上 下
20 / 28

20 離別

しおりを挟む


 幼馴染みに婚約破棄を告げられたとき、僕は何も出来なかった。

お金を集めることも、彼女を取り戻すことも……

何も出来ないまま、僕ら家族を救うために彼女は遊び人のフィリップと婚約した。



ずっと後悔してきた。









 だから僕は権力と財力を求めた。

ヴェルザー商会に教えを請い、領地の産業育成、投資を行い領地経営を立て直した。

借金を返済し、金を貯めた。

死ぬほど頑張った。だが、婚約破棄の違約金には足りないし、子爵家の僕に伯爵家に婚約の破棄を求める権力などない。

来年には、イレーヌとフィリップの結婚が執り行なわれる。

僕はあせっていた。



今やっている港の整備が上手く行けば、莫大な利益を生むだろう。

そうすれば欲しかった財力と権力が手に入る。

だが、資金も時間も彼女の結婚までに間に合いそうにない。

結局間に合わないのか、僕は焦っていた。



 ちょうどその頃、侯爵家の一人娘ルイーゼとの縁談が持ち上がった。

我儘な令嬢が僕の外見を気に入ったらしい。

彼女と結婚すれば、欲しかった権力と財力の両方が手に入る。

イレーヌと一緒になることは出来なくなるかもしれないが、せめて彼女が嫌な男フィリップと不本意な結婚をすることを阻止することはできそうだ。









**













「私ね、ずっと貴方に謝りたかったの」

イレーヌは僕をじっと見つめる。昔よりずっと大人になった。綺麗だ。



「貴方の意見も何も聞かずに勝手に婚約破棄して、フィリップ様と婚約したこと」



「子供だったの。勝手にそれが皆の幸せになると思っていたの」



「ずっと考えてたの。貴方と別れて毎日、どうしたら良かったのだろう選手権を開催したわ」

イレーヌがクスリと笑う。



子供の頃、イレーヌと僕は上手く行かないことがあると二人でどうしたら良かったのだろう選手権を開催した。

たいていは、二人でグダグダとよく分からないことを言い合うだけで終了したけど。





「僕も開催したよ。ずっと、どうすれば良かったのか毎日考えたよ」



「同じ結論だったとしても、ちゃんと皆で話し合って答えを出さないといけなかったのよ」



「もしかしたら、もっと違う道があったのかも知れないわ」



「それにねアラン、貴方のためだけに婚約破棄したわけじゃないの」

意外なことを彼女は言う。



「私ね、貴方のお母様が私のもう一人の母だったの。だから、アランの家が経済的に困ってお母様のお薬が買えなくなってしまうのはいやだったの」

イレーヌと僕の母は本当の親子のように仲が良かった。母の心臓の持病を心配してくれていたんだ。



「イレーヌ、やっと財力と権力を手に入れた。君が不本意な結婚をする必要はないんだ」

ずっと後悔してきたんだ。何も出来なかった。



「今なら、フィリップとの婚約を破棄できる」



「君を幸せにしたいんだ」



「ふふ、みんな同じ事を言うのね。私が幸せじゃないと思ってるのね」



「私ね、貴方と別れてフィリップ様と婚約したとき、遊び人なんてキッチリ締めてちゃんと幸せになるって誓ったの」

ちょっと得意げにイレーヌが言う。

確かに彼女ならキッチリ手綱を締めそうだ。ああ見えて彼女はしっかりしてるのだ。



「女は強いのよ。それにフィリップ様、遊びはお止めになったの。たとえまた遊んでもキッチリ締めるわ。私ね、ちゃんと幸せになる」



さっき、フィリップをみて『こわかった…』と涙をこぼしたイレーヌを見て、嫌な予感がしたんだ。



イレーヌは自分の母を亡くしてからずっと僕の前で泣いたことはなかった。

イレーヌが泣くなんて、もう二人の間に確かな絆ができつつあるんだ。





「だから、貴方の意見も聞かず勝手に婚約破棄してごめんなさい」



イレーヌが謝ることなど何一つ無いのに。

謝るのは何も出来なかった僕だ。



「私ね、貴方に憎まれたかったの。お金のために貴方を捨てた女って。

そうしたら、貴方に一生覚えていてもらえるって思ったの。子供だったのよ。

でも、もういいの」





最後に彼女はこう告げた。













――私のことなど忘れて。そして幸せになって









しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです

狼蝶
恋愛
 転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?  学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?

処理中です...