35 / 40
第五章 もっこもこカフェパワー全開!
優しさと決意
しおりを挟む
フロアの仕事は案の定忙しく――――
タルトの人遣いの荒さも予想通り酷かった――――。
隅っこの観葉植物どころではないじゃないかぁぁぁ――――!
ステラさんの指示では、『今日は出来る範囲で接客のサポートをしながら仕事を覚える』との指示だったのに、引っ切り無しにタルトが俺ばっかに使いっパシリをさせてくる。
「おい、下僕の樹木! 吾輩のお客様がお茶を所望しているにゃ!」
「はい! 少々お待ちください!」
「下僕の樹木、さっきオーダーしたフルーツタルトケーキのはまだなのかにゃ」
「はい! 確認してきます!」
「下僕の樹木、むちむち肉球白玉あんみつも追加にゃ」
「はい! 畏まりました!」
「下僕の樹木、笑える話をするにゃ~」
「はい! 笑えるはな……なんでやねん!」
「……つまらないにゃ~」
――――と、こんな風にまるで親の仇かのように、タルトの俺への扱いが酷い。もしかして俺は知らず知らずに、本当にタルトの親の仇になでもなっていたのかもしれないとの錯覚さえ起きそうだった。
タルトの俺への扱いには腹が立つが、一つだけ嬉しいこともあったりもする。
「あははは~! 面白いじゃん!」
「タルト君、ちょっと無茶ぶり過ぎるよ~!」
「樹木君、気にしなくて大丈夫だからね」
「タルト君、樹木君に甘えてるでしょ~」
タルトのお客さんが、俺に同情してくれているのか、フォローを入れてくれるのだ。
お客様にフォローして貰っている俺も正直情けないけど、タルト以外の店内の人たちが俺を応援してくれた。
「樹木君、応援するから、頑張って!」
ジィィィ――――ン! 人の優しさが、こんなにも身に染みるのは初めてかもしれない。嬉しくて泣けてきそうだ。
「すみません。ありがとうございます! 頑張ります!」
とはいえ、このままでは全然皆のサポートへ回れない。まぁ元々、今まで俺が居なくても営業していたのだから、手伝おうとするだけ邪魔なのかもしれないけど――――。
俺は皆に頭を下げて、キッチンに『むちむち肉球白玉あんみつ』のオーダーを入れに向かった。
「あんみつ入るっちゅ!」
「肉球むちむちっちゅ!」
キッチンカウンターに行くと、擬人化しても可愛い双子がニコニコしながらオーダーを受けてくれた。そんな二人に、気持ちがほっこりして和む。
「樹木。これアンニンとカカオのテーブルの分、持って行ってくれ」
バウムさんがタルトのオーダーを作る間に、他のテーブルのメニューの配膳をちょいちょい入れてくれる。これもちょっとした気分転換になって有難い。
「じゃぶじゃぶ~じゃっぶじゃぶ~るるるる~」
へんてこりんだけど陽気なタフィーさんの鼻歌も、ずっと聞いていると耳が慣れてきて楽しくなってくる。
何だかさっきまでここで作業していたせいもあってか、物凄く懐かしさを感じてしまうな――――。
バウムさんに指示された通り、先ずはアンニンのテーブルにデザートを運ぶ。まだ慣れななくて、テーブルにデザートとトッピングを置いていく手が若干震えてしまう。
「お待たせしました。『プルプル絹ごし杏仁豆腐』です」
「初めてだと緊張するよな」
「頑張れ、新人君!」
料理を運ぶ度に、各所でお客さんがエールを送ってくれる。これもきっと日頃の皆の接客が素晴らしいから、お客様も優しくしてくれるのかもしれない。
「ありがとうございます!」
一礼をして次はカカオの所に運ぼうとしたら、アンニンがそっと耳打ちしてきた。
「ウチらの方は自分たちで、何とかするみゃ~。タルトの方、頑張るみゃ~」
「え……」
驚いてアンニンに目を合わせると、パッチリとした猫目でウインクしてきた。途端、胸の奥が軽くバウンドする。
擬人化バージョンのアンニンはセクシー美女なだけに、本来の姿を知っていても照れてしまうではないか。
「あ、ありがとう」
若干顔を赤らめながら小さい声でお礼を言って、慌ててカカオのテーブルに向かった。
「お待たせしました。『齧り付きたくなるスペシャルソースで焼いた骨付き肉』です」
イメージを湧かせるためかもしれないけど、メニューの中にはやたら長い名前のものもあって、名前を言うだけでも精一杯で殆ど棒読みである。
「ふふふ、その口調も面白いわね」
「これからの成長が楽しみですねカカオさん」
「はい、わたくしも樹木には凄く期待していますわん」
おおおお! ここのお客様も、やっぱり優しい。カカオが紳士だからか、お客様は貴婦人みたいに上品だ。
「ありがとうございます。以後お見知りおきを……」
手が空いたのもあって深々と頭を下げつつ、口調も雰囲気に釣られて丁寧になっていた。
そんな俺に合わせて頭を下げたカカオが、アンニン同様耳元で囁いてくる。
「わたくしの方はオーダーも早くないから、自分でなんとか出来ますわん」
「あ……すみません」
「無理しないようにわん」
「はい」
カカオもタルトにパシらされている俺に気を遣ってくれていた。本当に皆何処までも優しい――――。
皆の優しさに応えられるよう、『打倒、タルト!』で戦い切ってやる!
