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27 伯母様対決

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 伯母様が帰って来たという知らせを受けて、会いに行く。

しばらくぶりに見る伯母様は、相変わらずお綺麗だが少し痩せたような気がした。



「ルイーゼ、おひさしぶりね。何か言うことがあるのかしら?」

伯母様はひらひらと扇で扇ぎながら、悠然と微笑んだ。



「ええ、伯母様どうして私を階段で突き落としたのかと、マリーを使って鹿蹄草を飲ませたのか、お聞きしてもいいでしょうか?」 



「あら、バレてしまったのね」

伯母様はそっと目を伏せるとひとつ息を吐いた。



「少し昔話をしても良いかしら? 

私ね、貴女ぐらいの時に恋人がいたの。下位の貴族だったけど侯爵家の跡継ぎの弟がいたから、父母に許されて結婚の約束をしていたわ。幸せだった」

伯母様はかつての恋人を想いだしたのか乙女のような表情を見せた。



「でもね、あなたのお祖父様とお祖母様は早くに亡くなったのは知ってるでしょう?

私も成人したばかりだし、貴女のお父様に至っては成人前だったわ。

若輩者で何が出来るかと侮られたんでしょうね。欺そうとする者、つけいって甘い蜜を吸おうとする者、取って代わろうとする者が次々と現れたの。

辛いことや悲しいこと、大変なことがたくさん遭ったわ。

私は弟と侯爵家を守りたかった。だから、愛する人と別れて爵家を守ることが出来る家に嫁いだわ。

わたくしは、貴女のお父様と二人、歯を食いしばって侯爵家を守って来たの。

ルイーゼ、貴族社会ではね、弱みを見せるとつけ込まれるのよ。



貴女とアランの結婚を反対したのは、長い間伝統を守ってきた侯爵家に子爵家の血を混ぜたくなかったのも、もちろんだけど、一番はワガママばかりで侯爵家に生まれたモノとしての義務を果たさない貴女とたかが詐欺師に嵌められてしまう子爵家出身で好きな婚約者を簡単に奪われてしまったアランとでは、侯爵家を守れないと思ったのよ。

そうして守って来た家が貴女の代で無くなるんじゃないかと思うとどうしても許せなかったの。



ワガママで何も出来ない貴女だから、貴女のことを守ってくれる後ろ盾もあってしっかりした有能な婿が欲しかった。

弟の言うようにアランが成長する可能性もあるから、それを見極めるまでは妊娠させたくなかった。



夜会で貴方とアランが踊る姿を見て、私とかつての恋人を思い出して胸が苦しくなったの。

そのあと妊娠したと聞いて貴女と話をしようと逢いに行ったら、貴女ったらちょっとしたアランの噂を聞いて逃げ出してるじゃない。

私が出来なかった幸せを掴んだのに、そのくらいで逃げ出すなんて情けないふがいないと思ったら、訳が分からなくなって気がついたらつい手が出てしまっていたの。



本当にごめんなさい。



ちょっと脅かすだけのつもりが、気を失って倒れた貴女を見て血の気が引いたわ。貴女にも弟にも会わせる顔が無くて、避暑地に逃げ出してしまったの。流産してないのよね? 」



「ええ、流産はしておりません」

妊娠してないので流産するわけないわな。



「よかったわ……」

伯母様が心底ほっとした声を出す。



伯母様には、反省してもらうためにも妊娠してないことはしばらく黙っておこう。



はあ、ワガママばかりで侯爵家の責務を果たさないで、アランの噂話で動揺する私がふがいなくて、伯母様はつい手が出たってこと?

そして、アランだと不安だから妊娠しないよう勝手に我が家の家族計画に手を出してたわけね。

小娘は、好きな人じゃ無くしっかりした婿を取れってことよね。

前世でも、友達が旧家の一人娘で婿に来てもらえる人じゃないと結婚できないと嘆いてたわ。

娘の幸せより家が大事なのねって腹が立ったっけ。

伯母様が父と家を守るために苦労したのは分かるけど、個人の幸せより家を守れっていうのは頷けないわ。







「伯母様、家を大事に思う伯母様の気持ちも分かります。でも家のために個人の幸せが犠牲になるって違うと思うんです」



「まあ、侯爵家が無くなってもいいというの?」

伯母様が眉をつり上げる。



「いえ、今まで家のことを何もしてこなかったことは謝ります。これからお父様について仕事を学びますわ。私がしっかりした有能な女侯爵となって家を守ります。社交のことは伯母様一から教えて下さいませ。

私、家も自分の幸せも両方取りますわ!」



「まあ、家も自分の幸せも両方だなんて、ワガママな貴女らしい発言ね。

今まで何もしなかった貴女にできるのかしら?」

伯母様が、疑わしそうな目を向ける。



「これからが見物ね。そうね、少しだけ猶予をあげるわ。ダメなら貴女を廃嫡するわよ」



「ええ、そうして下さいませ。ダメなときはエディお兄様がお継ぎになれば良いわ」



とりあえず、今後、私やアラン、マリーに手を出さないことを約束してもらった。

今後何かあったら、階段から突き落とされたことをお父様に報告すると言ったら、父様溺愛ブラコンの伯母様は目を白黒させて黙って頷うなずいた。





「伯母様、私ずっと、父が下位の家のアランとの結婚をどうして許してくれたのか不思議に思ってました。今日分かりましたわ。私に伯母様と同じ辛い想いをさせたく無かったんですね」



伯母様はハッとした顔をして、

「……あの子ったら……」というと扇で顔を隠した。

伯母様の肩が小さく震えていた。



伯母様に社交術の指導もして頂けることになった。

こちらは、ビシビシ行くそうだ……。やる気満々だ。



伯母様に頼まない方がよかったかも?と、早くもちょっと後悔している。

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