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第15話 合格
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「オルヴァひとりで大丈夫なのか……?」
「バルセスベアは群れを作らないし、他の動物も近寄らないからこの前みたいに大勢に囲まれることは無いのよ。だから、オルヴァリオが訓練の成果を出せる相手としては最適かもね」
「だが雪原では敵無しなんだろう? 勝てるのか?」
心配そうにするクリュー。オルヴァリオは既にテントから出て、バルセスベアへと歩を進めている。
「あたしが毎日手合わせしてる感じだと勝てるわ。後は自分の気持ちよ」
「やばくなったら俺は撃つぞ」
「ええ。あたしもよ。でも敵無しと言っても、『山中の猛獣』や『古代遺跡のトラップ』『悪意ある人間』よりはマシだから。多少危険でもここで慣らしておかないと」
「……そうなのか」
オルヴァリオの心臓は、ふたりが思うよりもばくばくしていた。熊だ。熊といえば有名な猛獣である。人間より大きく、力強い。剣があろうと普通は勝てる訳は無い。
だが、高名な、トップレベルのトレジャーハンター達は。そんな力の差などものともせずに立ち向かい、こんな熊程度ならばすぐに倒してしまう。それも、ハンターに憧れていたオルヴァリオは当然知っている。
「……気付かれたか」
ふぅ、と息を吐く。剣をすらりと抜く。オルヴァリオは、初心に帰るつもりでいた。
「俺はトレジャーハンターになる。熊なんかに負けてられないだろ」
オルヴァリオに気付いたバルセスベアが立ち上がる。3メートルから4メートルはある。遠くのバルセスの峰が視界から隠された。
「来い!」
バルセスベアは高らかに吼え猛り、オルヴァリオへと突進していく。人間など、熊にとっては『多めの肉』だ。生き物の少ない極寒の地では、ご馳走である。
まずは体格と体重に任せた突進と飛び掛かりが来る。オルヴァリオは脇を通りすぎるように躱し、熊の通過する直線上に剣の刃を置いた。
「ふっ!」
通り過ぎ様に切りつける。だが毛皮が厚く、切り裂くには至らなかった。
突進が当たらないと判断したバルセスベアは、即座に切り返し、オルヴァリオへと襲い掛かる。
「うおお!」
その場から跳ねて離脱したオルヴァリオは、攻撃を透かしたバルセスベアへもう一度切りつける。
「おら!」
だがまたしても毛皮に弾かれる。
「(ダメだ! 狙うなら顔!)」
バルセスベアの攻撃を再度躱した後、今度は目の辺りを狙って剣を振る。するとバルセスベアは視界を塞がれることを嫌い、大きく後退した。
「今だっ!」
そのチャンスを逃さず。今度は切りつけるのではなく、剣を真っ直ぐ槍のようにして。
喉へと突き刺した。
「うおお!」
剣は喉を突き破り、頭まで貫通した。暴れるバルセスベアに巻き込まれると危ないと判断し、剣から手を離すオルヴァリオ。あとは放っておけば、勝手に息絶えるだろう。即座に下がる。
「…………終わったか」
「やるじゃない。その調子よ」
「リディ」
緊張が解かれると、リディが隣に居ることに気付いた。彼女はアーチェリーを構えて、悶えるバルセスベアの頭を射ち抜いた。バルセスベアはその時点で動きが止まり、どさりと倒れて絶命した。
「銃弾や矢と違って、剣はずっと使うんだから。熊にあげちゃって折られたらどうするのよ」
「……全くだ。あまり良い策では無かったな」
「でも合格よ。バルセスベアをひとりで仕留められるなら、もう問題無いわ」
「!」
にこりと、笑った。リディは。
「……ああ。お前のお陰だ」
「ふふん。どういたしましてっ」
そう言えば、よく見れば美人であると。
オルヴァリオは今、このタイミングでようやく気付いた。
「バルセスベアは群れを作らないし、他の動物も近寄らないからこの前みたいに大勢に囲まれることは無いのよ。だから、オルヴァリオが訓練の成果を出せる相手としては最適かもね」
「だが雪原では敵無しなんだろう? 勝てるのか?」
心配そうにするクリュー。オルヴァリオは既にテントから出て、バルセスベアへと歩を進めている。
「あたしが毎日手合わせしてる感じだと勝てるわ。後は自分の気持ちよ」
「やばくなったら俺は撃つぞ」
「ええ。あたしもよ。でも敵無しと言っても、『山中の猛獣』や『古代遺跡のトラップ』『悪意ある人間』よりはマシだから。多少危険でもここで慣らしておかないと」
「……そうなのか」
オルヴァリオの心臓は、ふたりが思うよりもばくばくしていた。熊だ。熊といえば有名な猛獣である。人間より大きく、力強い。剣があろうと普通は勝てる訳は無い。
だが、高名な、トップレベルのトレジャーハンター達は。そんな力の差などものともせずに立ち向かい、こんな熊程度ならばすぐに倒してしまう。それも、ハンターに憧れていたオルヴァリオは当然知っている。
「……気付かれたか」
ふぅ、と息を吐く。剣をすらりと抜く。オルヴァリオは、初心に帰るつもりでいた。
「俺はトレジャーハンターになる。熊なんかに負けてられないだろ」
オルヴァリオに気付いたバルセスベアが立ち上がる。3メートルから4メートルはある。遠くのバルセスの峰が視界から隠された。
「来い!」
バルセスベアは高らかに吼え猛り、オルヴァリオへと突進していく。人間など、熊にとっては『多めの肉』だ。生き物の少ない極寒の地では、ご馳走である。
まずは体格と体重に任せた突進と飛び掛かりが来る。オルヴァリオは脇を通りすぎるように躱し、熊の通過する直線上に剣の刃を置いた。
「ふっ!」
通り過ぎ様に切りつける。だが毛皮が厚く、切り裂くには至らなかった。
突進が当たらないと判断したバルセスベアは、即座に切り返し、オルヴァリオへと襲い掛かる。
「うおお!」
その場から跳ねて離脱したオルヴァリオは、攻撃を透かしたバルセスベアへもう一度切りつける。
「おら!」
だがまたしても毛皮に弾かれる。
「(ダメだ! 狙うなら顔!)」
バルセスベアの攻撃を再度躱した後、今度は目の辺りを狙って剣を振る。するとバルセスベアは視界を塞がれることを嫌い、大きく後退した。
「今だっ!」
そのチャンスを逃さず。今度は切りつけるのではなく、剣を真っ直ぐ槍のようにして。
喉へと突き刺した。
「うおお!」
剣は喉を突き破り、頭まで貫通した。暴れるバルセスベアに巻き込まれると危ないと判断し、剣から手を離すオルヴァリオ。あとは放っておけば、勝手に息絶えるだろう。即座に下がる。
「…………終わったか」
「やるじゃない。その調子よ」
「リディ」
緊張が解かれると、リディが隣に居ることに気付いた。彼女はアーチェリーを構えて、悶えるバルセスベアの頭を射ち抜いた。バルセスベアはその時点で動きが止まり、どさりと倒れて絶命した。
「銃弾や矢と違って、剣はずっと使うんだから。熊にあげちゃって折られたらどうするのよ」
「……全くだ。あまり良い策では無かったな」
「でも合格よ。バルセスベアをひとりで仕留められるなら、もう問題無いわ」
「!」
にこりと、笑った。リディは。
「……ああ。お前のお陰だ」
「ふふん。どういたしましてっ」
そう言えば、よく見れば美人であると。
オルヴァリオは今、このタイミングでようやく気付いた。
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