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作戦会議前の顔合わせといきましょう

悪魔の策略

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その日は朝のホームルームから選挙についての話があった。
棚ティーがいつも通り無駄に高いテンションで声を張り上げる。
「いやー、今年は積極的な生徒が多いな!嬉しいぞ!」
唐突にそう切り出して、豪快に笑う。彼だけが、笑う。
棚ティーの笑い声も途切れ、静まり返る教室。コホンと仕切り直すように咳払いして、声の音量を通常(それでもうるさいけどね)に、戻す。
「皆んな知っての通り、今年は一年から多くの立候補者が出た。それだけ学校をより良くしたいと願う生徒が多いということだ!意欲があって非常に良いと、先生方は非常に喜ばれている」
その言葉には、「俺は喜んでいないぞ」という気持ちが見え隠れしている。真面目なことが嫌いな棚ティーは、生徒会選挙に興味などないのだ。むしろ立候補者が出たことで仕事が増えるので嫌だという、非常に教師としてどうかと思う発言までして生徒に学年主任にチクられていた。こいつの教師の志望動機が非常に気になる。やっぱ給食とかかな。夏休みも生徒と休めるとでも思っていたのかもしれない。
「このクラスからも立候補者が出た。一年でリーダーとなる立場を勝ち取ることは、簡単なことでは無いし、多くの努力も必要となる。立候補したからには、責任を持って最後まで頑張り抜いてほしい。当選した後も同様に、当たり前に強い意志を持ち続ける覚悟で挑むように」
型通りの説明を聞きながら、思わず密かにに息を吐く。そんな面倒臭い事、当たり前だが真っ平御免だ。私が願うのはより良い学校ではなく、平和な日常である。立候補する羽目にならずに本当に良かった。
自分に関係ないと確信したせいか、眠気が襲ってくる。欠伸を噛み殺しながら、私はまだ何か喋っている棚ティーの声に耳を傾けた。
「ーと、いう事だ!では、うちのクラスから出た3人もの候補者を紹介しようと思う。呼ばれたものは起立するように。1人目、霜咲まどか」
はい、と相変わらず通る声で返事をして起立するまどか。後ろでガタリと椅子を引く音がして視線が集まる。
「霜咲は、生徒会長立候補だ」
ざわ、と騒めく教室。学校中に広まっている噂だが、やはり知っていても驚くは驚くのか。
「2人目、今井遼」
はい、とまたもや後ろで椅子を引く音がする。
確か遼はあれだ、健康安全委員。斗亜は学習で、亜美は結局何にしたんだろう?
ーあれ?
ふと、違和感に気づく。斗亜と亜美は他クラスだ。
立候補者は3人……じゃあ、後1人は?
「3人目、河野真依」
………は?
私は、返事どころか固まって動けない。なんで?条件守ったよね?立候補書とか書いてないんですけど?
硬直状態の私にまどかが顔を近づけて耳打ちした。
「斗亜ちゃん、立候補書出すの期限に遅れて提出してたよ?条件は、2だったよね?しょうがないから、私が書いて出しておいてあげたの。…あっ、もちろん図書情報委員だから安心してね」
…………………。
「はあああぁぁぁぁぁ!?」
月曜日。
のどかな田舎町に、私の絶叫が響いて、こだました。
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