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第14話 剣の道
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夕暮れ。銃の手入れをしながら、クリューは考える。
「そう言えばこの銃に名前はあるのか? 同じ銃でも種類があるんだろう。……もっと勉強しなければな」
呟きながら、テントの外を見る。最近は橇を停めると毎日、陽が暮れるまで彼らが訓練をしている。
「ぐはっ!」
何度目だろうか。リディによってオルヴァリオが倒された。雪の積もった所へ、ばふんと。
「また腰が引けたわね。重心は大事よ。オルヴァリオ」
「……ああ。もう一度」
木の枝で作った木刀を持って。毎日リディがオルヴァリオを倒している。
「はっ!」
「やっ!」
「うおっ!」
「あははっ」
オルヴァリオの木刀は一度もリディに届いていない。女だからと手加減できる相手ではない。彼女は剣ひとつ取っても達人であると、クリューの目からも分かった。
「……才能の塊だな」
ぽつりと呟く。彼らの目には、リディが何でもできる超人に映っているだろう。
「今日はこのくらいね。お腹空いたわ」
「ああ……」
オルヴァリオの表情が優れない。ああも毎日負けていては自尊心は砕けているだろう。
だが彼は何ひとつ不満を漏らさなかった。素直に、達人であるリディに教えを乞うているのは理に敵っているのだから。
「基礎はできてるわよ。あとはクリューと同じで実戦と、度胸とかそういう所ね。剣の技術的にはそんなに離れていないわ」
「……そうか」
「ほらこっち来なさい。怪我診たげるから」
オルヴァリオの身体は傷だらけになっている。リディは意外と容赦が無いのだ。だが必要なことだと彼女は言うだろう。比較的安全な旅ができている今の内に形にしておかなくては、バルセスへ入ってから仕事が何もできなくなる。
リディはふたりを協力者として選んだのだ。いつまでも世話をしている訳にはいかない。
「剣には無いのか? これで1ヶ月みたいな指標とか、銃の狙いみたいな頭を使うやり方は」
「無いわね」
「えっ」
火を囲んで。食事中にクリューから質問した。オルヴァリオが悩んでいることは彼も知っている。勿論リディも。
「あくまであたしの経験からくる持論だけど。剣は頭で考えるより速く状況が変わるから。野性的な感覚とでも言うのかしら。そういう素質に左右されるわ」
「素質」
「そりゃ型とかはあるけどね。上達するには実戦あるのみよ。理論は後から付いてくるものだと思うわ」
「…………」
こんな状況で、素質と言われてしまえば。無いと言われているようなものだ。オルヴァリオはうなだれてしまった。
「まあ、それを知ってるのと知らないのとじゃ向き合い方が変わるわよね。オルヴァリオ」
「ああ……」
「しっかりしなさい。あんたには素質あるんだから」
「へっ?」
だがこの数日、リディはオルヴァリオの剣を見ていて。そう感じたのだ。
「早く実戦することね。狼でも呼ぶ?」
「いや、わざわざ危険を冒す必要はないだろ」
「そりゃそっか」
それからまた、数日後。
前方に巨大な山が見えてきたのだ。
「見えたわ。あれがバルセスの峰よ」
「ようやくか!」
テントから顔を出して、リディが指を差す。クリューも同じく。
雲まで突き抜ける霊峰バルセス。今日は晴れているためよく見える。
「あの山頂に遺跡があるわ。麓に町があるから、そこで一度休憩して、すぐ行くわよ」
「ああ」
今度はクリューが上機嫌になった。
「ちょっと待って!」
「!」
ピィ、と。リディが笛を吹いた。雪犬が反応し、橇を止める。
「どうした」
「熊よ」
「!」
目の前に。目と鼻の先に。
のそのそと動く、巨体があった。毛むくじゃらの大型獣。
「バルセスベア。雪原じゃ敵無しの猛獣よ」
「なんだと。襲われるのか?」
「……分からない。好戦的だけど、こちらに気付いていないなら去るのを待ちましょう」
「来たらどうするんだ?」
クリューの質問に、リディは振り返ってオルヴァリオを見た。
「その剣貸してくれれば、あたしが狩るけど?」
