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帝都④
第23話 帝都帰還
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「大丈夫か? なんならもう何日か後に迎えを寄越しても良いぜ」
「いえ。大丈夫です」
「ほんとか?」
翌日。
皇帝へ報告する為に戻るシャルナの馬車に。アイネも当然のように乗った。
「イサキの寝顔見てると決心が鈍りそうで」
「へえ。実はお兄ちゃん大好きか」
「ち。……違いませんが、もう私も17です」
「へえ」
「…………」
にやにやとするシャルナを弱く睨んで。ふうと息を吐く。
「……情報が多いな」
「はい。『ワープ装置』に『命の霊薬』。それと」
「『アサギリ』とかいう謎の男と巨馬。あいつは何なんだ? いつ、どこから現れた」
「分かりません。少なくともガルデニア国民ではなく、シュクスの協力者。顔見知りであることも踏まえると、『ワープ』を知る者かも」
「ふう。考えること多いな。あーあ。アイネっちの魔剣作りに来たのになあ」
「要りませんから。あ。今イサキが動けないからって拐わないでくださいね。本気で怒りますよ」
「あーったよ」
この一件から。シャルナが妙に優しくなったとアイネは感じた。自分の境遇を知ったからだろうか。それとも、『魔剣に選ばれない』嘆きを聞いたからだろうか。アイネには分からない。
「『ワープ装置』はすぐに見付かったな」
「はい。あれと同じものが、他にもある筈です。帝国中に報せて、全土を捜索しなければ」
「んー。あたしやエンリオの領地なら聞いてくれそうだけど。まだアイネっちを認めてない将軍も居るしなあ」
「……そうですね。取り敢えず『助言師』権限でティスカには指令状と早馬を送りましたけど」
「行動速えーな。流石」
「当然です。早急に対応しないと、一瞬で帝国は終わります。その危険性と緊急性が高いのが『ワープ』ですから」
「賢者の知識か?」
「そうですね。『物を一瞬で運ぶ』能力は、戦争に於いて無敵ですから」
この一件を経て。やるべきことは山程ある。山程、アイネの仕事が増えたのだ。
「『命の霊薬』と『ワープ装置』については、あたしが任せてもらって良いのか?」
「お願いします。私には帝都に、シャルナさん程の科学力を持った権力者を知りません。信用できる人も居ません」
「ははっ! あたしを信用なあ」
「お互い、周りが男ばかりですが。頑張りましょう」
「おっ」
この世界。この時代。
戦いに於いて女性はどうしても不利になる。だからこそ。
第一線で『将軍』をやっている女性であるシャルナは、それだけで尊敬に値する。
アイネはこの数日で彼女と、そこまで打ち解けたのだ。
「んー。かーわいーなアイネっち。今夜抱いてやろうか」
「結構です」
それは、シャルナにとっても。女性でここまで頑張る『後輩』を、始めから気にしていたのだ。
その容姿と頭脳ならば、どこかの貴族でも惑わせて楽に生きることなど造作も無いだろうに。わざわざ軍などにやってきて。
男と同じ舞台に立って。一緒になって国を守るつもりなのだ。
「ま、とにもかくにも報告だ。まずは勝手に帝都から出て怒られるけどな」
「えっ……」
——
「馬鹿者!」
「っ!」
怒られた。
皇帝と、軍師長セモ。そしてこの場には、宰相バフンダインも居た。他の将軍は居ない。皆、自分の領地に戻ったらしい。
「何をしているのだ、シャルナリーゼ将軍、貴様は」
「えっ。あたし?」
「当然だ! 助言師アイネを勝手に連れ出し、軍を動かしただと?」
怒っているのは、バフンダインである。烏帽子に似た帽子を頭に乗せた小太りの男。
「結果的に、アイネに怪我は無かったから良かったものを」
「いやあ、戦闘になるなんて予想外だったんだって。なあアイネっち?」
「……ええまあ」
「言い訳は要らぬ!」
「ぅえ」
バフンダインは、アイネを欲しがっている。それは賢者としての能力ではなく、単に女性として欲しがっているのだ。そんな私情が垣間見える怒り方を受けて、シャルナも気持ち悪そうにしている。
「アイネよ」
「!」
皇帝が口を開いた。全員が押し黙る。
「間一髪だったようだな」
「はい。……みたび現れた、『魔剣の少年』シュクスとその一行。彼らは『ワープ装置』なる移動手段をもって、気付かれずにリボネへ潜入しておりました。あのままでは、近い内に帝都に入られていたでしょう」
