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第五章 もっこもこカフェパワー全開!
ランチパニック
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朝の基本的な準備が一段落して、お昼ご飯の時間になったのだが――――
「樹木、融けてるでちゅ」
「ぐんにゃりでちゅ」
「お疲れの様子ですね~」
「まぁ初日から頑張ったしな」
――――そう俺は、精魂尽き果ててテーブルに前のめりに肩とはから落ちていた。
午前の仕込みが終わってお昼の休憩となり、これから昼食時間となったのだが、テーブルの座席に腰を掛けた途端、一気に全身の力が抜けていってしまいぐったりとテーブルに突っ伏してしまったのだ。
本来なら昼食の準備も手伝うべきなんだろうし、こんな状態を一応人前に見せるのは社会人として失格とか言われても仕方ない。
だけど、そんなことを言ってくる者は誰も居なかった――――。
「樹木さん、お昼食べれますかね? 食べておかないと、後が持たないですし」
「ステラ、今はそっとしておけ。食べる気力もなさそうだ」
「ぐったりでちゅ」
「眠ね眠むでちゅ」
ヘタレ込んでいる俺の横で、ステラさんたちが気に掛けてくれながら、お昼ご飯を食べ始める。今日のお昼は、野菜ピラフに豆腐ハンバーグ添え、コンソメスープとフルーツサラダと、賄いとは思えないお洒落メニューだ。
漂ってくる美味しそうな香りが、鼻腔を刺激し、口の中に唾液が溢れ出て来た。
お腹だってめっちゃ空いている。食べたらきっと元気になる筈だ! だけど俺の意志とは裏腹に、身体が鉛のように重くて動けない――――。
慣れない仕事は、予想以上に俺の身体に負荷を掛けたのであった。
「た、食べます……」
お腹も空いているし、ステラさんが言ったように、食べておかないと午後の仕事に体力が持たない。
だけどキッチンの仕事は思いの外、指先まで酷使する作業が多くて、今でも若干手が震えている。
それでも何とか食べておこうと自分の分の食事を取りに、重い身体を押し上げるためにテーブルに両手をついて精一杯腕に力を込めた。
「よっこら……しょ」
この年にして、このフレーズを口にする日が来るとは――――。
そんな自嘲的なことを思いながらも、何処か誇らしくも思えている自分がいた。――――なんてちょっと情緒感に浸っていると、足に力が入らなくて膝から崩れ落ちていく。
「わっ!」
「樹木!」
「たっちゅ!」
「きっちゅ!」
「樹木さんっ!」
倒れ込む俺の耳に、皆の叫び声が飛んでくると同時に、目の前には床が近寄って来た。
転ぶ――――!!
咄嗟に両手を床に着けたいけど、倒れ込む時でさえ腕が重い。このままでは顔面か、胸から思いっきりダイブしてしまう。
襲ってくる痛みを想定しながら、俺は顔がくしゃくしゃになるくらいギュッと目を瞑って歯を食いしばった――――。
「タツキ――――!!」
ドッスゥゥゥン!! 勢いよく床に倒れ込んだ。途端、顔と胸に激痛が走り、『痛いっ!』――――って、ならない!?
いや寧ろ、ふかふかの絨毯の上に寝っ転がっているみたいな心地良さが身体を包み出す。俺に一体何が起きたんだ!?
恐る恐る、固く閉じていた目をゆっくり開けると――――
「大丈夫ですかわん?」
「危なかったっき~!」
俺の下には茶色の床――――ではなくて、栗毛色のふさふさの毛で覆われた、犬のカカオがいた。
「え……ど、どうして?」
「お昼食べに来たっき~。そしたら樹木がコケそうになっていたからビックリしたっき~」
動揺してパニッっている俺の背中を引っ張り上げるように、テーブルの上にからエプロンの紐を引っ張る猿のズコットもいる。
どうやら俺は、この二匹――――二人のお陰で、床へのダイブを免れたようだ。
「ブラボーでちゅ!」
「流石でちゅ!」
「樹木、大丈夫か?」
「樹木さん、お怪我はありませんか?」
見事な救出劇に小リスたちが感動して、俺の周りではしゃぎ出す。ステラさんとバウムさんも近寄ってきて、俺を支えて体勢を直してくれた。
床にヘタリ込みながら暫し呆然としてしまったが、徐々に思考が落ち着きを取り戻してくる。
「あ……ありがとうございます。カカオさん、バウムさん」
心配そうに前に座っている二人に、深々と頭を下げてお礼を伝えると、二人は嬉しそうに笑って返してくれた。
「怪我が無くて良かったわんです」
「危機一髪っき~!」
優しく笑って尻尾を振るカカオ。嬉しそうに指を立ててウインクするズコット。
このもこもこたちも、なんてカッコ良くて心強いんだ――――!!
「本当にありがとうございました。お二人は怪我はないですか?」
そうだ、俺よりも下敷きになってくれたカカオや、飛び出してくれたズコットの方に何かないか心配だ。正直俺が怪我しても、カフェには何の影響も及ぼさないけど、二人に何かあったら大変だ!
