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第3章 身代わり
第112話 力の根源
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場所は移り、エルフ族が使用する訓練場。エルフ族の主な攻撃方法は魔法なため、訓練場はだだっぴろく作られている。更には周りに被害が及ばぬよう、訓練をする時は結界魔法で周りを包む。
「さて、どちらから僕と戦う?」
「私はパス。私はサハンと違って戦闘狂じゃないの、見てるだけで十分だわ。」
「そうか、ならば俺との勝負だな。全力でいかせてもらおう。」
「勝負形式はどうする?純粋なタイマンだとそちらの分が悪いだろう?あんたの武器は見るからに背負っている大弓だろうし。」
「いや、純粋なタイマンで構わぬ。確かに対人だと弓は扱いづらいが、王と姫の護衛としてあらゆる戦闘方法を身につけている。遠慮せず戦おう。」
「そうか、ならばこちらも遠慮なくいかせてもらうよ。」
(目の前に立つウカノという男。見るからに線が細く、力などとてもないように見える。ただ見た目が全てでないというのはエルフ族である自分が何より理解している。
魔法、それは圧倒的な体格差を覆す強力な力。魔物と動物の核を明確に分断している要素……そして、俺にはうまく扱うことのできぬ力。)
☆
「おいサハン!お前火の玉を出してみろよ!」
「なんだよ。」
「なんだお前、出すことすらできねえのか!」
「俺にだって発動する事くらいできるさ、ほら。」
ボウッ
そういって出されたのは子供の手のひらよりも2回りも小さな赤い玉。
「ぶははっ!なんだそのちっせえ玉は。そんなんじゃ動物を倒すどころか火を焚くことすら出来やしねえよ!」
「お前みたいな出来損ないはエルフ族にいらねえんだよ!」
ドスッ!
「ううっ…」
後ろから別の子供に蹴られ体勢を崩され、顔から地面に倒れ込む。
反撃することの出来ない自分に苛立つが、エルフ族にとって扱うことのできる魔法の強力さがそのまま己の力となる。そして魔法をうまく扱うことの出来ぬサハンはエルフ族の中でも最底辺の落ちこぼれとなった。
すでに周りの子供たちは魔法を発現させ、どれほどうまく、どれだけの種類を発動させるかを競い合っている。そんな中魔法をうまく扱えぬサハンは今日もいじめられ、屈辱を噛み締めながら最愛の母が待つ家へと帰る。
「ただいま…」
「おかえりサハン…ってその傷……。急いで手当をしないと。そのままじっとしていてね。」
サハンの体を暖かな光が包み込む。しかしその光は回復魔法というにはあまりにも力無い光。本来ならすぐに治る傷を、長い時間をかけて癒し尽くす。
「これでよし…ごめんねサハン。あなたをこんな体質で産んでしまって。あなたがいじめられているのに何も出来なくて……」
「…っ!母さんは何も悪くないよ!俺が、俺がもっと力があれば良かったんだ!だからそんな悲しい顔をしないでくれよ母さん!」
サハンにとっては周りの人間に馬鹿にされようが殴られようが、母と過ごす毎日が幸せだった。ただ、母が悲しむ顔は誰かに殴られるよりも、蔑まれるよりも心を痛めつけた。
魔力枯渇症。それがサハンの母を煩わせている病。治療法は見つかっていないが、その病自体はそこまで危険性のある病気ではない。ただ扱える魔力量が減るという病。ヒト族であれば魔法が扱えなくなる事が多いが、エルフ族であれば日常生活に必要な魔法は扱うことのできる。
しかしサハンの母はサハンを妊娠中に患ってしまった。その結果、産まれてきたサハンは魔法を碌に扱うことの出来ぬ体質となってしまった。
父はサハンが産まれる前に魔物との戦闘で命を落とした。誰もサハンたちを守ってくれる者はいない。頼れるのは自分と最愛の母だけ。
最愛の母を守れるのは、最愛の母を笑顔にできるのは自分だけ。
それからサハンは誰よりも力へと渇望を抱くようになった。自分に魔法が扱えぬのなら他の力を。そうして鍛え始めたのが弓術であった。
エルフ族が娯楽程度に嗜む弓。それをサハンは本気で取り組んだ。周りの者たちは風魔法を用いて弓矢をコントロールし、的へと見事な命中率を、更には威力を誇る。
自分に魔法は扱えぬ。ならば努力で補う。魔法ではなく実力で的へと当てる、威力が低いのであればより威力の出る弓を作る。弦を引くことが出来ないのであれば引けるようになるまで力をつける。
周りからは幾度も馬鹿にされた。それでも自分の目指すべき姿へと進むためにはそんな雑音は耳へと入ってこなくなった。
そして実力をつけ実績を上げるにつれ、イチャモンをつけてきた周りの奴らは絡まなくなってきた。そいつらに対して見返したいとかそんな気持ちは全くない。
ただ大きな弓を引けるようになった時の母の、
「凄いわ!そんな大きな弓を引けるなんて逞しくなったのね!」
という言葉や、動物を狩ってきた時の、
「うわあ!これを1人で狩ってきたの!?今日は腕に磨きをかけて、サハンのために頑張っちゃうわ!」
