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第二章 もっこもこカフェ営業中!

俺様タルト様

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 バウムさんのクリームシチュー効果のお陰か、気持ちが穏やかになって来た。
 思えばこの焼き菓子だって、一口齧っただけで幸せが口の中に広がっていくような気分にさせてくれる。美味しい食べ物って、それくらいの力があるし、美味しいものを作れるバウムさんは凄い人だ――――シロクマだけど。
 気を取り直して、引き続き見学を続ける――――。

 テーブルはサイコロの六の目のように配置されていて、窓際の真ん中のテーブルはタルトが担当している。飾られている花はブルー系だ。
 ブルーがタルトなんて何かカッコつけているみたいで、癪に障るなんて思ってしまうが、きっと今の俺はタルトに対抗心が芽生えているのだ。
 そんなことを感じつつ、マカロンちゃんとは別にもう一人の女子の方に目を向ける。可愛い系のマカロンちゃんとは対照的な、セクシーなお姉さんって感じだ。
 テーブルの花は赤系。着ている衣装も真っ赤なチャイナドレスで、スリットからチラリと見える足が細くて長い。体形が分かりやすいチャイナドレスから見て取れるスタイルが、めちゃめちゃ良い。男目線でこういってはなんだけど――――ナイスバディーです。
顔立ちはシャープで、クール系な美人だ。目はパッチリしているが、やや釣り目でどことなくタルトと似ている雰囲気があるような――――。
「アンちゃん、今日も素敵だね!」
「うふふ、当たり前みゃ。ウチはいつも美しいみゃ~!」
「うんうん! 流石アンニンちゃん!」
 チャイナドレスの子の名前は『アンニン』と言うらしい。もしかして『杏仁豆腐』なのかな? そして語尾は「みゃ~」なのか。見た目とのギャップ感がまた萌え要素なのかもしれない。
 ちょっとは余裕が持てるようになってきたのか、俺は何気に分析を始めていた。

 次に五つ目のテーブルの方の観察を開始する。ここのテーブルはイエロー系の花だった。
 色のイメージだろうか、このテーブル担当は他のもこもこたちよりちょっと陽気である。服装もタルトやカカオさんに比べてカジュアルだし、髪もスポーツ刈りまではいかないけどかなり短い。そして話し方――――。
「うっき~! うっき~! 今日はバナナパフェがお勧めだっき~!」
「てかズコットくん、いつもバナナパフェとか、バナナパンケーキばかり勧めてくるじゃん!」
「ズコットくんが、バナナが好きなだけでしょ~!」
「うきゃ! それはバナナ~!」
 ――――おやじか!! てかこの『ズコット』のもこもこの姿は、予想出来るぞ~!
 自分の頭の中に浮かぶズコットのイメージに、思わず口元に笑みを浮かべてしまう。
「なに、ニヤニヤしてるにゃ。気持ち悪いにゃ」
「なっ!」
 お客さんがいるんだから俺のことなんか放っておけばいいのに、タルトはわざわざ空いた皿を下げに近寄って来た。
いちいち言ってくる余計な一言がなければ、素直に感謝も出来るのにな~!
「お客様、放っておいていいのかよ……」
「ちゃんと断ってやってるにゃ。吾輩のお客様は、みんないい子たちだから大丈夫にゃ」
 言っていることは凄く感動的なのに、上から見下ろしてくる態度はやはり高慢ちである。
 だから嫌味の一つも言ってやりたくなるのだった。
「はいはい、良いご身分ですね~。タルト様は~」
「ふふんにゃ~。羨ましいからって、拗ねてるにゃ~」
「なっ!」
 にんまりと口端を上げて笑うタルトの勝ち誇った顔が、本当にムカつく! 今の顔、もこもこモードだと化け猫だからな! ――――って、言ってやりたいぃぃぃ!
 お客さんがいる手前そんなことは言える訳もなく、両手に握り拳を作って奥歯を噛んで、怒りを引き攣り笑いで誤魔化した。
「シチュー、ご馳走さまでした! 凄く美味しかったです! って、バウムさん・・・・・に伝えてくださいね! タルト様!」
 擬人化モードのイケメンタルトに敵う筈もない俺は、今言える精一杯の嫌味のつもりだった。
 ただ本当に、バウムさんのクリームシチューは美味しかったんだ――――。後で改めて、自分の口でバウムさんに伝えよう。
 それがせめてもの心の拠りどころだな~なんて思っていたら、皿をトレーに載せたタルトがジッと見詰めてきた。
 生意気な俺様に見つめられても嬉しくないのに一応美形なせいか、なんだか妙にドキドキしてしまう。
「な、なんだよ……お客様が待ってるだろ」
 恥ずかしくなってタルトの視線から目を逸らそうとしたら――――
「バウムさんの料理、最高にゃろ! 毎日食えたら幸せににゃるにゃ~!」
 そう言ってタルトは、今までに見せたことない極上の笑顔を見せた。

 ――――ドキュウゥゥゥン! 
タルトの最高の笑顔にハートを射抜かれた乙女になったみたいに、胸が高鳴ってしまった――――。
「間抜けにゃ顔だにゃ~」
 自分のときめきとタルトの不意打ちの笑顔の衝撃で固まっている俺の様子に、タルトは勝ち誇った笑みを浮かべてキッチンへ戻っていく。その背中を見送りながら、俺は自分自身に呆然としてしまう。
 いくらイケメンとはいえ、あのタルトにときめいてしまうとは――――バウムさんなら、気にならなかったのにぃぃぃ!

 次々と起こるショックな展開に、もはや自分でも訳わからなくなってきてることはだけは確かであった――――。
 
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