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第49話 負けるな、最後の戦い……!

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 ワープ妨害装置の範囲は、『支配の無いラウム国』を覆い、アークシャイン基地を中心に数100キロの円形である。
 イギリスから、妨害装置の範囲外ぎりぎりの境界へワープする。それより東は範囲内。その先には、標的が居た。
「待っていたぞ」
 らいちはワープ直後に東へ向いた。200メートルほど上空には巨大戦艦が浮かんでいる。その甲板の先に、憎きライバルの姿を認める。
「パニピュアっ!!」
「スーパーノヴァ……!」
 お互いの姿を視界に捉える。スーパーノヴァはサンダーボルトの上から、元イギリスラウム兵へ指示を叫ぶ。
「全艦砲撃用意!目標は真下のパニピュアだ!」
 パニピュアに飛行能力は無い。ジャンプすれば甲板へ飛び乗ることはできるだろうが、既に見付かってためそんなことをすれば砲撃の的になる。そして勿論、妨害装置の範囲内であるから、ワープでは近付けない。
「ファイアアア!!」
 スーパーノヴァの雄叫びと共に、一斉にミサイルが発射される。その数、目算で30以上。その1発1発が、宇宙科学に基づいた最新の殺傷能力を持っている。
「……すぅ」
 らいちは深呼吸をした。そしてミサイルが着弾する直前、彼女は駆け出した。
「むっ!?」
 0.1秒も掛からず、1歩目から最高速度に到達したらいち。スーパーノヴァの視界から一瞬にして消える。
 直後に大爆発。らいちの居た場所は熱と衝撃で抉られた。
 スーパーノヴァは圧倒的に優位に居る。もし自分が出ることになっても、今の内に削れば負けることは無い。そもそもかりんには1度勝ったのだ。片腕のパニピュアなど今さら恐れることは無い。
「!」
 無敵の空中戦艦サンダーボルト。それが突如として揺れた。艦内にアラートが鳴り響く。まだらいちの行方は追えていない。慌ただしく甲板へ飛び出してきたラウム兵が、スーパーノヴァへ報告した。
「何事だ。パニピュアか」
「パニピュアですっ!」
『スーパーノヴァ!!』
 矢継ぎ早に、サブリナからの通信が入る。スーパーノヴァは状況把握に努めようと、サブリナの言葉へ耳を澄ます。
『降りなさい。貴方が居ると、サンダーボルトが墜とされる』
「……奴は何をしているんだ!?」
 叫びながらも、言われるまま甲板から飛び降りた。そして爆撃の煙が僅かに晴れ、パニピュアを再び視線の先に見付ける。
「…………!?」
 らいちは右手をこちらへ向けていた。掌を広げ、何かを掴むような体勢を取っていた。
 それを見た直後、スーパーノヴァは自身の肉体に激痛が走った。
「ぐおぅ……!」
 激痛は1度ではない。2度、3度。腹、腕、肩。次々に攻撃され、穴が空き、折れ、抉られた。
「なんだ……これはっ!?」
 大量に出血しながら、スーパーノヴァは墜落した。着地体勢など取れる筈は無かった。
「が…っはあっ!!」
 口から血を吐くスーパーノヴァ。この攻撃は、見えない。避けられない。
「ひっ!」
 なんとか起き上がったスーパーノヴァは、すぐに身を屈めた。すると頭上に攻撃が通過し、頭を掠めた。
「…………ビームかっ!」
 避けられない。つまり光速で飛んできている。パニピュアの掌から発射されているとすれば、ビームに他ならないだろう。
「おかしいぞっ!あれはふたり居なければできないのではなかったのか!?」
 スーパーノヴァが驚愕するのも無理はない。これまでは確実に、らいちひとりではビームは撃てなかったからだ。そして、ふたりで撃っている所しか『見せていなかった』からだ。
「くそっ!……出血が酷い。……このままでは……!」