「ワープ……。信じられんな」
「ですが、そこから確かに消えたと報告が上がっています。現に、逃げたシュクスを捉えられていません」
「危険ではないか」
「ですから、国中を捜索して全てのワープ装置を抑えることが必要です。そしてあわよくば、解明して使えるようになれば。我が国の流通は一気に加速します」
「ふむ……」
アイネは、どうして皇帝が始めからこんなにも話を聞いてくれたのか。ようやく分かった。
皇家であるグイード家も、『賢者』の一族なのだ。
「だが、そもそも何故国内にそのようなものがあるのだ。敵が潜入して設置した訳でもあるまい」
「……大昔から、あったのだと思います」
軍師長セモが疑問を口にする。それにアイネは丁寧に答えた。
「人知れぬ場所に、ひっそりと。今回見付けたリボネ周辺の装置も、森の中で蔦に隠れるようにありました。相当古いものだと思われます」
「そんなものを、敵は使えるのか」
「はい。『命の霊薬』と言い、『アサギリ』という特徴的な名前と言い……。恐らくは——」
アイネは、予想していた。自分も賢者であり、皇帝もそうだ。ならば。自分達の『敵』となりうる者は。シュクスの協力者となりうる者は。
「極東の島国の一族『ホシノ』。……神秘の国と言われるホシノにも、『賢者』が居ると聞きました」
同じ『賢者』しか居ないと。
「ホシノ……!」
セモもバフンダインも、一瞬固まった。極東の国については殆ど情報が無い。どれだけの国なのか。軍事力は。文化水準は。
分からない。限られた国としか交流しない『鎖国』という閉鎖的な外交方針をしているのだ。
帝国が知る限りでは。軍事力で対抗できる国は無い。つまり。
帝国の知る術の無い国については常に警戒しなければならないのだ。
「確か……国名は『アクシア』と言ったな。ホシノとは、その王の一族か」
「恐らくは。しかし余りにも情報が足りませぬ」
「…………」
たった3人の賊だという認識は、改めなければならない。
シュクスのバックには、『未知の国』が付いている可能性がある。
「……ふむ。あい分かった。下がって良いぞ。残りがあるなら書面で報告せよ」
「はっ!」
皇帝は少し考える様子をとって。終わらせた。
「……どこまでも戦う運命か。レオン」
皇帝の小さな呟きは、誰にも聞こえなかった。
——
「取り敢えず、『ワープ装置』の捜索だな。私の名で全国に流そう」
部屋を出た所で、セモが言った。アイネの発言では、他の将軍が聞かないと分かっているのだ。
「ありがとうございます」
「それと、シュクスらの人相書もだな。指名手配だ。これも全国に」
「はい」
今回は、大勢がシュクスを見ている。ようやく、より正確な人相書を作れるのだ。
「シュクスはリンデンの姫の親族だろう。そこを握って行動を抑えられないのか?」
「逆効果ですね。やるならば、タイミングを見定めませんと」
当然ながら、セモも有能である。帝国の軍総司令なのだから。
「今度は軍も動かそう。たった3人だ。叩き潰せば良い」
「いえ。それも逆効果です」
「そうなのか? 何故だ」
「相手は常に、こちらの予想外な方法でやってきます。よほど訓練された、柔軟に動ける隊ならばまだしも。『軍』では、対抗手段として難しいのです」
だが、この件に関してはアイネの方が深く理解している。
『雑魚敵』など、いくら与えても経験値に変えられてしまうだけなのだ。下手にピンチを演出すれば、土壇場で新たな能力に覚醒する危険性もある。
「まあ……今回は災難だったな。後は休め。また、シュクスが現れるまで待機だ」
「はい。……ワープ装置捜索の進捗は逐一頂きたいです」
「分かった。定期連絡をお前の屋敷に入れるようにしよう」
現れる度に、成長している。次は、どれだけ強力になっているか。
「(諦めてくれるのが一番だけど)」
なんにせよ、疲れた。
「じゃあアイネっち。またなー」
「ありがとうございました。何か分かったら教えてください」
「おー」
シャルナが、そのシュクスと戦ってなおピンピンしている所を見るに、やはり流石『将軍』だなと、アイネは思った。
「アイネ君、お疲れだろう。わしの所で休まないかね」
「失礼いたします」
「いえ。大丈夫です」
「ほんとか?」
翌日。
皇帝へ報告する為に戻るシャルナの馬車に。アイネも当然のように乗った。
