杜の国の王〜この子を守るためならなんだって〜

メロのん

文字の大きさ
上 下
77 / 132
第3章 身代わり

第72話 一心同体

しおりを挟む
 獲物の正体に驚くゾンとルアだが、戦場でいつまでも呆けたままではいられない。正気を取り戻し一瞬2人で視線を交わしゾンが右から回り込むように駆けていく。

 おそらく昨日のうちに2人で戦い方を練ってきていたのだろう、2人の中で言葉を交わさずとも意思疎通を図れている。ゾンは炎の魔法が1番得意としており、ルアは非戦闘系の錬金術などの魔法が1番得意だがそれを除けば風魔法が得意としている。ゾンの炎魔法は森の中では扱いづらく、周囲に被害が出る規模の魔法は命の危険が迫るまで禁止している。

 そんななかで2人がどんな戦い方をするのか楽しみだ。

 ゾンがルアと挟み込むように回り込んだ後、相手の注意が別の所へ向いた瞬間に駆け出す。それと同時に周囲に炎の玉を3つ展開する。炎の玉はテンより2回りほど大きい。とはいえテンの場合は緻密な魔力操作により恐るべき濃度で圧縮してあるので、それに比べると魔力の濃度も威力もテンには遠く及ばないだろう。ただ動きながら魔法を展開しそれを維持するのは大した技術だ。

「グルァァ!」

 ある程度まで近づいた所で狼の魔物に気づかれる。まだ距離としては遠い。あの距離では魔法を当てるのは難しいだろう。

 だが2人にとっては最初の奇襲が成功すれば御の字くらいの感覚だったのだろう。ゾンが駆け出すと同時に魔法を練り出していたルアが不可視の刃を獲物の後ろ脚目掛け放つ。

「グルァッ!?」

 ゾンに注意が向いていたため後ろ脚に命中するが、せいぜい擦り傷を与えた程度だ。それでも相手としては見えない何かに攻撃されたことに恐怖を抱く。どこから攻撃されたと周囲を見渡すが、すでにそこにはルアはいない。2人にとって一撃が致命傷になるとは元より思ってないようで手数で勝負する作戦のようだ。

 そしていつまでも見えない何かを探しているようだがゾンの存在が頭から抜けてんじゃないのか?

 存在が薄れたゾンが今度は炎の玉を命中させる。それに対し今度はゾンへと注意を向けるが、そうするとまた見えない位置からルアが不可視の刃を放つ。

 なるほど。確かにいい作戦だ。相手に致命傷を与えるほどの攻撃が難しいなら手数で勝負する。そしてその手数を増やすためにお互いが交互に注意を引く。

 自分たちの手札を存分に活かし、普段からの僕とテンの狩りを参考にした獲物の注意の引き方。作戦面でもしっかり考えられている。初めての狩りでここまで惚れ惚れする連携を取ることができるのは、2人の関係が密接である事を何よりも示しているな。

 だがしかし、それで獲物が仕留められるわけではない事は2人が何よりも知っているだろう。

 致命傷というほどのダメージを負っていないがいつまでも攻撃が当たらない事。見えない何かに攻撃されてることに痺れを切らした相手はその場に佇みゾンを一心に睨み魔力を集める。

 そう、あの時と同じように。

 離れているのに2人が一瞬身を強張らせたのが分かった。2人に魔物という存在の、狩りという行為の恐ろしさを教えたトラウマ。2人で乗り越えてみせるんだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...