 ジャンプすれば的になる。これはらいちだけではなく、スーパーノヴァにも言えることだった。狙い撃ちされた彼は、もう戦闘を続ける精神力が残っていない。
 だが、立ち上がった。
「死なん!俺はヒーローだ!何度でも立ち上がる!」
 不屈の精神で走り出す。スーパーノヴァの本領を発揮すれば、負傷していても関係無い。らいちの方角へ向け、壊れた重機のように突き進む。
「……ふぅ……ふぅ」
 当然、らいちにも疲労が見える。出力を弱め、範囲も小さくした劣化版ビームなら片手でも撃てる。想定していたのは空中での機動調整用だが、それももう弾切れだ。心理から貰ったエネルギーは、今ここで使い果たした。
「おおおおおお!!」
 穴の空いた腹を抑え、ずんずんと迫るスーパーノヴァ。飛行能力を持つ彼も、制御前に撃ち落とされれば意味がない。
「ふぅ……っ!」
 つまり。この戦いは、最新鋭の宇宙科学戦争でありながら『敵に接近しての格闘戦』となった。
「あなただけは、先へ行かせる訳には行かないっ!」
「俺は最強!勇猛!スーパーノヴァだァ!!」
 丁度、地上では日の出の瞬間だった。スーパーノヴァが拳を繰り出す。対するらいちも、残りの片腕である右拳を突き出した。
 スーパーノヴァの爆風を起こすパンチと、らいちの鋼鉄を抉るパンチが激突した。

ーー

「……私は見ているだけ。勝手に、貴方達が死ぬだけ」
 上空を飛び回るダクトリーナとカラリエーヴァ。フィリップはどうしようも無い。手の届かない相手への攻撃手段が無ければ、どうすることもできない。
「ちっ!」
 吹雪は更に勢いを増し、やがて氷解が降り始める。それは家々を壊していき、国民を傷付けていく。
 『支配の無いラウム国』は阿鼻叫喚だった。
「(どうすんだ!飛んでる相手に何もできねえ!せめて砲撃できりゃあ……。くそっ!こっちから王様に通信もできねえ。例外体質を恨んだのは初めてだ!)」
 フィリップの身体は燃えていた。ブラックライダーのスーツは耐火性能を備えている。超火力のキックに耐えうる仕様になっているのだ。
 だがそれでは、自分が凍えない程度の効果しか無い。確かにこのまま精神エネルギーを消費していたら、いつかは死んでしまう。
『おい、聞こえるか!』
「!」
 ブラックライダーの仮面の内部に、自分のものではない音声が響いた。
『状況を報せろ!カラリエーヴァはどうなった!?』
 それは精神を介した『宇宙共通語』ではなく、普通の音声による日本語の言葉だった。
「ちょ……ちょっと待て。日本語は勉強中なんだ。これは……通信機か?」
 フィリップにはその早口が、まるで焦っているように聞こえた。実際彼は今、この状況とは全く別の理由で焦っていたのだが。
『ああ。……俺は精神干渉されない例外のハーフアビスだからな。仲間達と連絡するためにライダースーツには通信機が付いてる』
 その声の主は良夜だった。 
「お前もか。1号」
『ああ。戦況はどうだ?2号』
「無理ゲーだ。バッタじゃ鳥には勝てねえ」
『もう少し待て。増援が来る』
「まじか……。 !?」
 言う間に、頭上に光が差した。空が一瞬晴れたのだのだと察したフィリップは、その原因を探る。
 穴が空いた積乱雲は、瞬く間に塞がっていく。風穴を開けたのは、一筋の光のように見えた。
 見上げると、カラリエーヴァを抱えるダクトリーナが自由飛行を止め、どこか遠くの方へ降下していった。
「……なんだ?」
「はぁ……ぁ……っ」
 雪雲を貫いた光の槍。それを撃ち出した…否。『撃ち出せる』者などふたりしか居ない。
「……増援てまさか」
 息を切らし、肩で呼吸をして。膝に手を付いて屈み、全身に包帯。更には裸足であった。
「けほっ……!まに、あった……っ?」
「……パニピュア。……えっと、カリン・ナンバラか」
 フィリップは彼女と初対面である。しかし健在な両腕を確認し、らいちではないと判断した。
 かりんは見るに、全速力で走ってきたのだ。自分と同じように、この数100キロを。靴が擦り切れ、無くなるほど全力で。