「イサキの寝顔見てると決心が鈍りそうで」
「へえ。実はお兄ちゃん大好きか」
「ち。……違いませんが、もう私も17です」
「へえ」
「…………」
にやにやとするシャルナを弱く睨んで。ふうと息を吐く。
「……情報が多いな」
「はい。『ワープ装置』に『命の霊薬』。それと」
「『アサギリ』とかいう謎の男と巨馬。あいつは何なんだ? いつ、どこから現れた」
「分かりません。少なくともガルデニア国民ではなく、シュクスの協力者。顔見知りであることも踏まえると、『ワープ』を知る者かも」
「ふう。考えること多いな。あーあ。アイネっちの魔剣作りに来たのになあ」
「要りませんから。あ。今イサキが動けないからって拐わないでくださいね。本気で怒りますよ」
「あーったよ」
この一件から。シャルナが妙に優しくなったとアイネは感じた。自分の境遇を知ったからだろうか。それとも、『魔剣に選ばれない』嘆きを聞いたからだろうか。アイネには分からない。
「『ワープ装置』はすぐに見付かったな」
「はい。あれと同じものが、他にもある筈です。帝国中に報せて、全土を捜索しなければ」
「んー。あたしやエンリオの領地なら聞いてくれそうだけど。まだアイネっちを認めてない将軍も居るしなあ」
「……そうですね。取り敢えず『助言師』権限でティスカには指令状と早馬を送りましたけど」
「行動速えーな。流石」
「当然です。早急に対応しないと、一瞬で帝国は終わります。その危険性と緊急性が高いのが『ワープ』ですから」
「賢者の知識か?」
「そうですね。『物を一瞬で運ぶ』能力は、戦争に於いて無敵ですから」
この一件を経て。やるべきことは山程ある。山程、アイネの仕事が増えたのだ。
「『命の霊薬』と『ワープ装置』については、あたしが任せてもらって良いのか?」
「お願いします。私には帝都に、シャルナさん程の科学力を持った権力者を知りません。信用できる人も居ません」
「ははっ! あたしを信用なあ」
「お互い、周りが男ばかりですが。頑張りましょう」
「おっ」
この世界。この時代。
戦いに於いて女性はどうしても不利になる。だからこそ。
第一線で『将軍』をやっている女性であるシャルナは、それだけで尊敬に値する。
アイネはこの数日で彼女と、そこまで打ち解けたのだ。
「んー。かーわいーなアイネっち。今夜抱いてやろうか」
「結構です」
それは、シャルナにとっても。女性でここまで頑張る『後輩』を、始めから気にしていたのだ。
その容姿と頭脳ならば、どこかの貴族でも惑わせて楽に生きることなど造作も無いだろうに。わざわざ軍などにやってきて。
男と同じ舞台に立って。一緒になって国を守るつもりなのだ。
「ま、とにもかくにも報告だ。まずは勝手に帝都から出て怒られるけどな」
「えっ……」
——
「馬鹿者!」
「っ!」
怒られた。
皇帝と、軍師長セモ。そしてこの場には、宰相バフンダインも居た。他の将軍は居ない。皆、自分の領地に戻ったらしい。
「何をしているのだ、シャルナリーゼ将軍、貴様は」
「えっ。あたし?」
「当然だ! 助言師アイネを勝手に連れ出し、軍を動かしただと?」
怒っているのは、バフンダインである。烏帽子に似た帽子を頭に乗せた小太りの男。
「結果的に、アイネに怪我は無かったから良かったものを」
「いやあ、戦闘になるなんて予想外だったんだって。なあアイネっち?」
「……ええまあ」
「言い訳は要らぬ!」
「ぅえ」
バフンダインは、アイネを欲しがっている。それは賢者としての能力ではなく、単に女性として欲しがっているのだ。そんな私情が垣間見える怒り方を受けて、シャルナも気持ち悪そうにしている。
「アイネよ」
「!」
皇帝が口を開いた。全員が押し黙る。
「間一髪だったようだな」
「はい。……みたび現れた、『魔剣の少年』シュクスとその一行。彼らは『ワープ装置』なる移動手段をもって、気付かれずにリボネへ潜入しておりました。あのままでは、近い内に帝都に入られていたでしょう」
「ワープ……。信じられんな」
「ですが、そこから確かに消えたと報告が上がっています。現に、逃げたシュクスを捉えられていません」
「危険ではないか」
「ですから、国中を捜索して全てのワープ装置を抑えることが必要です。そしてあわよくば、解明して使えるようになれば。我が国の流通は一気に加速します」
「ふむ……」