俺の目標は確実に、間違った方向に進みそうになっていた――――。
タルトの人遣いの荒さも予想通り酷かった――――。
隅っこの観葉植物どころではないじゃないかぁぁぁ――――!
ステラさんの指示では、『今日は出来る範囲で接客のサポートをしながら仕事を覚える』との指示だったのに、引っ切り無しにタルトが俺ばっかに使いっパシリをさせてくる。
「おい、下僕の樹木! 吾輩のお客様がお茶を所望しているにゃ!」
「はい! 少々お待ちください!」
「下僕の樹木、さっきオーダーしたフルーツタルトケーキのはまだなのかにゃ」
「はい! 確認してきます!」
「下僕の樹木、むちむち肉球白玉あんみつも追加にゃ」
「はい! 畏まりました!」
「下僕の樹木、笑える話をするにゃ~」
「はい! 笑えるはな……なんでやねん!」
「……つまらないにゃ~」
――――と、こんな風にまるで親の仇かのように、タルトの俺への扱いが酷い。もしかして俺は知らず知らずに、本当にタルトの親の仇になでもなっていたのかもしれないとの錯覚さえ起きそうだった。
タルトの俺への扱いには腹が立つが、一つだけ嬉しいこともあったりもする。
「あははは~! 面白いじゃん!」
「タルト君、ちょっと無茶ぶり過ぎるよ~!」
「樹木君、気にしなくて大丈夫だからね」
「タルト君、樹木君に甘えてるでしょ~」
タルトのお客さんが、俺に同情してくれているのか、フォローを入れてくれるのだ。
お客様にフォローして貰っている俺も正直情けないけど、タルト以外の店内の人たちが俺を応援してくれた。
「樹木君、応援するから、頑張って!」
ジィィィ――――ン! 人の優しさが、こんなにも身に染みるのは初めてかもしれない。嬉しくて泣けてきそうだ。
「すみません。ありがとうございます! 頑張ります!」
とはいえ、このままでは全然皆のサポートへ回れない。まぁ元々、今まで俺が居なくても営業していたのだから、手伝おうとするだけ邪魔なのかもしれないけど――――。
俺は皆に頭を下げて、キッチンに『むちむち肉球白玉あんみつ』のオーダーを入れに向かった。
「あんみつ入るっちゅ!」
「肉球むちむちっちゅ!」
キッチンカウンターに行くと、擬人化しても可愛い双子がニコニコしながらオーダーを受けてくれた。そんな二人に、気持ちがほっこりして和む。
「樹木。これアンニンとカカオのテーブルの分、持って行ってくれ」
バウムさんがタルトのオーダーを作る間に、他のテーブルのメニューの配膳をちょいちょい入れてくれる。これもちょっとした気分転換になって有難い。
「じゃぶじゃぶ~じゃっぶじゃぶ~るるるる~」
へんてこりんだけど陽気なタフィーさんの鼻歌も、ずっと聞いていると耳が慣れてきて楽しくなってくる。
何だかさっきまでここで作業していたせいもあってか、物凄く懐かしさを感じてしまうな――――。
バウムさんに指示された通り、先ずはアンニンのテーブルにデザートを運ぶ。まだ慣れななくて、テーブルにデザートとトッピングを置いていく手が若干震えてしまう。
「お待たせしました。『プルプル絹ごし杏仁豆腐』です」
「初めてだと緊張するよな」
「頑張れ、新人君!」
料理を運ぶ度に、各所でお客さんがエールを送ってくれる。これもきっと日頃の皆の接客が素晴らしいから、お客様も優しくしてくれるのかもしれない。
「ありがとうございます!」
一礼をして次はカカオの所に運ぼうとしたら、アンニンがそっと耳打ちしてきた。
「ウチらの方は自分たちで、何とかするみゃ~。タルトの方、頑張るみゃ~」
「え……」
驚いてアンニンに目を合わせると、パッチリとした猫目でウインクしてきた。途端、胸の奥が軽くバウンドする。
擬人化バージョンのアンニンはセクシー美女なだけに、本来の姿を知っていても照れてしまうではないか。
「あ、ありがとう」
若干顔を赤らめながら小さい声でお礼を言って、慌ててカカオのテーブルに向かった。
「お待たせしました。『齧り付きたくなるスペシャルソースで焼いた骨付き肉』です」
イメージを湧かせるためかもしれないけど、メニューの中にはやたら長い名前のものもあって、名前を言うだけでも精一杯で殆ど棒読みである。
「ふふふ、その口調も面白いわね」
「これからの成長が楽しみですねカカオさん」
「はい、わたくしも樹木には凄く期待していますわん」
おおおお! ここのお客様も、やっぱり優しい。カカオが紳士だからか、お客様は貴婦人みたいに上品だ。
「ありがとうございます。以後お見知りおきを……」
手が空いたのもあって深々と頭を下げつつ、口調も雰囲気に釣られて丁寧になっていた。
そんな俺に合わせて頭を下げたカカオが、アンニン同様耳元で囁いてくる。
「わたくしの方はオーダーも早くないから、自分でなんとか出来ますわん」
「あ……すみません」
「無理しないようにわん」
「はい」
カカオもタルトにパシらされている俺に気を遣ってくれていた。本当に皆何処までも優しい――――。
皆の優しさに応えられるよう、『打倒、タルト!』で戦い切ってやる!
俺の目標は確実に、間違った方向に進みそうになっていた――――。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。
夢草 蝶
恋愛
侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。
そのため、当然婚約者もいない。
なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。
差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。
すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる