地方領主の娘は、転移してきた男に興味がある。

弓チョコ

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おまけ【その後の西方魔領】

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 ハルトが、消えて。1年が経った。同時に、シャルロッテが引退してから。彼女はまだたまに表情が優れない日があるけれど。
「あー。……だー」
「あらあら」
 彼には沢山、教えてもらった。『人が成長する』という事を、間近で。悩みを振り切った彼の奮闘は凄まじかった。あっという間に、シャルロッテに並ぶ剣士になった。
 さらには、異世界の知識。彼の知識は西方魔領の技術向上に一役買い、生活は随分と楽で安全になった。例えば『上下水道』の概念は本当に吃驚した。
 未だに、技術や材料が追い付かず実現できていないものもあるけれど、彼は手記に書き残してくれた。それは私が大切に保管している。いずれこの領地も国も、『産業革命』が起こる。その時まで。
「ファルカお嬢様」
「シャルロッテったら。もうお嬢様じゃ無いわよ」
 今日は自室に彼女を招いている。この場には4人。私とシャルロッテと、お互いの子供だ。
「はっきりと、黒髪ね」
 私は彼女の子を抱き上げる。平べったい顔。黄色に近い肌。本当に可愛い。
「ええ。日に日に似てきました」
 結局、彼らは結婚はしなかった。生涯騎士で居ると誓い合ったそうだ。だから彼が居なくなったと同時に、シャルロッテは騎士を辞めた。私が無理矢理辞めさせたのだ。子を身籠っても剣を持ち出す彼女を。
 生物が子孫を残したいと思うのは、『相手を愛している』からだ。彼がこの地で生きた証を。彼が去っても。
「名前は?」
 ふと。
 彼の存在は、夢だったのではないかと思う時がある。ふらりと現れて、またふらりと消えたからだ。領民も、1年も経てば彼の話はしなくなった。
 不思議と、彼が死んだとは思えなかった。『帰った』のだと、直観で分かった。
「勿論『ハルト』と」
 だけど。
 彼は確実に、このキルシュトルテ西方魔領に存在した。
 とても、興味深い。このようなケースが今後もあるかと思い、その為のマニュアルも作成した。いつまた異世界から誰かが転移してきても『大丈夫』なように。
「……またな。ハルト」
「えっ?」
 不意にシャルロッテが呟いた。彼女は窓から空を眺めていた。
「いえ。……また会えると、そう思うのです」
「……そう」
 彼の影響を一番近くで受けたのがシャルロッテだ。彼女の世界観や人生観も、大きく変わった筈だ。
「多分。……100年後くらいに」
「あははっ。何よそれ」
 この『ハルト』は、私にどんなものを見せてくれるのだろうか。
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