アイネは、どうして皇帝が始めからこんなにも話を聞いてくれたのか。ようやく分かった。
皇家であるグイード家も、『賢者』の一族なのだ。
「だが、そもそも何故国内にそのようなものがあるのだ。敵が潜入して設置した訳でもあるまい」
「……大昔から、あったのだと思います」
軍師長セモが疑問を口にする。それにアイネは丁寧に答えた。
「人知れぬ場所に、ひっそりと。今回見付けたリボネ周辺の装置も、森の中で蔦に隠れるようにありました。相当古いものだと思われます」
「そんなものを、敵は使えるのか」
「はい。『命の霊薬』と言い、『アサギリ』という特徴的な名前と言い……。恐らくは——」
アイネは、予想していた。自分も賢者であり、皇帝もそうだ。ならば。自分達の『敵』となりうる者は。シュクスの協力者となりうる者は。
「極東の島国の一族『ホシノ』。……神秘の国と言われるホシノにも、『賢者』が居ると聞きました」
同じ『賢者』しか居ないと。
「ホシノ……!」
セモもバフンダインも、一瞬固まった。極東の国については殆ど情報が無い。どれだけの国なのか。軍事力は。文化水準は。
分からない。限られた国としか交流しない『鎖国』という閉鎖的な外交方針をしているのだ。
帝国が知る限りでは。軍事力で対抗できる国は無い。つまり。
帝国の知る術の無い国については常に警戒しなければならないのだ。
「確か……国名は『アクシア』と言ったな。ホシノとは、その王の一族か」
「恐らくは。しかし余りにも情報が足りませぬ」
「…………」
たった3人の賊だという認識は、改めなければならない。
シュクスのバックには、『未知の国』が付いている可能性がある。
「……ふむ。あい分かった。下がって良いぞ。残りがあるなら書面で報告せよ」
「はっ!」
皇帝は少し考える様子をとって。終わらせた。
「……どこまでも戦う運命か。レオン」
皇帝の小さな呟きは、誰にも聞こえなかった。
——
「取り敢えず、『ワープ装置』の捜索だな。私の名で全国に流そう」
部屋を出た所で、セモが言った。アイネの発言では、他の将軍が聞かないと分かっているのだ。
「ありがとうございます」
「それと、シュクスらの人相書もだな。指名手配だ。これも全国に」
「はい」
今回は、大勢がシュクスを見ている。ようやく、より正確な人相書を作れるのだ。
「シュクスはリンデンの姫の親族だろう。そこを握って行動を抑えられないのか?」
「逆効果ですね。やるならば、タイミングを見定めませんと」
当然ながら、セモも有能である。帝国の軍総司令なのだから。
「今度は軍も動かそう。たった3人だ。叩き潰せば良い」
「いえ。それも逆効果です」
「そうなのか? 何故だ」
「相手は常に、こちらの予想外な方法でやってきます。よほど訓練された、柔軟に動ける隊ならばまだしも。『軍』では、対抗手段として難しいのです」
だが、この件に関してはアイネの方が深く理解している。
『雑魚敵』など、いくら与えても経験値に変えられてしまうだけなのだ。下手にピンチを演出すれば、土壇場で新たな能力に覚醒する危険性もある。
「まあ……今回は災難だったな。後は休め。また、シュクスが現れるまで待機だ」
「はい。……ワープ装置捜索の進捗は逐一頂きたいです」
「分かった。定期連絡をお前の屋敷に入れるようにしよう」
現れる度に、成長している。次は、どれだけ強力になっているか。
「(諦めてくれるのが一番だけど)」
なんにせよ、疲れた。
「じゃあアイネっち。またなー」
「ありがとうございました。何か分かったら教えてください」
「おー」
シャルナが、そのシュクスと戦ってなおピンピンしている所を見るに、やはり流石『将軍』だなと、アイネは思った。
「アイネ君、お疲れだろう。わしの所で休まないかね」
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お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
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作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
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