といった母の笑顔が何より嬉しかった。母の笑顔が見たくて、エルフ族の誰もがやらぬ方法でひたすらに鍛え続けてきた自分は間違っていなかったのだと。
その結果国1番の戦士として誉ある王と姫の護衛に抜擢されたが、そんなことよりも母の笑顔を守れて良かった。
「さて、どちらから僕と戦う?」
「私はパス。私はサハンと違って戦闘狂じゃないの、見てるだけで十分だわ。」
「そうか、ならば俺との勝負だな。全力でいかせてもらおう。」
「勝負形式はどうする?純粋なタイマンだとそちらの分が悪いだろう?あんたの武器は見るからに背負っている大弓だろうし。」
「いや、純粋なタイマンで構わぬ。確かに対人だと弓は扱いづらいが、王と姫の護衛としてあらゆる戦闘方法を身につけている。遠慮せず戦おう。」
「そうか、ならばこちらも遠慮なくいかせてもらうよ。」
(目の前に立つウカノという男。見るからに線が細く、力などとてもないように見える。ただ見た目が全てでないというのはエルフ族である自分が何より理解している。
魔法、それは圧倒的な体格差を覆す強力な力。魔物と動物の核を明確に分断している要素……そして、俺にはうまく扱うことのできぬ力。)
☆
「おいサハン!お前火の玉を出してみろよ!」
「なんだよ。」
「なんだお前、出すことすらできねえのか!」
「俺にだって発動する事くらいできるさ、ほら。」
ボウッ
そういって出されたのは子供の手のひらよりも2回りも小さな赤い玉。
「ぶははっ!なんだそのちっせえ玉は。そんなんじゃ動物を倒すどころか火を焚くことすら出来やしねえよ!」
「お前みたいな出来損ないはエルフ族にいらねえんだよ!」
ドスッ!
「ううっ…」
後ろから別の子供に蹴られ体勢を崩され、顔から地面に倒れ込む。
反撃することの出来ない自分に苛立つが、エルフ族にとって扱うことのできる魔法の強力さがそのまま己の力となる。そして魔法をうまく扱うことの出来ぬサハンはエルフ族の中でも最底辺の落ちこぼれとなった。
すでに周りの子供たちは魔法を発現させ、どれほどうまく、どれだけの種類を発動させるかを競い合っている。そんな中魔法をうまく扱えぬサハンは今日もいじめられ、屈辱を噛み締めながら最愛の母が待つ家へと帰る。
「ただいま…」
「おかえりサハン…ってその傷……。急いで手当をしないと。そのままじっとしていてね。」
サハンの体を暖かな光が包み込む。しかしその光は回復魔法というにはあまりにも力無い光。本来ならすぐに治る傷を、長い時間をかけて癒し尽くす。
「これでよし…ごめんねサハン。あなたをこんな体質で産んでしまって。あなたがいじめられているのに何も出来なくて……」
「…っ!母さんは何も悪くないよ!俺が、俺がもっと力があれば良かったんだ!だからそんな悲しい顔をしないでくれよ母さん!」
サハンにとっては周りの人間に馬鹿にされようが殴られようが、母と過ごす毎日が幸せだった。ただ、母が悲しむ顔は誰かに殴られるよりも、蔑まれるよりも心を痛めつけた。
魔力枯渇症。それがサハンの母を煩わせている病。治療法は見つかっていないが、その病自体はそこまで危険性のある病気ではない。ただ扱える魔力量が減るという病。ヒト族であれば魔法が扱えなくなる事が多いが、エルフ族であれば日常生活に必要な魔法は扱うことのできる。
しかしサハンの母はサハンを妊娠中に患ってしまった。その結果、産まれてきたサハンは魔法を碌に扱うことの出来ぬ体質となってしまった。
父はサハンが産まれる前に魔物との戦闘で命を落とした。誰もサハンたちを守ってくれる者はいない。頼れるのは自分と最愛の母だけ。
最愛の母を守れるのは、最愛の母を笑顔にできるのは自分だけ。
それからサハンは誰よりも力へと渇望を抱くようになった。自分に魔法が扱えぬのなら他の力を。そうして鍛え始めたのが弓術であった。
エルフ族が娯楽程度に嗜む弓。それをサハンは本気で取り組んだ。周りの者たちは風魔法を用いて弓矢をコントロールし、的へと見事な命中率を、更には威力を誇る。
自分に魔法は扱えぬ。ならば努力で補う。魔法ではなく実力で的へと当てる、威力が低いのであればより威力の出る弓を作る。弦を引くことが出来ないのであれば引けるようになるまで力をつける。
周りからは幾度も馬鹿にされた。それでも自分の目指すべき姿へと進むためにはそんな雑音は耳へと入ってこなくなった。
そして実力をつけ実績を上げるにつれ、イチャモンをつけてきた周りの奴らは絡まなくなってきた。そいつらに対して見返したいとかそんな気持ちは全くない。
ただ大きな弓を引けるようになった時の母の、
「凄いわ!そんな大きな弓を引けるなんて逞しくなったのね!」
という言葉や、動物を狩ってきた時の、
「うわあ!これを1人で狩ってきたの!?今日は腕に磨きをかけて、サハンのために頑張っちゃうわ!」
といった母の笑顔が何より嬉しかった。母の笑顔が見たくて、エルフ族の誰もがやらぬ方法でひたすらに鍛え続けてきた自分は間違っていなかったのだと。
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