そして僕等は絡み合う

藤見暁良

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宮脇 詞の場合

事件、発生!

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 撮影翌日――――先ずは店長に、昨日の報告をした。 


「……てな感じで、最終的には私も撮影されちゃったんですが、それはお遊びかと思いますので、ここだけの話でお願いします」
「ん~分かった! まっ滅多に出来ない経験だったね!」
 然して驚いてない、店長に疑問符を投げかける。
「まさか……店長もグルじゃないですよね?」
「なっ! そんなのグルって、どうすんの!」
 そうは言ってるが、目が泳いでるし! 怪しい!
「店長~!」
「はいはい! 売り場に戻~る!」
 誤魔化した! 益々、怪しい!
 ぶうたれながら売り場に戻ると、柴多が私を見て何か言いた気だった。
「柴多~何かあった?」
「あぁ……昨日どうだったのかなって……」
 柴多、気にしてくれてたんだ!
 乱れた服を畳み直しながら、当たり障りなく話していく。
「なんてことは、ないよ~!見学させて貰って、最後はウチの服のコーディネートしたんだ!」
「コーディネート……誰に?」
「えっ!」
 そんなこと聞かれるなんて思わず驚いて柴多を見ると、表情が妙に固い気がした。
「あっ……高橋さん……だよ」
「高橋さん? 上手くいったの?」
 昨日の夢の世界が頭を過り、テンションが上がっていく――――。 
「うん! それが高橋さんって案外凄くってさぁ~! ちょっと見方が、変わったよ!」
「……そう……良かったな」
 あれ――――今日の柴多、何か変だな?
「柴多……体調でも悪いの? 元気無くない?」
 すると柴多は、いつになく苦い顔を見せた。
「嫌な予感がしたんだよ……」
「へ?」
 本当に大丈夫かな?
「ゴメン……ちょっと在庫見てくる……」
 その時の私は、まだまだ事の重大性なんか解りはしなかった――――。


◆◇◆◇◆◇

 撮影から、三週間くらい経った――――。
 高橋さんから、メールや電話は特に来てない。最近、店頭にも現れてないみたいだ。
 連絡先交換してデートしよう言っておいて、何だろうかこの放置具合わっ! 別に、いいんだけどさぁ~! 撮影の真相くらい、知りたいじゃん!
「おはようございま~す。」
 遅番だが基本的仕事に入る時には、『おはようございます』と言う。
 普段は、同じ返事が返ってくる筈なのだが――――
「宮先輩!見ましたよ今月のMen's Moda!」
 レディース売り場で一緒だった、野上ちゃんが興奮気味で言って来た。
「あっ! こないだ撮影見学をした奴だけど……見たって、何を?」 
「え~! 知らないんですか! メンズフロアだけじゃなく、このビル全体話題ですよ!」
 物凄く、嫌な予感がしてきた――――。
「な……だから何?」
「高橋樹とのツーショットです! しかも雑誌、表紙になってますよ!」
「はぁ~!?」
 何だってぇ――――!!
「マジ! 知らないよ! 聞いてないし!」
「これですよ!」
 野上ちゃんが、雑誌を見せてくれた。
「なっ……」
 そこには確かに、高橋さんと撮影した作品だった。
 でも、こんな事になるなんて、考えてもみないじゃん!
「あ……有り得ない…」
 ワナワナしてる私に、野上ちゃんは目をキラキラさせている。
「えっ! でもこの宮先輩、めちゃめちゃカッコいいし、綺麗じゃないですか~。何かメンズも女性が着れちゃいそうだし、絶対に興味持ちますよ!」
「へっ……そう思うんだ。」
 野上ちゃんの感想が、衝撃的だった――――。
「とにかく……売り場に……」
 自分を落ち着かせて、従業員控え室を出ようとした私に、野上ちゃんが――――
「宮先輩~! 後でサイン下さいね!」
 ――――と、楽しそうに言うのだった。


 恐る恐る売り場に出ると、明らかに客が多かった。
「いらっしゃいませぇ~」
 いつもだったら元気よく言うが、思わずボソボソとなってしまう。
「あっ! 雑誌の人じゃない!?」
 それまで柴多や他の店員が相手してたお客が、一気に押し寄せて来た。
「雑誌見ました~!」
「高橋さんが着てるシャツどれですか!」
「女性でも着れるのありますか!」
 状況を把握するだけでも精一杯なのに、次々と対応に追われる。

「詞! 他に手伝うのは!」
「宮脇さん、あの方言われた通りにしましたよ!」
「有難う! 次なんだけど~!」
 柴多や他のスタッフがフォローしてくれ、1日を何とか切り抜けた。


 ビルの閉店時間で、ようやく落ち着く。早番の人まで最後まで、残る羽目になってしまった。
「すみませんでした」
 知らなかったこととはいえ、自分がらみで皆に迷惑を掛けてしまった。申し訳なくて、頭が床に付きそうな勢いで頭を下げる。
「え~! 謝る事は無いよ!途中パニックだったけど、久々楽しかった!」
「バーゲンとは、明らかに違うしな。」
「女性客まで試着してくって、不思議だったし~」
 うっ! 皆、優し過ぎでしょ!
「有り難うございました!」
 泣きそうになりながら、差塩頭を下げると――――
「雑誌の件……説明してくんない?」
 ちょっと強張った声で聞いて来たのは――――柴多だった。
 そこまでは話してなかったから、機嫌損ねちゃったのかな?

「あっ……それは……」
「柴多、らしくないな! 俺から説明するから」
 空気を察してか、店長がフォローに入ってくれた。
「店長!」
 やっぱり、経緯・・・・いきさつ知ってたんじゃん!
「高橋さんから、宮ちゃんを撮影に連れて行きたいって打診された時、もしかしたら彼女も撮影するかもしれないとは言ってたんだ。宮ちゃんは、そこまでは知らせておかなかったけど」
「そうだったんですか~!」
「高橋さんが、宮ちゃんにはサプライズだからって」
 店長は笑ってるけど、結果この状況だ。確かに売上は上がるかもしれないが、一過性に過ぎないんじゃないだろうか――――。
「ゴメン……柴多。皆の仕事に支障きたすよね」
 高橋さんが仕組んだ事とはいえ、私も考えが甘かったと思い反省する。
「そうじゃなくて……」
「え? じゃあ、何?」
 柴多を見ると、何か物言いたげな顔をしている――――。
「柴多……」
「店長~清算終わりました~!」
「おぉ! 凄い、売上っ! 正に宮ちゃん効果だね!」
「そんなにですか!」
 私は売上確認を見に走り寄って行ったが、その背中に投げられてた柴多の視線を気にしないようにしていた。

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