事の状況に一気に俺の顔は青ざめる俺の前で二人は顔を見合わせると、勢い良くクルクルと回り出した。
「全然、大丈夫ですわん」
「今日も元気っき~!」
すると漏れなくこの二人も、加わり出す。
「僕らも入るでちゅ!」
「楽しそうでちゅ!」
突如目の前で、もこもこメリーゴーランドが始まった。
ドタバタドタバタ――――! ワンコとお猿、小リスたちが楽しそうにクルクル回る。一気に賑やかな、ランチタイムになった。
「おいお前たち、早くお昼食べろ! 開店準備するぞ!」
――――けどバウムさんの一喝で、一瞬でもこもこメリーゴーランドは解体されたのであった。
「樹木、融けてるでちゅ」
「ぐんにゃりでちゅ」
「お疲れの様子ですね~」
「まぁ初日から頑張ったしな」
――――そう俺は、精魂尽き果ててテーブルに前のめりに肩とはから落ちていた。
午前の仕込みが終わってお昼の休憩となり、これから昼食時間となったのだが、テーブルの座席に腰を掛けた途端、一気に全身の力が抜けていってしまいぐったりとテーブルに突っ伏してしまったのだ。
本来なら昼食の準備も手伝うべきなんだろうし、こんな状態を一応人前に見せるのは社会人として失格とか言われても仕方ない。
だけど、そんなことを言ってくる者は誰も居なかった――――。
「樹木さん、お昼食べれますかね? 食べておかないと、後が持たないですし」
「ステラ、今はそっとしておけ。食べる気力もなさそうだ」
「ぐったりでちゅ」
「眠ね眠むでちゅ」
ヘタレ込んでいる俺の横で、ステラさんたちが気に掛けてくれながら、お昼ご飯を食べ始める。今日のお昼は、野菜ピラフに豆腐ハンバーグ添え、コンソメスープとフルーツサラダと、賄いとは思えないお洒落メニューだ。
漂ってくる美味しそうな香りが、鼻腔を刺激し、口の中に唾液が溢れ出て来た。
お腹だってめっちゃ空いている。食べたらきっと元気になる筈だ! だけど俺の意志とは裏腹に、身体が鉛のように重くて動けない――――。
慣れない仕事は、予想以上に俺の身体に負荷を掛けたのであった。
「た、食べます……」
お腹も空いているし、ステラさんが言ったように、食べておかないと午後の仕事に体力が持たない。
だけどキッチンの仕事は思いの外、指先まで酷使する作業が多くて、今でも若干手が震えている。
それでも何とか食べておこうと自分の分の食事を取りに、重い身体を押し上げるためにテーブルに両手をついて精一杯腕に力を込めた。
「よっこら……しょ」
この年にして、このフレーズを口にする日が来るとは――――。
そんな自嘲的なことを思いながらも、何処か誇らしくも思えている自分がいた。――――なんてちょっと情緒感に浸っていると、足に力が入らなくて膝から崩れ落ちていく。
「わっ!」
「樹木!」
「たっちゅ!」
「きっちゅ!」
「樹木さんっ!」
倒れ込む俺の耳に、皆の叫び声が飛んでくると同時に、目の前には床が近寄って来た。
転ぶ――――!!
咄嗟に両手を床に着けたいけど、倒れ込む時でさえ腕が重い。このままでは顔面か、胸から思いっきりダイブしてしまう。
襲ってくる痛みを想定しながら、俺は顔がくしゃくしゃになるくらいギュッと目を瞑って歯を食いしばった――――。
「タツキ――――!!」
ドッスゥゥゥン!! 勢いよく床に倒れ込んだ。途端、顔と胸に激痛が走り、『痛いっ!』――――って、ならない!?
いや寧ろ、ふかふかの絨毯の上に寝っ転がっているみたいな心地良さが身体を包み出す。俺に一体何が起きたんだ!?
恐る恐る、固く閉じていた目をゆっくり開けると――――
「大丈夫ですかわん?」
「危なかったっき~!」
俺の下には茶色の床――――ではなくて、栗毛色のふさふさの毛で覆われた、犬のカカオがいた。
「え……ど、どうして?」
「お昼食べに来たっき~。そしたら樹木がコケそうになっていたからビックリしたっき~」
動揺してパニッっている俺の背中を引っ張り上げるように、テーブルの上にからエプロンの紐を引っ張る猿のズコットもいる。
どうやら俺は、この二匹――――二人のお陰で、床へのダイブを免れたようだ。
「ブラボーでちゅ!」
「流石でちゅ!」
「樹木、大丈夫か?」
「樹木さん、お怪我はありませんか?」
見事な救出劇に小リスたちが感動して、俺の周りではしゃぎ出す。ステラさんとバウムさんも近寄ってきて、俺を支えて体勢を直してくれた。
床にヘタリ込みながら暫し呆然としてしまったが、徐々に思考が落ち着きを取り戻してくる。
「あ……ありがとうございます。カカオさん、バウムさん」
心配そうに前に座っている二人に、深々と頭を下げてお礼を伝えると、二人は嬉しそうに笑って返してくれた。
「怪我が無くて良かったわんです」
「危機一髪っき~!」
優しく笑って尻尾を振るカカオ。嬉しそうに指を立ててウインクするズコット。
このもこもこたちも、なんてカッコ良くて心強いんだ――――!!
「本当にありがとうございました。お二人は怪我はないですか?」
そうだ、俺よりも下敷きになってくれたカカオや、飛び出してくれたズコットの方に何かないか心配だ。正直俺が怪我しても、カフェには何の影響も及ぼさないけど、二人に何かあったら大変だ!
事の状況に一気に俺の顔は青ざめる俺の前で二人は顔を見合わせると、勢い良くクルクルと回り出した。
「全然、大丈夫ですわん」
「今日も元気っき~!」
すると漏れなくこの二人も、加わり出す。
「僕らも入るでちゅ!」
「楽しそうでちゅ!」
突如目の前で、もこもこメリーゴーランドが始まった。
ドタバタドタバタ――――! ワンコとお猿、小リスたちが楽しそうにクルクル回る。一気に賑やかな、ランチタイムになった。
「おいお前たち、早くお昼食べろ! 開店準備するぞ!」
――――けどバウムさんの一喝で、一瞬でもこもこメリーゴーランドは解体されたのであった。
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