたしはずっとひとりでやってきた。まあ楽だしね。荷物も軽いし」
「それは凄いな」
「最初は苦労したけどね。経験よ経験。勿論危険もいっぱいあったけど。思い出せば楽しい記憶が先に来るわね」
「…………」
自分より。リディの方がよっぽど強い。オルヴァリオは噛み締めていた。ひとりで旅を始めるつもりではいたが、クリューを見て誘ってしまった。間違いとは言わないが、どこかひとりだと心細い所があったのではないか。
「あんた達こそどうよ。今まさに、冒険してるじゃない。オルヴァリオは夢だったんでしょ? トレジャーハンター」
「……ああ」
だが、まあ。
ひとりよりふたり。ふたりより3人の方が、旅をしていて楽しいのは確実だろう。オルヴァリオはできるだけ前向きに考えようと努める。
「楽しいな。毎日知らない道を通って、見たこと無い景色を見て。……まあ大体同じ雪景色だが。こうして都会の喧騒の無い山で仲間と火を囲んで、星に囲まれて。……俺の思い描いてた『トレジャーハンター』だ」
「ふふ」
「なんだよ」
空を見る。ここ数日、吹雪は来ていない。例年と比べて珍しいらしい。今夜はよく星が見える。空気が綺麗だ。
「別に? クリューは?」
「俺は……」
クリューにとっては。全ては『氷漬けの美女』の為の行動だ。だがここまでの道中、何も感じないかと言われればそれは違う。
「自分がこんな生活をするとは夢にも思わなかった。トレジャーハンターの話はよくオルヴァから聞いていたが、話半分に聞き流していたな」
「なんだと」
「すまないすまない。……だが」
この世界は、とてつもなく広い。今まで生きてきた20年では、とても表現しきれない。把握ができない。その一端を知ることができた。
「楽しいな。充実している。まだ、目的に辿り着いていないがな。今のところは、オルヴァの話に乗って良かったと思ってるよ」
「クリュー」
明日はいよいよ遺跡に入る。
トレジャーハンティングはまだ始まっていない。
「えっ」
銃声のした方へ、慌てて駆け付けると。
クリューが握る銃からは、煙が。そして。
彼の足元に、毛むくじゃらの巨体が倒れていた。
「なんだ、これ?」
「さあな。熊かと思ったが少し違うようだ。兎の耳が付いたゴリラのような。この前のバルセスベアより大きい個体だ」
「あんたこれ倒したの? 1発で?」
「ああ」
リディがその死体を確認する。白い眉間から血が流れ出ている。1発で。
撃ち抜いたのだ。この猛獣を。
「……フロストウサギよ。ベテランでも手を焼く猛獣」
「変な名前だな。まあ今夜の肉だ」
「…………クリューあんた、何者よ」
「うん?」
クリューは無傷だった。出会った瞬間に撃ったのだろう。平気な顔をして。
この男には銃の。ハンターの才能がある。リディは確信した。
「はぁ。まあ、こんだけ大きいとある程度切り分けないとね。あたしがやっとくからクリューは薪拾い。オルヴァリオは先に戻って休んどいて」
「いや、俺も手伝うぜ。もう大丈夫だ」
「そう?」
オルヴァリオも、友の活躍を見て何も思わない訳は無い。こんな山道程度で音を上げる訳にはいかない。
「こいつには群れが居ないのか?」
「さあ。そこまで詳しく生態は調べられていないんじゃないかしら。油断はできないわね」
ある程度解体して、後は放置するしかない。他の動物達の食糧となるだろう。
「(……あのゴリラと出くわしたとして。俺は勝てるだろうか)」
フロストウサギの肉を食べながら。オルヴァリオは悩む。あれもまた毛皮が硬そうだ。この剣ではやはり顔面を狙うしかない。
届くだろうか。今の自分の技術で。
「いやあ、旅は順調ね。大きな怪我もしてないし。明日には遺跡に着くし。あとはお宝を回収して終わりね」
「何事も無ければ良いけどな」
「やめてよ不吉な。大丈夫よ」
「リディは以前もここへ来たよな。その時はひとりだったのか?」
「そうよ。あたしはずっとひとりでやってきた。まあ楽だしね。荷物も軽いし」
「それは凄いな」
「最初は苦労したけどね。経験よ経験。勿論危険もいっぱいあったけど。思い出せば楽しい記憶が先に来るわね」
「…………」
自分より。リディの方がよっぽど強い。オルヴァリオは噛み締めていた。ひとりで旅を始めるつもりではいたが、クリューを見て誘ってしまった。間違いとは言わないが、どこかひとりだと心細い所があったのではないか。
「あんた達こそどうよ。今まさに、冒険してるじゃない。オルヴァリオは夢だったんでしょ? トレジャーハンター」
「……ああ」
だが、まあ。
ひとりよりふたり。ふたりより3人の方が、旅をしていて楽しいのは確実だろう。オルヴァリオはできるだけ前向きに考えようと努める。
「楽しいな。毎日知らない道を通って、見たこと無い景色を見て。……まあ大体同じ雪景色だが。こうして都会の喧騒の無い山で仲間と火を囲んで、星に囲まれて。……俺の思い描いてた『トレジャーハンター』だ」
「ふふ」
「なんだよ」
空を見る。ここ数日、吹雪は来ていない。例年と比べて珍しいらしい。今夜はよく星が見える。空気が綺麗だ。
「別に? クリューは?」
「俺は……」
クリューにとっては。全ては『氷漬けの美女』の為の行動だ。だがここまでの道中、何も感じないかと言われればそれは違う。
「自分がこんな生活をするとは夢にも思わなかった。トレジャーハンターの話はよくオルヴァから聞いていたが、話半分に聞き流していたな」
「なんだと」
「すまないすまない。……だが」
この世界は、とてつもなく広い。今まで生きてきた20年では、とても表現しきれない。把握ができない。その一端を知ることができた。
「楽しいな。充実している。まだ、目的に辿り着いていないがな。今のところは、オルヴァの話に乗って良かったと思ってるよ」
「クリュー」
明日はいよいよ遺跡に入る。
トレジャーハンティングはまだ始まっていない。
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