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第五章 もっこもこカフェパワー全開!

優しさと決意

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 フロアの仕事は案の定忙しく――――
 タルトの人遣いの荒さも予想通り酷かった――――。
 隅っこの観葉植物どころではないじゃないかぁぁぁ――――!

 ステラさんの指示では、『今日は出来る範囲で接客のサポートをしながら仕事を覚える』との指示だったのに、引っ切り無しにタルトが俺ばっかに使いっパシリをさせてくる。
「おい、下僕の樹木! 吾輩のお客様がお茶を所望しているにゃ!」
「はい! 少々お待ちください!」
「下僕の樹木、さっきオーダーしたフルーツタルトケーキのはまだなのかにゃ」
「はい! 確認してきます!」
「下僕の樹木、むちむち肉球白玉あんみつも追加にゃ」
「はい! 畏まりました!」
「下僕の樹木、笑える話をするにゃ~」
「はい! 笑えるはな……なんでやねん!」
「……つまらないにゃ~」
 ――――と、こんな風にまるで親の仇かのように、タルトの俺への扱いが酷い。もしかして俺は知らず知らずに、本当にタルトの親の仇になでもなっていたのかもしれないとの錯覚さえ起きそうだった。
 
 タルトの俺への扱いには腹が立つが、一つだけ嬉しいこともあったりもする。 
「あははは~! 面白いじゃん!」
「タルト君、ちょっと無茶ぶり過ぎるよ~!」
「樹木君、気にしなくて大丈夫だからね」
「タルト君、樹木君に甘えてるでしょ~」
 タルトのお客さんが、俺に同情してくれているのか、フォローを入れてくれるのだ。
お客様にフォローして貰っている俺も正直情けないけど、タルト以外の店内の人たちが俺を応援してくれた。 
「樹木君、応援するから、頑張って!」
 ジィィィ――――ン! 人の優しさが、こんなにも身に染みるのは初めてかもしれない。嬉しくて泣けてきそうだ。
「すみません。ありがとうございます! 頑張ります!」
 とはいえ、このままでは全然皆のサポートへ回れない。まぁ元々、今まで俺が居なくても営業していたのだから、手伝おうとするだけ邪魔なのかもしれないけど――――。
 俺は皆に頭を下げて、キッチンに『むちむち肉球白玉あんみつ』のオーダーを入れに向かった。

「あんみつ入るっちゅ!」
「肉球むちむちっちゅ!」
 キッチンカウンターに行くと、擬人化しても可愛い双子がニコニコしながらオーダーを受けてくれた。そんな二人に、気持ちがほっこりして和む。
「樹木。これアンニンとカカオのテーブルの分、持って行ってくれ」
 バウムさんがタルトのオーダーを作る間に、他のテーブルのメニューの配膳をちょいちょい入れてくれる。これもちょっとした気分転換になって有難い。
「じゃぶじゃぶ~じゃっぶじゃぶ~るるるる~」
  へんてこりんだけど陽気なタフィーさんの鼻歌も、ずっと聞いていると耳が慣れてきて楽しくなってくる。
何だかさっきまでここで作業していたせいもあってか、物凄く懐かしさを感じてしまうな――――。

 バウムさんに指示された通り、先ずはアンニンのテーブルにデザートを運ぶ。まだ慣れななくて、テーブルにデザートとトッピングを置いていく手が若干震えてしまう。
「お待たせしました。『プルプル絹ごし杏仁豆腐』です」
「初めてだと緊張するよな」
「頑張れ、新人君!」
 料理を運ぶ度に、各所でお客さんがエールを送ってくれる。これもきっと日頃の皆の接客が素晴らしいから、お客様も優しくしてくれるのかもしれない。
「ありがとうございます!」
 一礼をして次はカカオの所に運ぼうとしたら、アンニンがそっと耳打ちしてきた。
「ウチらの方は自分たちで、何とかするみゃ~。タルトの方、頑張るみゃ~」
「え……」
 驚いてアンニンに目を合わせると、パッチリとした猫目でウインクしてきた。途端、胸の奥が軽くバウンドする。
擬人化バージョンのアンニンはセクシー美女なだけに、本来の姿を知っていても照れてしまうではないか。
「あ、ありがとう」
 若干顔を赤らめながら小さい声でお礼を言って、慌ててカカオのテーブルに向かった。
「お待たせしました。『齧り付きたくなるスペシャルソースで焼いた骨付き肉』です」  
 イメージを湧かせるためかもしれないけど、メニューの中にはやたら長い名前のものもあって、名前を言うだけでも精一杯で殆ど棒読みである。
「ふふふ、その口調も面白いわね」
「これからの成長が楽しみですねカカオさん」
「はい、わたくしも樹木には凄く期待していますわん」
 おおおお! ここのお客様も、やっぱり優しい。カカオが紳士だからか、お客様は貴婦人みたいに上品だ。
「ありがとうございます。以後お見知りおきを……」
 手が空いたのもあって深々と頭を下げつつ、口調も雰囲気に釣られて丁寧になっていた。
 そんな俺に合わせて頭を下げたカカオが、アンニン同様耳元で囁いてくる。
「わたくしの方はオーダーも早くないから、自分でなんとか出来ますわん」
「あ……すみません」
「無理しないようにわん」
「はい」
 カカオもタルトにパシらされている俺に気を遣ってくれていた。本当に皆何処までも優しい――――。
 皆の優しさに応えられるよう、『打倒、タルト!』で戦い切ってやる!

 俺の目標は確実に、間違った方向に進みそうになっていた――――。
 

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