「!」
彼女の挑発的な物言いに。
オルヴァリオは立ち上がった。
「俺がやる。どいてろ」
「そう言えばこの銃に名前はあるのか? 同じ銃でも種類があるんだろう。……もっと勉強しなければな」
呟きながら、テントの外を見る。最近は橇を停めると毎日、陽が暮れるまで彼らが訓練をしている。
「ぐはっ!」
何度目だろうか。リディによってオルヴァリオが倒された。雪の積もった所へ、ばふんと。
「また腰が引けたわね。重心は大事よ。オルヴァリオ」
「……ああ。もう一度」
木の枝で作った木刀を持って。毎日リディがオルヴァリオを倒している。
「はっ!」
「やっ!」
「うおっ!」
「あははっ」
オルヴァリオの木刀は一度もリディに届いていない。女だからと手加減できる相手ではない。彼女は剣ひとつ取っても達人であると、クリューの目からも分かった。
「……才能の塊だな」
ぽつりと呟く。彼らの目には、リディが何でもできる超人に映っているだろう。
「今日はこのくらいね。お腹空いたわ」
「ああ……」
オルヴァリオの表情が優れない。ああも毎日負けていては自尊心は砕けているだろう。
だが彼は何ひとつ不満を漏らさなかった。素直に、達人であるリディに教えを乞うているのは理に敵っているのだから。
「基礎はできてるわよ。あとはクリューと同じで実戦と、度胸とかそういう所ね。剣の技術的にはそんなに離れていないわ」
「……そうか」
「ほらこっち来なさい。怪我診たげるから」
オルヴァリオの身体は傷だらけになっている。リディは意外と容赦が無いのだ。だが必要なことだと彼女は言うだろう。比較的安全な旅ができている今の内に形にしておかなくては、バルセスへ入ってから仕事が何もできなくなる。
リディはふたりを協力者として選んだのだ。いつまでも世話をしている訳にはいかない。
「剣には無いのか? これで1ヶ月みたいな指標とか、銃の狙いみたいな頭を使うやり方は」
「無いわね」
「えっ」
火を囲んで。食事中にクリューから質問した。オルヴァリオが悩んでいることは彼も知っている。勿論リディも。
「あくまであたしの経験からくる持論だけど。剣は頭で考えるより速く状況が変わるから。野性的な感覚とでも言うのかしら。そういう素質に左右されるわ」
「素質」
「そりゃ型とかはあるけどね。上達するには実戦あるのみよ。理論は後から付いてくるものだと思うわ」
「…………」
こんな状況で、素質と言われてしまえば。無いと言われているようなものだ。オルヴァリオはうなだれてしまった。
「まあ、それを知ってるのと知らないのとじゃ向き合い方が変わるわよね。オルヴァリオ」
「ああ……」
「しっかりしなさい。あんたには素質あるんだから」
「へっ?」
だがこの数日、リディはオルヴァリオの剣を見ていて。そう感じたのだ。
「早く実戦することね。狼でも呼ぶ?」
「いや、わざわざ危険を冒す必要はないだろ」
「そりゃそっか」
それからまた、数日後。
前方に巨大な山が見えてきたのだ。
「見えたわ。あれがバルセスの峰よ」
「ようやくか!」
テントから顔を出して、リディが指を差す。クリューも同じく。
雲まで突き抜ける霊峰バルセス。今日は晴れているためよく見える。
「あの山頂に遺跡があるわ。麓に町があるから、そこで一度休憩して、すぐ行くわよ」
「ああ」
今度はクリューが上機嫌になった。
「ちょっと待って!」
「!」
ピィ、と。リディが笛を吹いた。雪犬が反応し、橇を止める。
「どうした」
「熊よ」
「!」
目の前に。目と鼻の先に。
のそのそと動く、巨体があった。毛むくじゃらの大型獣。
「バルセスベア。雪原じゃ敵無しの猛獣よ」
「なんだと。襲われるのか?」
「……分からない。好戦的だけど、こちらに気付いていないなら去るのを待ちましょう」
「来たらどうするんだ?」
クリューの質問に、リディは振り返ってオルヴァリオを見た。
「その剣貸してくれれば、あたしが狩るけど?」
「!」
彼女の挑発的な物言いに。
オルヴァリオは立ち上がった。
「俺がやる。どいてろ」
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