「……大丈夫か?」
「はぁ…はぁ……うん。ありがとう。大丈夫」
 かりんは何度か深呼吸をしてから、すっと立ち上がった。
「……女王?」
「なに、女王か?」
「!」
 ラウム国民は彼女を見て、すぐにらいちを予想する。彼らは破壊された家から這い出されたが、人間より丈夫という理由でなんとか戦いを見守ることができていた。
「ブラックライダーと女王が来たんだ。もう大丈夫だろう」
 希望の声でざわつく。しかし当の本人達は、険しい表情を崩さない。
「改めて。ピュアピースのかりんです。ブラックライダー2号さん」
 既に満身創痍のかりん。スーパーノヴァと初めに戦った分、疲労はらいちより大きい。コロナに貰ったエネルギーは、ここへ来るのにその殆どを消費していた。
「お、おう……。しかし戦えないだろ。その足、凍傷になってないか?」
「大丈夫。さっき撃った劣化ビーム、あと『3発』撃てる」
「……分かったよ」
 フィリップはかりんを見て、まず心配と同情をした。コロナより小さい少女だ。それに傷だらけ。
 だがその眼を見て、その考えは吹き飛んだ。
 戦士である。
 ならばするべきは少女への心配ではなく、敵を倒す手段の模索である。
「さっきのはわざと外したのか?」
「……ううん。狙ったけど外れちゃった」
「分かった」
「えっ?」
 それだけ確認すると、フィリップはかりんを抱き上げて走り出した。
「ちょ……どうするの?作戦とかーー」
「大丈夫だ」
 走る方向は、カラリエーヴァ達の降りていった方向。そこまで遠くない。あれはきっと、こちらのビームに驚いて降りたのだろう。
「『対空遠距離攻撃』が無いことで、俺はほぼ負けが確定していた。だが君が来たことで、敵のアドバンテージが無くなった。そりゃ、余裕こいて空を散歩とはいかない」
「……でも、初めてやったからうまく当てられないし、あと3発しか」
「『掌の面の向いている垂直方向』で間違いなく、誤差は無いか?」
「! ……うん。そうだけど」
 フィリップは『照準』を確認した。
「弾速は完全な光速か?」
「……ううん。光の照射自体は光速で移動するけど、熱と衝撃は亜光速」
「つまりは『デカい光線銃』だな」
「……そう、だね」
 続いて仕様を確認する。
「発射の合図は?」
「……じゃあ、強めに握ってくれたらいいよ」
「オーライ」
 かりんも薄々、彼が何をするのか察した。
 その他諸々を確認したところで、フィリップは足を止めた。
「!」
 向こうの瓦礫から、ダクトリーナが飛び上がったからだ。
「……また吹雪と雹が強くなった。……いや、今まで少し弱まってたのか」
「じゃあ……彼女らは『飛ぶ必要がある』ってこと?」
 ふたりで鉛色の空を見上げる。今度は完全にランダムな軌道で空を舞っている。
「らしいな。思えばそうだ。ただこの国を潰して、俺から逃げるなら吹雪を維持しつつ隠れていれば良い。……なんであれ、チャンスだな」
 フィリップはかりんを降ろし、深く屈み、座り込んだ。
「肩に腕乗っけてくれ」
「うん」
 かりんは右手を、フィリップの左肩に乗せた。肘を伸ばし、真っ直ぐ『砲身』となった。
「1発目は多分外す」
「えっ」
 フィリップは細く柔らかい少女の腕を、できるだけ傷つけないよう優しく掴む。
「だが後の2発は絶対に当てる。……変身解除」
 彼は英国紳士にして、ブラックライダー2号。距離感を掴むのには、複眼は向いていない。変身を解いた今、ただのハーフアビス。
 そして深淵の王から承った銘は″七星(グランシャリオ)″。
「こういう手合いは、遠距離からぶち殺すに限る」
 思えば、パニピュアは近距離でしかビームを使ってこなかった。
 彼は遠距離攻撃に特化した能力者である。
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